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夜天戦線  作者: シナノ
第一章 裏世界
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7話 模擬戦

 体育館。

 中はごく普通の内装をしており、両サイドにはバスケットリング、正面には広いステージがある。

 地面にはカラフルなラインが引いてあり、俺から見るとどれがどれだかよく分からない。

 現世では数回入ったことがあるが、この世界でもその時と変わらない形だ。

 こんなに広い空間にたったの五人だけ。

 やけに足音が響いて聞こえる。


「品野は今日は見学ね。」

「あ、はい。えっと、何するんですか?」

「ただの模擬戦だよ。品野が知ってるようなものじゃないけどね。」


 四平は優しく微笑みながらそう言った。

 俺の知ってる模擬戦と何が違うのかなあ。

 俺が知らないってだけでおおかた予想は付くが。


「右響!黒鉄!」

「はい!」


 四平に呼ばれて二人が前に出る。

 紫音は楽しそうに、黒鉄は……ニヤつきながら次の言葉を待っている。


「一分間実践ルール。やり過ぎちゃダメだよ?」

「りょーかいです!」

「はぁい」


 短い説明の後に二人は体育館中央に移動する。

 そして約三メートルほど離れた場所で対面した


「今度は負けないよ。うっかり殺しちゃうかも。」

「その美形、また歪ませたいなぁ!」


 お互いに物騒な会話をしつつ構えを取る。

 黒鉄は四足獣のように姿勢を低くし、紫音はヘッドフォンを装備のように装着する。


「では、はじめ!」


 四平の合図で戦闘が始まった。

 先に動いたのは黒鉄、合図とほぼ同時に紫音に向かって走り出した。

 そして、突如右腕がグニャリと粘土のように歪んだと思えば、あっという間に金属色に輝く刃へと変貌した。


「なんだあれ……」

「『金属化』。黒鉄の夜術だね。」

「はぁ……。」


 夜術とかなんとかはまだよく分かってないけど、一人一人違う個性みたいなものか。

 てことは俺ってどうなるんだろうか。


「アハ!もらい!」


 黒鉄の刃の腕が紫音の左脇腹目掛けて振るわれる。

 

「悪いけど、簡単には貰われないよ。」


 しかし、それより早く紫音が仕掛けた。

 右足をトンと床に叩きつけたと同時に、地震のように体育館が大きく揺れた。

 俺は転けそうになりながらも壁を掴んでギリギリで持ち堪える。

 紫音は地震の能力か?


「あわわっ!」


 前のめりに体勢を崩した黒鉄の刃は空を切り、無様にも紫音にうなじを向けた。


「今度は俺が貰ってあげる!」


 紫音はその隙を見逃さず拳を握り、黒鉄の後頭部に振り下ろした。

 ガキン!と硬い音が響き、血飛沫が散る。


「いってぇ!」

「アハ!人って柔らかいのが難点だよねぇ。」


 その血飛沫は紫音の拳から噴き出ていた。

 見れば黒鉄の後頭部は金属に変わっており、それを殴った紫音の方がダメージを受けていた。

 なかなかレベルの高い戦いだ。


「アハハ!」


 そこからは黒鉄が一方的に攻撃を仕掛けた。

 パンチ、蹴り、斬撃と変則的な連撃。

 その凄まじいスピードで四方から打ち続ける。

 俺では目で追うのがやっとだ。

 紫音は防戦一方を強いられている状況。

 しかし、押されているように見える紫音も決してクリティカルヒットは貰わず、反撃のチャンスを狙っているように見える。


「すごい……。」

「でしょ?二人とも優秀なんだ。品野もこのくらい戦えるようになってね。」

「……冗談ですよね?」


 四平は「どうかな」と苦笑して二人の戦いを再び眺め始める。


「アハ!そろそろキツいんじゃない!?」

「くっ……!」


 紫音は再び足で地面を叩き地震を起こす。

 しかし、黒鉄の戦闘センスでは二度同じ手にはかからない。

 地震に合わせて跳躍し、難を逃れた。


「芸がないなぁ。」

「芸がなくとも使い方は多様だよ。」

「あ?」


 黒鉄の警戒が紫音から地震に向いた刹那の瞬間、紫音は勢いよく両手を合わせた。


「しまっ……!」


 慌てて耳を塞ごうとする黒鉄だが、その判断はあまりにも遅過ぎた。

 

 パアァァァン!


 と大きな破裂音が轟いて、距離を置いていた俺でさえ意識が吹き飛びそうになる。

 間近で聞いた黒鉄は白目を剥いて力なく地面に倒れていく。


「そろそろ一分……俺の勝ちかな。」


 紫音はボロボロな体で爽やかな笑顔を浮かべて俺たちの方にドヤ顔を送ってくる。

 悔しいけどカッコよかった。


「ん?」


 俺はドヤ顔をする紫音のすぐ目の前にいる黒鉄を見る。

 後もう少しで地面に倒れようとするその姿は全身が金属のような光沢を帯びていた。

 それはやがて人の形から姿を変えてドロっとした液体のようになった。


「な!!」


 紫音の驚愕の声と同時にその液体金属は蛇のように紫音の体に巻き付き、体を拘束した。

 そして、金属は見る見る人型に変形していき、紫音を後ろから羽交締めにするように元の黒鉄の姿に戻った。

 黒鉄をよく見ると耳と鼻から血が垂れている。

 さっきの攻撃は効いていたらしい。


「油断!慢心!お互い様ぁ!」

「うぅ……!」


 後ろから完璧なチョークを決められた紫音から余裕の表情は消えて焦りに変わる。

 徐々に顔が赤くなっているところを見るに、だいぶ強めに絞められているらしい。


「そこまで!」


 俺が心配していると四平が終わりの合図を出した。

 その言葉と同時に黒鉄は紫音を解放し、紫音は喉を抑えて咳き込む。

 二人は並んで俺たちのところに戻ってくる。


「今回は接戦だったけど黒鉄の勝ちだね。」

「くそ〜、2連敗かぁ……。」

「んふー!」


 ガックリと膝を落とす紫音と腰に手を当てて自慢げな黒鉄。

 二人とも素晴らしかった。

 なんというかアクション映画ですら子供遊びのように思えるほどにはすごかった。

 これほど興奮する戦いは生まれて初めてだった。


「黒鉄は夜術の応用ができるようになってるけど、体術が疎かになってるね。本当なら破れたはずの相手の防御も突破できてないから体の使い方を意識しなさい。」

「はぁい。」

「右響は良かったよ。まともに攻撃を食らうことは無かったし、『音』の夜術の幅も広がってる。でも、時間ギリギリでも油断は感心しないな。精神的に鍛えなさい。」

「はい……。」


 音の夜術……地震じゃなかったのか。

 いや、それでも強い能力だった。

 俺もあんなの使えるんだろうか。


 でも、俺からしたら完璧だった動きも改善の余地があるのか。

 バトルというものは奥が深いな。

 しかし、この奇抜なファッションの男が真面目に教師やって真面目な事を教えているという光景はやはり奇異に映る。


 四平の評価とアドバイスが一通り終わった後、紫音は俺のところに恥ずかしそうに頭を掻きながら近づいてきた。


「あはは、負けちゃった。カッコ悪いとこ見せちゃったね。」

「いや、十分すごかったよ。俺なんか目で追うのがやっとだったよ。」

「そうかな。」

 

 あんなにチャラそうなハイテンション男が、今は少ししょんぼりとしている。

 この弱みを見せるっていうのもモテる……ってそれはもういいか。

 でも、すごいと思ったのは事実だ。

 紫音がどう思っても、俺はかっこいいと思った。


 ふと横を見ると黒鉄がこっちを見ていた。

 耳と鼻からはまだ血がダラダラと流れている。


「黒鉄さん大丈夫!?早く病院に……」

「アハ!」


 黒鉄は急に笑った。

 この重症で笑えるとは恐ろしい。


「なんにも聞こえない!」


 そうか、鼓膜が破れてるから聞こえないのか。

 えっと……病院って手話でどうやるっけなぁ。


 俺が指を十字に組んだりして考えていると紫音が黒鉄の手を掴んだ。


「俺が負わせた傷だから俺が癒野さんのところに連れていくよ。俺も右手治してもらわなきゃだしね。」


 紫音は俺に手を見せびらかすようにして言った。

 出血は止まっているものの痛々しい腫れが残っている。


「じゃあまた後で、ほら行くよ」

「あ?なんて?」


 そんなやりとりをしながら二人は体育館を出た。

 なんか……お似合いだ。


「あれ、二人とも行っちゃったか。」

「うわ!」


 いつの間にか俺の後ろに四平が立っていた。

 音もなく近づいてくるから怖い。


「そんな驚くかな?」

「すみません。」

「それより、今度は僕と夜敷の模擬戦だからよく見ててね。」

「あ、はい!」


 夜敷の戦闘は是非見たい。

 あの時は目を瞑ってしまってたから結果だけしか見れてないんだよな。

 やっぱり刀に関する能力だろうか。

 あと、単純に四平の実力も気になる。

 教師という立場上なかなか強そうではあるが、見た目は弱そうなので計り知れない。


「よし、準備はいい?夜敷。」

「はい。」

「じゃあ行ってくるよ。」

「拝見させていただきます。」


 二人は体育館の中心に対面する。

 しかし、さっきの二人と違って構えない。

 強者の余裕ってやつなのだろうか。

 でも、なんだろうか。

 こんな棒立ちの二人に、一切の隙が感じられない。

 素人の俺でも分かるこの空間の異様さ。

 何もしてないのに圧がすごい。


「品野!合図お願い!」

「あ、わかりました。」


 四平に頼まれて俺はレフェリーを担当することになった。

 手を下に構えて一気に上に振り上げる。


「よーい、ドン!」


 その雰囲気に似つかわしくない号令で、二人の戦いが始まった。

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