24話 五号目
三日目の朝、ゲートが開かれた。
ゲートの前には深見が立っており、シールを見せる事で通過することができる。
最初は500人近くいた参加者も、通過できたのはわずか30人ほど。
深見は「やりすぎたか」と頭を掻いていた。
通過できたメンツの中には先輩たちの姿もあった。
特に疲れたようなそぶりも見せずに歩いていく。
当たり前のように通過しているとは流石だ。
「……品野。」
「はい。」
俺がシールを見せてゲートを通過しようとした時、深見に呼び止められた。
「お前の夜術だが、ちょっと特殊だ。これから上の奴らが接触を図ってくるかもしれんが、俺は注意しろ、としか言えない。」
それだけ言って深見はその場を離れた。
注意しろって、どういうことだろうか。
「夕陽?行くよー?」
「あ、ごめん。」
俺は一度考えるのをやめて次のステージへと進んだ。
ーーー
ゲートの先には狐の面のような物を被った浴衣姿の女がいた。
彼女は全員がゲートを通るのを見届けると深々と頭を下げて名乗った。
「お待ちしておりました皆々様。私、案内役の狐兎と申します。本日は皆様をここから次の場所までの案内を務めさせていただきます。」
どうやらここからはひたすら山を登るだけのようだ。
たしか次の試験があるのは山の五号目。
ちょうど半分のところにあるらしい。
「準備はよろしゅうございますか?それでは出発させていただきます。」
そうして、約30人での山登りが始まった。
ーーー
山を登り始めて数時間が経った。
道は整備されておらず、だんだんと悪くなる足場は徐々に一行の体力を奪っていった。
しかし、弱音を上げる者はいなかった。
なぜかは分からない。
俺は今にでも弱音を吐きたい。
それにしても、あの孤兎という人。
あんな着物でよくこんなきつい山を登れるな。
最初から今までペースも全く落ちないし、しっかりと先頭を歩いている。
一種の妖怪か何かと言われても納得してしまうくらいには異質だ。
「到着いたしました。」
ほぼ崖ともいえるような坂を登った後に孤兎はそう言った。
坂の上は平な空間が広がっており、そこには大きな木造の家があった。
三階建てで新しく、とてもデカい。巨大ペンションみたいなものか。
庭にはBBQスペースや休憩所がある。
かすかに水が流れる音がする。
ん?あの奥にちょっとだけ見えるのは露天風呂ではないだろうか。
てことはあの建物はサウナか?
とにかくいろんな設備がありそうだ。
屋敷と言われてもおかしくない。
「本日からはこちらで疲れを癒してください。」
「おぉ〜!」
テンションが上がる紫音、戸惑う夜敷、笑う黒鉄。
人の反応はそれぞれだ。
それにしても、深見の時は野宿だったのに、今回はやけに手厚いサービスじゃないか。
なにか裏がありそうだ。
「聞いた?みんな!あそこ泊まれるって!」
「いや、聞いたが……私たち手ぶらだぞ?」
「アハ!私ちょっとワクワク!」
「ご安心ください。ここには全員分の衣食は整っておりますので。」
不安に思う夜敷を見て、孤兎が答える。
衣も食も住も充実しているとは。
もう、ここで暮らしたいんだけど。
「さて、皆様。中へどうぞ。お待ちになられている方がおりますゆえ。」
待ってる人?
多分次の試験官だろうけど、怖い人じゃなかったらいいなぁ。
中を一言で表すなら純朴。
普通のテーブル、普通のソファ、普通の絨毯。
どれも飾り気がなく、豪華とは言えない。
しかし、その素朴な感じが木の建物と相性がよく、綺麗な印象を与える。
まるで金持ちの別荘だな。
「やぁ、よく来てくれたね。」
こちらに背を向けた椅子から声がした。
見ると椅子の上から少しだけ茶髪の頭が覗いている。
座っている茶髪が立ち上がる。
背はそこまで高くない男。
幼さすら感じる甘い顔と、甘くない雰囲気が入り混じった異様な印象だ。
「ぼくが五合目の試験官、明刈霊五です。」
明刈と名乗る男は柔和に笑って挨拶をした。
周りはその名前を聞いて少しだけざわざわとし始めた。
驚き以前に歓声のほうが大きいか。
アイドルに会ったときのように「おお!」とか「明刈さんだ!」とか聞こえてくる。
夜天閣内では有名かつ人気な人らしいな。
この人が試験官か。
随分と若そうに見えるけどいくつなんだろうか。
なんなら俺より年下に見える。
「あの人って何歳?年下にすら見えるけど本当にSランクなの?」
俺は気になって隣の紫音に聞いてみた。
「あの人は先輩だよ。夜天閣の三年生。」
「へぇ」
ん?先輩?
てことは学生なの?
学生でSランクとか絶対化物なんだろうな。
もしかして今回の試験もあの人から逃げろだったり倒せだったりするのかな。
だったら今度こそ無理だぞ。
Sランク相手に連戦とか精神持たないからね?
「とりあえず休憩してきてください。交流会の内容は夜の六時にこの大広間にて説明いたします。それまでは深見さんにやられたであろう傷を癒してくださいね。」
なんかすごく慮ってくれるな。
話したこともないけど好きなタイプかも知れない。
俺はノンケなのに。
「すでに部屋割りは完了してあります。上に上がれば部屋ごとに名前を振り分けているのでそこを使用してください。それでは、各自自由行動ということで。」
明刈は手をパンと叩いてにこやかに宣言した。
それと同時に30人が散り散りに動き始める。
ーーー
自由行動となったあと、俺は部屋の移動しようと思ったのだが、紫音たちが明刈先輩に挨拶しておきたいというので俺もそれに参加することにした。
やっぱり初対面の先輩への挨拶は欠かせないよな。
「明刈先輩!お久しぶりです!」
「お久〜!」
「あ、みんな。久しぶり。深見さんの交流会はどうだった?」
話し方も優しい。
最初に感じた甘くない雰囲気は何だったんだろうか。
「結構ギリギリでしたよ。師匠も師匠で手加減が下手なものですから。
こっちの品野がいなければ突破はできなかったでしょう。」
そう言って夜敷は俺の背中をポンと押す。
俺は一歩前に出て挨拶する。
「ど、どうも。品野夕陽です。」
「この前入ってきた新入生だよね?話には聞いてるよ。まさか、あの深見さんを出し抜くスーパールーキーだとは思わなかったけどね。」
出し抜くだなんてそんな。
幸運が重なっただけだ。
「今回の僕の交流会でも活躍を期待してるよ。」
「まさか、先輩と戦えとかじゃないですよね?」
「はは、違うよ。戦うに必要なのは力だけじゃない。敵に知性持ちの夜魔が増えている以上、こっちもそれに対抗できる頭脳を持たないといけないからね。」
俺はそれを聞いてホッと胸をなでおろした。
どうやら戦う系じゃないらしい。
頭を使うとか言ってたけど何をするんだろうか。
まさかここまで来て筆記試験なんて事はあるまいな。
「剛田先輩は一緒じゃないのぉ?」
「援二はこの試験の参加者だよ。さっきのメンバーの中にはいなかったから、多分深見さんのところでアウトだったんだろうね。予想通りだな。」
「あの人弱いもんね!」
ひどい言われようだ。
きっと頑張ってたんだぞ、そのゴーヤ先輩とやらも。
「ほら、早く休んできな。ここには疲労回復効果のある温泉も付いてるんだ。今は旅行にでも来たと思ってくつろいでくれ。」
「ありがとうございます!」
俺達は明刈と別れ、各々の部屋に向かった。
ーーー
部屋の中はきれいだった。
広くもないし狭くもない。
一般的な大きさの部屋にベッドと机とクローゼット。その他小物がちらほら。
トイレは廊下に出て右側で風呂は露天風呂だ。
修学旅行みたいでワクワクする。
俺は部屋に荷物を置いて一息ついた。
少しして紫音を誘って風呂に入る。
結構人がいた。
銭湯とかいかない俺にとってはちょっと小っ恥ずかしい空間だった。
烈堂先輩の姿があったから話しかけようかと思ったけど、あの人が入ってた温泉が沸騰していたのでまたの機会にする。
きっとあの人は炎熱系の夜術だ。
しばらくして夜の六時になった。
言われた通り最初の大広間へと移動する。
風呂に入ったからかピリピリとした空気は消えてほっこりした空気が流れている。
風呂は偉大だな。
「皆さん集まりましたね、では、今交流会五合目の内容をお伝えします。」
明刈が前に立ち、話し始める。
それを聞いて全員の注目が集まる。
「今回皆さんにやってもらうのはあるゲームです。」
ゲーム?
「今から1から6までの数字が書かれた5色のカードをそれぞれ皆さんにお配りします。中身は他人に見せないようお願いします。」
狐兎が全員にカードを配る。
俺に配られたのは青い背景に白色で3と書かれた機械のカードだった。
数字の下には液晶画面があり、「12:00:00」と書かれている。
「皆さんにやってもらうゲームは『カードハント』。チーム戦です。
今配ったカードには色と数字が判別できるようになっているでしょう。色は所属するチーム、数字は自分の判別番号とでも思ってください。
チームは六人一組。赤、青、黄、緑、白の五チームです。
何をすればよいかですが、他のチームのプレイヤーの数字と所属チームの色を暴き、ゲームマスターである私に名前とともに告発してください。
告発に成功すれば、告発されたプレイヤーの番号分の得点となります。
最終的にポイントが高かったチームが山の頂上へ登る権利を得ます。」
なるほど、面白そうだな。
本当の交流会みたいだ。
「細かいルールについてはルールブックをお配りするので各自確認を行ってください。質問等は受け付けますが、ルールの変更等は基本的に受け付けませんのでご理解お願いします。
期間は今からちょうど一週間。それでは開始いたします。」
そして、交流会二種目め『カードハントが始まった。』




