水の巫女<カイル視点>
<カイル視点>
私は朦朧とする意識のまま森の中の道を歩いていた。
目が霞む・・傷口から温かい血が滴る・・
この足が止まった時が私の死ぬ時だろう。
とうとう足が動かなくなり、立ち止まって顔を上げると、
数十メートル先に明かりの灯った小屋が見えた。
(人家!? あそこに辿り着ければ・・)
小さな希望の火が灯り、私はまた一歩歩き出した。
気が付くと、永遠に辿り着かないかと思われた小屋の扉の前まで来ていた。
体を預けるように、重たいドアを開ける。
そこには、小屋の中の明かりを背に女性が一人立っていた。
(人だ・・)
それを確認すると、私はもうとっくに限界を迎えていた意識を手放した。
◆◆◆◆◆
目を覚ますと、見慣れぬ低い天井が見えた。
体の上に温かい重さを感じる。
目をやると、柔らかなプラチナブロンドの女性が私に折り重なって倒れていた。
私は確か・・運悪く遭遇したブラッディベアの爪で腹を切り裂かれ、瀕死の状態でこの小屋に来たはずだ。
しかし今、怪我をしたはずの左腹に痛みは感じない。
私は左腕で女性を支え、体を起こした。
女性は白い僧侶の服を来ており、その服は血で汚れてしまっている。おそらく私の血だ。
(この方が私を治癒してくださったのか・・何んという幸運)
女性は相当高位の回復魔法を使い、そのために力尽きたのだろう。どう感謝して良いかわからない。
私は女性を抱きかかえ奥のベッドまで運び、そっと寝かせた。
女性は吸い込まれそうに美しい人であった。
泣いていたのだろうか・・長い睫毛は憂いを帯びていた。
(彼女が起きたらお礼を伝えなければ。)
私は壁際にもたれて座り、再度眠りについた。
◆◆◆◆◆
目を覚まし顔を上げると、誰もいないベッドが目に入った。
小屋の小さな窓からは白い光が差し込んでいる。
(彼女が起きたことに気が付かなかったとは・・
浅く眠っていたつもりだったのだが・・)
ふとテーブルの上に一枚の手紙を見つけた。
『ご回復されてよかったです。
早朝に出発しなければならないため、失礼いたします。
鍵はかけないままで結構です。』
(出発されてしまったか・・)
私は残念に思い、美しい字で書かれた手紙を胸ポケットにしまった。
(一度学院に戻り、改めてお礼に来よう)
私は小屋を後にした。
翌日、私は馬を走らせ、再度森の小屋に向かった。
命を救って頂いたお礼を伝えたい。というのもあったが、あの美しい人に会いたいというのも大きかった。
森の小屋は明るい日差しの中、生い茂る草に囲まれて立っていた。
馬を降り、小屋のドアをノックするが中から返事は無かった。
ドアを開けてみると、私が昨日ここを発った時のまま部屋はがらんとしている。
(今日も出かけていらっしゃるのだろうか?)
私は何となく今日もあの方は戻って来ないような不安を抱えたまま、小屋の外で待つ事とした。
気が付けば、空は茜色に変わっていた。
私は落胆して学院に戻った。
その後何度か小屋を訪ねてみたが、あの方が小屋にいる事は無かった。
近くの村で小屋の住人について尋ねてみたが、もう十年ほど使われていない小屋だという。
プラチナブロンドの女性僧侶について調査もさせてみたが、全く有力な情報は得られなかった。
あの方はどこかに旅立たれてしまったのだろうか?
私の手元には、彼女の書き残した手紙だけが残った。




