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夜天戦線  作者: シナノ
第三章 交流会
24/27

23話 実行

 二日目の昼過ぎ。

 俺たちは深見のいる場所を探した。

 紫音の索敵能力で探してみると、戦いの音が1(・)人(・)分(・)聞こえてきた(らしい)。

 おそらくそこに深見がいる。

 さて、作戦決行だ。


「右響、どうだ?」

「音が消えた。多分近くにいるよ。」

「了解。品野、あとは頼んだぞ。」

「分かった。」

 

 ふぅ、緊張するな。

 まず、深見が昨日みたいに手加減してくれなければ俺はあっさりと寝てしまうだろう。

 そこは祈るばかり。

 と、そこで足音が聞こえてきた。

 あえてこっちに聞こえるようなわざとらしい足音だ。


 「んん……。」


 深見はあたりをキョロキョロとしながら森の奥から歩いてきた。

 昨日より少々服が汚れ、顔にも土埃がついている。

 深見相手に渡り合ったやつがいるということだろうか。

 そいつはきっと人間じゃないな。


 「昨日ぶりです、深見さん。」

 「気配が消えたな、隠れたのか逃げたのか、それとも別の理由があるのか……。」


 どうやら夜敷たちを警戒しているらしい。


 「地面の至る所に落とし穴。直径二メートル半と言ったところか。苦し紛れの作戦だな……。」


 どうやら俺達の仕掛けにも気づいたらしい。


 「品野、夜術の練習はしてきたのか。」

 「完全とは言えませんが使えるようになりました。ありがとうございます。」

 「そうか。」


 深見はフッと笑って剣を抜く。

 それに合わせて俺も構えた。


 「一撃入れてみろ。」

 「はい。」


 しばらくシンとした場が流れる。

 俺は夜術の特性から不動を貫いた。

 それを分かってか、今回は深見が先に動いた。


 ———脇腹に向かって横薙ぎ


 急いで夜術を使う。

 脇腹に夜気を集め、クッションをイメージする。


 剣の速度は俺に触れた瞬間急激に破壊力を失い、俺にダメージを与える事はできなかった。

 俺は深見の顔を狙った。

 しかし、大きく振りかぶった拳はいとも簡単に避けられる。


 ———間髪入れずに鳩尾に前蹴り


 ガードが少し遅れて衝撃が走る。

 完璧ではなかったが防げた。

 なのに、この威力。

 内臓を直で捻じられているようだ。


 しかし、俺は怯む事なくその足を掴んだ。

 そして再び頭を狙う。

 だが、深見の足を持つ俺の手が急に重くなった。


 深見は跳躍していた。

 空中で体を回転させて威力をあげ、俺の脳天に蹴りを入れた。


 くっ、重い!

 防いでなおこの重さ。


 下に叩きつけられるような衝撃に逆らって、俺は渾身のアッパーを顎目掛けて放った。

 それも躱される。


「どうした、もっと場を大きく使わないとせっかくの落とし穴も無駄になるぞ。俺がかかるとは思えんが……。」

「くっ……!」


 深見は俺をいたぶるように攻撃し続けた。

 上下左右からランダムで繰り出される打撃は着々と俺を追い詰めていた。

 俺は夜術と回避を組み入れながら反撃する。

 愚直なパンチをただひたすら顔に。


 まだ耐えろ


 「もうなにもないのか?」


 まだ続けろ。


 「なにかしないと終わらせるぞ。」


 連撃に次ぐ連撃で俺はジリジリと後退していた。

 あるポ(・)イ(・)ン(・)ト(・)まで。

 

 「ぐっ!」

 「!?」


 俺は深見の腰辺りに勢いよく手を伸ばした。

 腰にあるオモチャの剣の鞘についたキーホルダーに。


 「おっと」

 

 深見は動揺から横に大きく飛び退いてしまう。

 そりゃそうだ、わざわざ付け替えてまで肌身離さず持っている宝物なんだから過剰に守ってしまうよな。

 これを待ってた。


 「紫音!!」


 俺が叫ぶとブゥンと低い音が鳴り響きすぐに地面が揺れた。

 地震のような大きい揺れではなく、砂粒が微振動するほどの音(・)だ。

 それによって深見の足元の砂は落とし穴に流れ込み、複数の穴は一つの大きな蟻地獄となった。


 足を奪った。

 チャンスだ。


 「総攻撃!」


 そう叫びながら隠れていた夜敷たち三人が飛び出してくる。

 俺達は一斉にバランスを崩した深見に突撃した。

 攻撃が届く、そう思った時、ある言葉が聞こえてきた。


 『深見流一刀術 細雪(ささめゆき)』

 

 その瞬間、全身に細かな傷が数百と刻まれた。

 俺だけじゃない、全員の体にだ。

 俺達は痛みに顔をしかめて退いた。

 結局距離を取らされてしまい、千載一遇とも取れるチャンスを失った。


 「おいおい、これはパリキュアのツンデレ担当セレナーデちゃんだぞ。いつもはツンツンしててそっけない態度なのに市民を助けるときは誰よりも身を挺して守るセレナーデちゃんだぞ。それを狙うなんてのはちょっと違うんじゃないか?品野。」

 「……すみません。」


 言っていることはあれだがさっきよりも不穏な空気を感じる。

 これは間違いなくキレてる。

 急に飛びかかってきてもおかしくないくらいの殺気だ。

 いつ来る、警戒を怠るな。


 「だいたいなぁ、お前らはこの日本のアニメ業界の素晴らしさを分かってないんだよ。」


 ん?なんか始まったぞ。


 「ストーリー、キャラデザ、声優、アニメーション、緩急。そのすべてが一流の技術で構成されているのが日本のアニメなんだ。最近は質より量で少し不満もあるがそれはいい。でだ、その数あるアニメの中でもパリキュアは頂点にいる存在だ。神に等しい。

 つまり、お前らはもっとアニメを敬うべきなんだ。悪意を持って傷つけにきちゃいけない。」

 「はあ……。」

 「しかもこのキーホルダーは5年前に開催されたパリキュアフェスの限定衣装バージョンだ。二度と手に入らないし製造された個数はわずか50個。この意味がわかるか?わかるよな、わからないなら無理にでもわかれ。」


 す、すごい早口だ。

 しかもこんだけの文字数なのに一回も噛んでない。

 これがジャパニーズOTAKU。

 他の三人もぽかんとしている。

 見ろ、夜敷なんて結構引いている。


 しかし、なんか体がだるいな。

 さっきあんだけ殴られたからか?

 それにしては疲れ過ぎな気もするし……なんなんだろうか。


 「おい、聞いてるのか?」

 「え、あ、はい。」

 「はぁ、これだから最近のSNS民どもは。」


 深見はため息を付いて俺を睥睨した。


 「特別指導だ。」


 突然、眼の前から深見が消えた。

 猫足だ。

 集中しろ、人間がいきなり消えるなんてことがあるわけない。

 俺はただ認識できてないだけなんだ。


 突然、背中からブワッと冷や汗が噴き出した。

 首筋に何かを感じ取り、脊髄反射で屈んだ。


 ヒュッ


 眼の前に足が現れ、俺のすぐ上で風切り音がした。

 少し遅れて、後ろにあった木がバッサリと切断され、ドミノ倒しのようにバキバキと倒れていった。


 「あ、いかんいかん。力加減を誤った。」


 し、死ぬかと思ったあ!

 なんなら死んでない?ちゃんと頭ある?首ある?


 俺が首を触って生存を確認していると眼の前に拳が迫ってきていた。

 なんとか夜術を発動し、衝撃を吸収した。


 「うっ……」


 まただ、やっぱり体が重くなっている。

 体が下に沈み込みそうだ。

 夜術の反動か?でもこの感じどこかで経験したことがあるような……。


 「ん?」


 深見の眉がピクリと動く。

 

 「品野!」

 「動くな。」

 「……っ」


 叫ぶ夜敷に冷たい声で深見が言う。


 「あと少しってところか……。」

 「あと……少し……?」


 何がだ。

 

 そんなことを思った瞬間、深見が剣を上段に構えた。

 さっきと同じかそれ以上の圧が俺を襲う。


 「俺はこのキーホルダーを狙われて怒り狂った。今からお前を殺す。防がなければ死ぬ。」

 「え?は!?ちょ……待っ!」


 いきなり何言い出してんのこの人!

 殺す?そんな逆鱗だったの?

 ごめんなさいって、謝るから命だけは!


 そんな俺の願いも虚しく剣はまっすぐに俺に振り下ろされた。

 俺は無意識的に剣を止めようと手を前に伸ばした。


 その瞬間、俺の手から何かが暴発するような感覚がした。

 そしてその何かは手のひらから衝撃波として外部へと飛び出していき、深見の剣を破壊した。

 そのまま深見の横をかすめ、爆風となって森の木の葉を吹き飛ばした。

 深見の頬からは一筋の血液が垂れていた。


 「一撃……」

 「入ったぁ!」


 紫音の驚きの声と黒鉄の嬉しそうな声が聞こえる。

 そして、さっきまで感じていた体の重さが一気に抜け出した。

 

 「やっぱりな。」


 深見はそうつぶやいた。


 「やっぱりって……。」

 「お前の夜術は受けた衝撃を吸収し、自分の力に変換する能力だな。戦闘中感じていただろうだるさは体にたまりすぎた夜気のせいだとおもう。」


 そんな効果があるんですか!

 しかもそれめちゃくちゃ強くなですか!?

 つまりは攻撃を受ければ受けるほどさっきみたいな高火力の衝撃波を打てるってことじゃないですか!

 

 「これは使い方によっては化けるな。励めよ。」

 「はい!」

 「さて、フカミちゃんシールをやる。」


 そう言って懐をゴソゴソとあさり始めた。


 「深見さん。」

 「なんだ。」

 「すみません!」

 「は?」


 俺は深見に抱きついた。

 別に急にホ◯になったわけじゃない。

 ここを通過するのは俺だけじゃ駄目だからだ。


 俺は深見をガッチリと固定した。

 足を踏んで猫足も使わせなくする。

 そして、深見の背後から三人一斉に攻撃を仕掛け、見事に背中に一撃ずつ入れた。


 ーーー


 「まぁ一応シールはやるけどよぉ……ちょっと卑怯すぎないか?」

 「これも通過するためなので許してください。師匠。」


 深見は不満そうに愚痴を吐きながら名前が書かれたシールを全員に配った。


 「夕陽〜、夜術使えるようになったんなら言ってくれても良かったじゃん!」

 「いけず〜!」

 「ごめんごめん。」


 紫音と黒鉄からブーイングが飛んでくる。

 説明する機会はあったにはあったけど、何かと地味な夜術だと思ってたからバレるまで待とうとしてたんだよな。

 

 「じゃ、俺はほかの連中を相手してくる。明日の朝にゲートが開くから忘れんなよ。」

 「はい。ありがとうございました。」


 そして深見は手をひらひらと振りながら森へと消えていった。


 今回運が良かったとしか言えない。

 俺の読みが運よく正しかったし、運よく深見が戦闘後で消耗していた。

 そして多分あの人は寝ずに頑張ってる。

 こんだけのハンデを背負ってもらっての辛勝だ。

 2つ目の試験でもこんな内容の無理ゲーが与えられるのだろうか。

 不安もあるが、何故かワクワクもしている俺がいた。

 

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