舞踏会<ラピス視点>
<ラピス視点>
今日は学院にて、舞踏会が開かれている。
ホールのシャンデリアが光りのカーテンのごとく輝き、美しく着飾った人々が楽しそうに歓談している。
楽団が次のワルツを奏で始めた。
私は飲んでいた飲み物を預け、エスコートしてきたエライザ嬢をダンスに誘った。
「エライザ嬢、私と踊っていただけますか?」
今日のエライザ嬢は、胸元の開いた深い青色のイヴニングドレスにブルーサファイアのネックレスをつけており、彼女の白い肌と抜群のスタイルが際立って妖艶な美しさを放っている。
私はエライザ嬢の手をとり、踊る人たちの輪に入っていった。
ワルツのリズムに乗りながら、エライザ嬢が話しかけてきた。
「今日はラピス様がエスコートしてくださり、本当に嬉しいです。
もしラピス様がいなかったら、私嫉妬でとてもこの舞踏会を楽しむことなんてできなかったと思いますの」
「私も、エライザ嬢に誘って頂かなかったら、このような素敵な場にくる事はなかったです。
ありがとうございます」
私たちは音楽に揺られながらダンスを楽しんだ。
(よかった。エライザ嬢がアリアちゃんにワインをぶっかけて罵倒することにならなくて、本当によかった)
私は胸を撫で下ろすのであった。
曲が終わると、なかなかの貴公子がエライザ嬢に次のダンスを申し込んできた。
周りをみると、何人もの男性がエライザ嬢を気にかけている。
今日のエライザ嬢は本当に美しい。きっと次々とダンスの申し込みがあって大変だろう。
エライザ嬢と離れ、私はシャンパンを口にしながら煌めくホールを眺めていた。
今日は満月なので元々は来るつもりは無かったのだが、エライザ嬢に誘われ一時間だけという話で舞踏会に来ることにしたのだ。あと三十分もしたらここを出なくてはいけない。
遠くの方で、カイルが多くの令嬢に囲まれて和やかに話をしている。
今日のカイルは濃紺に銀のモールがついた上着に白のラフを付け、まさに王子と言った格好だ。
一か月前の傷も、もう全く問題が無いようで、最近は剣の稽古もとばしているようだ。
ホール中央に目をやると、アリアちゃんがなかなか良い笑顔で踊っている。
アリアちゃんは淡いローズ色のシフォンドレスを着ており、襟元を縁取る花のコサージュが彼女のふんわりとした可愛さにぴったり合っている。
アリアちゃんが一緒に踊っているのは、ローガン先生だろうか?
ローガン先生はアリアちゃんが通っている研究室の先生で、一応『聖アレクシオの花園』では攻略対象の一人だ。
妹の沙紀が、メガネは素敵だけど気が弱くってあんまり萌えないと言っていた。
しばらくすると、沢山のダンスのお誘いで大変だったエライザ嬢が戻ってきた。
「エライザ嬢、私はそろそろ行かねばなりません」
そう告げたが、エライザ嬢の様子がおかしい。
「エライザ嬢? 大丈夫ですか? 少し顔色が悪いですね」
「ラピス様・・私、ちょっと気持ちが悪いです」
エライザは遠い目をしている。
「休憩室に行きましょう」
私は人混みをかき分け、ゆっくりとエライザ嬢をホール横の廊下に連れて行った。
途中、横を行くボーイを呼び止め、医者を読んでもらう。
「エライザ嬢、こちらにおかけになって」
私はエライザを小部屋のゆったりした椅子に誘導した。
「ふぅ。ラピス様ありがとうございます」
エライザは椅子に座り一息ついたが、まだ顔色が悪い。
窓の外を見ると、日が間もなく沈もうとしている。
緊張して待っていると、ボーイに連れられ、医者が部屋に入ってきた。
「エライザ嬢、申し訳ありません。そばにいて差し上げたいのですが・・」
「いえ、ラピス様ありがとうございます。いってらっしゃいませ」
エライザ嬢は顔色の悪いまま笑顔で送り出してくれた。
エライザ嬢を休ませた部屋を出ると、廊下にいくつかの部屋が続いていた。
いくつか先の人気のない小さな部屋に入り、私は入り口の鍵を閉めた。
まだ体は男のままであった。
(間に合った・・)
部屋の窓から外を見ていると、しばらくして学院を囲む森の上に白い満月が昇ってきた。
私は次元の指輪に手をかざし、ラピスの令嬢時代のドレスを取り出した。
シルク地に金糸で細やかな刺繍がされたシンプルなオフホワイトのドレスが両腕の中に現れた。
舞踏会で着るには少し硬い雰囲気だが、そこまで浮くこともないだろう。
ぶかぶかになってしまった騎士の服を脱ぎ、なんとか一人でドレスを着る。
指輪から取り出した華奢な靴に履き替え、
簡単に髪を結い上げて、少しだけ化粧をした。
(このまま裏口から逃げたいところだけど、
誰かエライザ嬢を見てくれる人を探さなければ・・)
部屋を出て廊下からエライザ嬢のいる部屋をそっと覗くと、エライザ嬢は一人椅子でうなだれていた。
私はホールの端から、溢れる人々を見回した。
少し離れた所に、エライザ嬢のご友人のフローラ嬢(取り巻き令嬢さん)がご友人達と歓談しているのを見つけた。
「フローラ様」
私が声をかけると、フローラ嬢は『どちら様?』という顔をしたが、私は無理矢理話を続けた。
「あちらの別室でエライザ様が具合を悪くされているのですが、ご様子を見ていただけないでしょうか」
エライザの名前が上がるとフローラ嬢は慌てて承諾し、廊下の小部屋に向かってくれた。
廊下の入り口からそっと部屋を覗くと、フローラ嬢がエライザ嬢に心配そうに話しかけている。
私はほっと一息つき、そのまま廊下をホールの裏口に向かって進んだ。
裏口を出ると、そこには腰丈程の整形式庭園が広がっており、その先に表の門が見えた。
庭園には人影もなく、私は安心して門の方へ歩き出した。
その時、背後からよく知っている声がした。
「ご令嬢、すいません」
振り返ると、少し息を弾ませたカイルが立っていた。




