禁断の..<カイル視点>
<カイル視点>
午後の気だるい空気の中、私はレンガ作りの研究棟へ向かっていた。
よくアリア嬢と一緒にいくローガン先生の研究室は、薬学的効能を持つ植物、魔獣の生態などについての研究調査が行われている。
先日遭遇したブラッディベアの弱点などを教えていただこうと思ったのだ。
研究室の少し開いているドアをノックし中に入ると、ハッとするアリア嬢と、彼女のすぐそばで甘い夢から覚めたばかりのような顔をしたローガン先生が目に入った。
アリア嬢はこちらに背を向けたまま固まっている。
ローガン先生も目が泳いだままだ。
(しまった。来てはいけないタイミングで来てしまった。
何も見なかった風に話を続けた方が良いのか・・何も言わず立ち去った方が良いのか・・)
「ローガン先生、魔獣の生態についてお伺いしたいことがあったのですが・・
資料を持ってき忘れました。資料を持って再度お伺いします」
私は気まずい空気の研究室から出て行った。
そういえば、最近アリア嬢はローガン先生の話をよくしていた。ローガン先生もアリア嬢と話をする時、妹を見るような優しい眼差しでお話されていた。お二方はお互い想い合っておられたのか。
ローガン先生は少し神経質なところもあるが、若くして才覚を現した素晴らしい先生だ。アリア嬢が惹かれるのも納得がいく。これからは研究室に行くタイミングをよく考えなければ。
私は今日は研究室に行くのを諦め、剣の訓練場へ足を向けた。
剣の訓練場では、いつも通りラピスが一人、剣を振るっていた。
剣技は初めは圧倒的に私の方が上であったが、最近ラピスがずいぶん腕を上げてきている。負けたくはない。
「ラピス、剣の相手をしてくれ」
そう声をかけると、ラピスがこちらを振り返った。
私はその顔に一瞬見入った。
ラピスはあの方にものすごく似ているのだ。
汗で髪が張り付いた美しい顔に私は息を飲んだ。
「カイル、良いところに来てくれました」
ラピスが笑顔で答える。
私たちは簡易の防具をつけ、訓練場で木刀を構えた。
「今日はカイルに勝てる秘策を考えてきたんです」
ラピスが少し真剣な表情をする。
「私が連勝だからな」
私は余裕で受けて立った。
均衡を破り、まず私から攻撃を仕掛けた。
上段からラピスに剣を振り下ろすと、ラピスが剣で私の攻撃を右にいなした。
私は左足で体重を支えつつ、そのまま剣を斜めに切り上げた。
ラピスは体を少し後ろに動かしただけで私の剣撃をそのまま体にくらうが、
右足にグッと力を入れると、右から斜めに私の体を切りつけた。
「ぐっ・・」
私は衝撃に膝をついた。
「やっとカイルに一撃を入れることができました。肉を切らせて骨を断つ作戦です。
カイルは剣を切り上げた直後に隙ができます」
ラピスが少し痛そうな顔のまま言った。
確かに・・この間ブラッディベアにも、剣を切り上げた直後に腹に攻撃を受けて致命傷になった。
「参った。確かにそうだな」
ラピスに回復魔法をかけてもらい、私たちは日が暮れるまで剣の練習に励んだ。
夜になり明かりを落とした部屋で、私はテーブルライトを点け王宮から上がってきた報告書を読んでいた。
ラピスはあまり夜更かしをしないので、とうにベッドに入ってしまっている。
「うう・・・・」
ラピスの方から何か苦しげな声がした。
私は机を立ち、ラピスのベッド横に行ってみた。
「・・う・・いや・・」
「・・・・違うんです・・・・」
悪い夢でも見ているのだろうか? ラピスの表情が険しい。
「ラピス、大丈夫か?」
ほおをペチペチと叩いてみる。
「カイル・・」
そう言うと、ラピスはすーすーと穏やかに眠り始めた。
私は穏やかな表情で眠るラピスの白い肌、長い睫毛、柔らかそうな唇に見いった。
ラピスの頬を指の背で撫でてみる。
滑らかな肌の感触が指に心地よい。
気付くと、ラピスの唇を指でなぞってしまっていた。
「ん? カイル?」
ラピスが薄目を開けた。
私は焦り、咄嗟に低い声で言った。
「ラピス、いびきをかいていたぞ」
「すいません・・」
ラピスはそう言うと、またすぐ眠りについてしまった。
私は自分の行動に愕然とした。
(私は何をしていたんだ・・)
(ラピスは友人だ)
(寝ているラピスに近付くのは止めよう。もう絶対に)
私は自分の机に戻り再び報告書に目を落としたが、もう内容が頭に入ってこなくなっていた。




