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夜天戦線  作者: シナノ
第三章 交流会
22/28

21話 成る

 俺はかかってこいという言葉に従って自分から仕掛ける。

 いきなり急所を狙うのは駄目だ、あの人がやすやすと食らってくれるとは思えない。

 そして愚直に突っ走ってもカウンターをもらうだろう。

 実力の差はアリとアフリカゾウのようなもの。

 経験もパワーも耐久力も下。

 

 ならばどうするか。

 そう、予測できない動きで相手を鈍らせる。


 俺は拳を振りかざし大振りのパンチの構えを取る。


 「安直だな。」


 深見は俺に合わせて横薙ぎの構えを取る。

 そして、脇腹にめがけて振るった。

 俺はそのタイミングでパンチをキャンセルし、深くしゃがんで足払いをした。

 深見の攻撃は俺の頭を少しだけかすめ、俺の蹴りはクリーンヒットした。

 ……かのように思われた。


 「なっ……!」


 深見の足は動かなかった。

 まるで金属の支柱を蹴りつけているかのような錯覚を覚える。

 防がれたか。


 「夜気の操作が乱雑だ。全く力がこもってない。」


 深見が剣を振り上げたのを見て俺は咄嗟に後ろに回避する。

 少し遅れて俺がいたところの地面がスパッと斬られた。


 プラスチックの切れ味じゃない。

 それに、深見自身も人間の硬さじゃない。

 これも夜気で強化しているってことか。

 くそぅ、便利だ。便利ゆえに敵が使うと面倒だ。

 足が痛い……。


「インファイトが好きか?」


 深見は剣を腰に差してファイティングポーズをとる。

 そして、ステップを踏みながら距離を詰める。

 この人体術もいけるのか?


 ———右フック

 

 少し屈んで回避、しかし左ストレートが続き顔面に食らう。

 鼻に鈍い痛みが走り鼻血が飛び散る。


 ———胴回し蹴り


 左手で受ける。

 骨に響き腕が痺れる。だが、まだなんとか動く。


 ———大振りのラリアット


 前に屈んで回避。

 屈んだところに膝蹴りを食らう。二度目の顔面。

 意識が揺らぐ。


 この人、コンビネーションが上手い。

 反応はできるけど対処ができない。

 それに、攻撃の繋ぎが滑らかすぎて反撃の余地もない。


「ん?」


 深見は疑問の声をあげて止まった。


「なぜ夜術を使わない。」


 なぜって、使えないからに決まってるじゃん。


「俺はまだ夜術を使えませんので。」

「あ?使ってただろ。あの白髪の夜魔に。」


 白髪の夜魔?シルラのことだよな。

 俺はあの戦いで夜術を使った覚えはないぞ。


「覚えがないですね。」

「ほら、えーっとあれだ。あの最後の攻撃受け止めたやつだよ。」


 弾が不発だったやつのことか?

 

「あれはたまたま不発弾だっただけですよ。」

「そんなわけねぇだろ。夜術はイメージ、それを具現化する。イメージ通りにいかなかったなら、それは不可能か妨害されたかだ。

 そしてあの時は明らかに後者だった。」

「……え?」

 

 嘘、俺夜術使えるの?

 てかあれって夜術だったの?

 確かに変な感覚だなとは思ってたけど。

 だとすると俺の夜術ってなんなの?絶対防御とか?


「自覚無しかぁ。無意識下で夜術を使う才能……あの人が拾ったのも納得できるな。」


 深見は顎に手を当てる。

 数秒考えてからめんどくさそうに溜息をついた。


「ま、叩きゃそのうち出るだろ。」

「へ?ぶふぉあ!?」

 

 そう言って深見は俺を拳でめった打ちにした。

 速い、5、6箇所同時に殴られている感覚だ。


「どうだ?」

「……|どうぼこうぼないべふよ《どうもこうもないですよ》。」

「出ないか。」


 この人は鬼か。


「イメージしろ。自分が勝つイメージ、自分がしたいイメージ。攻撃をしたいか防ぎたいか、痛みから逃れたいか何かを召喚したいか。あの時何を思っていた。

 それができないなら少年漫画でも読むんだな。」


 イメージか。

 俺はあの時何をイメージした。

 ただ、爆弾を受け止める事だけを考えた。

 じゃあなんだ、受け止める?攻撃の無効化?

 でも、それに近い。何かが掴めそうだ。

 

「分かった気がします。」

「理解が早いな。嫌いじゃないぞ。」

「お願いします。」


 俺がそう言うと深見は構えた。

 素手だ。

 そして、一気に距離を詰める。さっきとは比にならないスピード。

 視界から消えて深見の足元にあった落ち葉が舞った。


 夜気を使え、いや、使うだけじゃダメだ。

 芯を理解しろ。

 理解した上でイメージ!


 俺は気付けば右手を前に突き出していた。

 夜気を送り込んで構える。

 そこに深見が拳を打ち込んだ。


 「ハッ!!」


 まるでポヨっと擬音がつきそうなパンチだった。

 俺に痛みは無くダメージもない。

 衝撃を吸(・)収(・)した。


「いけた……。」

「ほう、不思議な感覚だ。強めに打ち込んだのに手応えがない。」


 深見は驚いた表情で一歩退いた。


「衝撃の吸収、攻撃の無効化、エネルギーの消失、色々考えられるが今のだけじゃまだ分からんな。

 もう少しやってみるか。」


 深見は腰から剣を抜いて構えるが、右手の腕時計を見てハッとした顔をして剣を腰にしまった。

 

「ま、次会う時までにその能力高めとけ。俺はさっき用意したカップ麺を食ってくる。」


 そう言い残して深見は背を向けた。

 こんな時間にカップ麺だなんてギルティだな。

 だが、気持ちは分からんでもない。

 

 いや、待てよ?今がチャンスなんじゃないか?

 背を向けた今こそ一撃入れる好機。

 いけるか?うん、行こう。

 姑息だなんだと言われても気にするもんか!


 俺は深見に襲いかかろうと踏み込む。


 「ああ、それはやめとけ。」


 突然耳元で声がした。

 首にドンと衝撃が響き、地面が回転する。


 「今のお前じゃ俺の寝首もかけねえから。」


 体が動かない……。

 意識が飛びそうだ。


 「よし、決まった。さてと、焼きそば焼きそば。」


 最後に陽気に鼻歌を歌いながら森の奥へと消えていく深見の姿を見て、俺の視界は暗転した。

 あの人は次元が違う。そう実感した。

 


 

 

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