船出<エライザ視点>
<エライザ視点>
エライザは、東の大陸に向かう大型客船のデッキに上がってきた。
学院のある大陸はもう海の向こうに見えなくなっている。見事な秋晴れの午後、船のデッキには爽やかな海風が吹いていた。
アリアが行うフェニックス復活の儀式が三週間後に迫り、カイル、ラピスの他にエライザとローガン先生もアリアの護衛で火の神殿に向かうこととなったのだ。
(やはり私ほどの攻撃魔法のスキルの持ち主って、周りを見てもあまりおりませんし、まぁ、どうしてもって頼まれてしまいましたら致し方ありませんわね)
エライザは結構乗り気でこの旅に参加していた。
エライザは元々高い魔術の才能を秘めていたが、時々ラピスたちの魔獣狩りに参加することにより魔法の威力を高め、今では学院でも屈指の四大魔法の使い手になっていた。
(それにしても、ラピス様はどこに行ってしまわれたのかしら?
私二日も船に乗っていて、もう飽きてしまいましたわ)
エライザがデッキを歩いて行くと、建物の向こうにラピスとカイルが話しているのが見えた。
ラピスは少し硬い顔でカイルに話している。
「カイル、今日は皆さんに私の事を伝えようと思います」
「そんな心配そうな顔をするな。
大丈夫だ」
カイルがラピスの頬に優しく手を当て、頬を撫でた。
それを見てエライザは思わず建物の影に身を隠してしまった。
(カイル殿下・・
ななななんですの! その小鳥に触れる様な頬の触り方は!
しかもなんてお優しい眼差し・・
カイル殿下が甘すぎる・・ラピス様(♂)に・・)
(ど・・どういうことなのでしょう?
これは・・BoysによるLove・・
どうしましょう。妄想が止まりませんわ。
カイル殿下とラピス様って学院でもご同室でいらっしゃるわよね・・
どうしましょう。妄想が止まりませんわ!!
美形二人による禁断の恋?)
エライザの頭の中にめくるめく妄想が爆破し、何か違ったトキメキが心を打ってしまったのであった。
夕方になり、船の外には見事なピンク色の夕焼けが広がっていた。
エライザたちはカイルに呼び出され、船室の一室に集まった。
アリア達一向はこの大型客船に二室の船室を借りているが、それはかなり豪奢な作りとなっている。集まった一室は、三台の十分な広さのベッドに、中央には磨き上げられた木製のテーブル、重厚なソファーが置かれていた。
エライザはソファーに座り、少し硬い表情のラピスの顔に目をやった。
(そういえば、午後デッキでラピス様が何か深刻そうな顔でカイル殿下とお話ししていましたわね。なんのお話かしら?)
皆がテーブルの周りに集まると、ラピスが硬い顔で話し始めた。
「集まってもらってありがとうございます。
ちょっと私の特殊な体について皆さんにお話ししておこうと思いまして」
アリアが「?」とラピスを見上げる。
「実は、満月の夜になると体が変化してしまうのです」
「お・・狼男ですか?」
アリアが目を見張ってラピスに聞き返す。
「いや、そんな危険なものではないのですが、女性になってしまうのですよ」
ラピスが少し笑った。
「多分、もうそろそろ・・」
ラピスがそう言うと間もなくラピスの体の変化が始まり、ラピスはそっと目を閉じた。
ローガン先生が研究者らしい好奇心を隠せず、
「おぉ・・なんと珍しい」
と目をみはる。
ラピスの体の変化が終わりラピスが目を開けると、アリアが目を輝かせてラピスを見ていた。
「ラピス様、お綺麗ですわ」
ラピスは硬い顔で少し笑った。
エライザは女性化したラピスの姿を見て、舞踏会でラピスが去った後、廊下から心配そうにエライザを見ていたプラチナブロンドの美しい女性を思い出した。
(ああ、あの方はラピス様だったね)
「この体ですと、かなり高位の回復魔法と補助魔法を使えます。
万が一の場合は何かの役に立つかもしれません」
ラピスが真面目な顔で話をしていると、
エライザが立ち上がり、ラピスの手を取った。
「ラピス様、お着替えを手伝わせてください!」
エライザは鼻息も荒く、
(ラピス様の女性姿、ものすごく綺麗ですわ! これは・・飾り付けてみたい!)
と、ラピスを隣の船室に連れて行った。
ラピスがもう一室の船室のソファーに座り待っていると、船室のドアから両手にたくさんのドレスやら小物やらを抱えたエライザとアリアが帰ってきた。どうやらこの豪華客船のレンタル衣装を物色してきたらしい。
「エライザ嬢・・何着持ってきたのですか?」
ラピスが若干固まる。
「いえ、アリア様と色々論争になりまして、私としてはテーマ『月の女神』が良いと思うのですが、アリア様的には『深窓の令嬢』がよろしいと・・」
そこからラピスは脱いだり着たりポージングを取らされたり、エライザとアリアの着せ替え人形として楽しまれてしまった。
「エライザ嬢・・私はもう、疲れてしまいました・・」
げっそりしたラピスを横目に、エライザは渾身の出来栄えに目を輝かせていた。
「アリア様、ほらやはり『月の女神』のテーマがラピス様の魅力を最大限に引き立てると思いませんこと?」
「エライザ様、その通りですね!」
アリアも目を輝かせている。
ラピスは、少し透け感のある乳白色の生地が何層にもランダムにひだを折って重ねられた、すらっとしたフレンチスリープのドレスにブロンズの腕輪を重ね付け、髪は一部房を残してオリーブの葉をモチーフにしたブロンズの髪飾りで結い上げられていた。
「なんとかディナーの時間に間に合いましたわね」
エライザが満足気に一息ついた。
三人がレストランに入って行くと、レストランにいた人々がラピスを見てため息をついた。そこには、そこにだけに月の光が当たっているような、たおやかな女神が現れたような、その伏せ目がちな深淵な瞳に吸い込まれるような女性が立っていた。
エライザ達は窓際の席で食前酒を飲んでいるカイルとローガンのところへ向かった。
「ローガン先生、カイル殿下お待たせしました」
エライザが『どうよ!』とばかりに最高傑作のラピスをお披露目すると、
ローガン先生は目を見張り、
「これは・・美しい」
とため息をついた。
カイルはただ時が止まったようにラピスを見つめるだけで、言葉が出ないようである。
(あら、カイル殿下、放心してラピス様のことを見つめることしかできないなんて、ここはすかさず『美しい』と褒めなくては!
でもまぁ、カイル殿下はラピス様が男の姿でも、女性の姿でも愛していらっしゃるのね。
他ならぬ敬愛するカイル殿下とラピス様のカップリング、このエライザ・アンバーが全力で応援いたしますわ!)
エライザは決意を新たにするのであった。
16話まで読んでいただき、ありがとうございます!
残り5〜6話でクライマックス→完結に持っていく予定です。
最終話まで面白くかけるよう頑張ります!




