19話 開催
深見の一言で全員が黙り込み、所々でヒソヒソと話し声が聞こえる。
それにしてもあの人、Sランクだったのか。
確かに前に見た攻撃も別格だった。
「カンペ予備ないんだよなぁ。まぁ頑張ってみるか。」
そう呟いた深見はポケットからリモコンを取り出してボタンを押した。
すると、深見の背後から高さ3メートルほどの壁が左右に広がりながら現れた。
深見は頭を掻きながらメガホンを口に当てる。
「俺が与える試練は簡単だ。俺から逃げろ。」
再び会場がザワザワとする。
まさか、鬼ごっこ?
「今から三日後、俺のちょうど後ろの壁がニ時間だけ解放される。その間にここを抜けた者がクリアとなる。
ただ、普通に抜けても駄目だ。条件がある。」
条件?
「条件は俺に一撃でも入れることだ。俺に一撃入れたらこのフカミちゃんシールを受験者の名前付きで渡すのでそれを証拠とする。なくしたらもう一回挑め。」
シールってこれまたかわいいな。
「この三日の間、俺は隠れずお前らを叩きのめしに森を徘徊する。
仲間で群れても良いし俺に対抗するのも良いぞ。」
良かった。
仲間同士で行動するのがありなら、俺も少しは生き残れそうだ。
頼んだぞ3人とも!
「別に叩かれて失格なんてものはない。
三日後に出ればいいだけの話だ。寝過ごしたらアウトだけどな。
安心しろ、手加減はするし武器もオモチャの剣だから死ぬことはない……多分。」
多分って……オモチャの剣でも死ぬ可能性あるのかよ。
「食料とかはこの森にいる野生動物でも狩って食え。ここは夜天閣の所有する山だし許可ももらっているので心配はいらない。」
深見は「そのくらいか」と呟いた。
そして腕で自分の目を隠す。
「それじゃ全力で逃げろ。俺は一時間後に動く。いーち、にーい、さーん……」
そして、500人が一気に森の中に散らばった。
ーーー
俺はとりあえず、この一年の面子で行動することにした。
群れて行動して良いのなら固まったほうがいいに決まっている。
「夜敷、どこ目指す?」
「とりあえず森の裏側、師匠から離れる。」
「ハハ!鬼ごっこぉ!」
俺たちは森の中を駆けながら作戦会議をする。
一応、スマホにはこの森の地図が送られてきており、行動可能範囲と壁の位置が記載されている。
見た限りだとかなり広い。
一周15キロメートルはありそうだ。
「裏側に着いたら拠点を決めて物資を調達する。」
「拠点決めちゃって大丈夫か?見つかったらどうするんだ?」
「どう行動しても見つかる時は見つかるんだ。それに、こっちも動いてたら出会う確率も上がる。」
確かにそうか。
それに以前見たあの人の実力なら、見つかることは死ぬことを意味するだろう。
殺しはしないだろうけど。
「おっ!」
突然、黒金が手を錐のように鋭くして地面に突き刺した。
先端には一匹のムカデが串刺しになって蠢いていた。
「食料!」
「えぇ……」

それ食べるつもりなの?
毒あるんじゃないの?
「でかしたぞ奈鞠。」
「いいね!その調子!」
俺の反応とは反対に二人は黒鉄を褒めた。
日本って贅沢な国だったんだな。
しばらく走り続けると、夜敷が速度を緩めた。
「よし、裏側だな。」
「やっと着いたぁ!」
30分くらいノンストップで走ったけど、まだ体力には余裕がある。
よし、まだ着いていけている。
「これからどうするんだ?適当な洞穴でも探すのか?」
「そんなとこ、見つかったら一発で袋の鼠になるだけだろ。出来るだけ木が密集したところでひっそりと過ごそう。」
なるほど。
サバイバルといったら洞穴生活だと思っていたが違ったらしい。
「右響」
「はいよっと」
右響は名前を呼ばれると分かっていると言わんばかりに指をパチンと鳴らした。
数秒ほど硬直した後に言った。
「左だね。音の響き的に鬱蒼とした森が広がってると思うよ。」
「分かった。行こう。」
「こういう時だけ右響は頼りになるなぁ!」
「なんだよ"だけ"って……」
黒金が紫音の背中をバシバシと叩き、右響は鬱陶しそうにしながら先頭を務めた。
でも、なんかこう言うイベントはワクワクしてしまうな。
緊張感が欠落していると言われてしまったらそこまでなのだが、どうにもこの昂りが抑えられない。
自然と笑みが溢れそうになる。
いや、堪えろ俺。
3人は真面目なんだ、俺だけ遠足気分だなんて失礼だろう。
ただでさえ足手纏いなんだから気を引き締めていこう。
ーーー
——スタート地点——
俺はハットリ。
夜天閣に所属するエリート忍者だ。
ランクはD。
小学生の時に忍者に憧れて以降、毎日忍者としての修行をこなしている。
分身と螺◯丸は練習中だ。
現在スタート地点の木の上で待機している。
夜天閣の連中は見る目がなく、俺をDランクごときで止めている。
俺は本当ならSランクの実力があるのに。
しかし今回、この交流会で思わぬ出世のチャンスが舞い降りてきた。
まさかの特別Bランクへの昇格権。
さらきこれだけじゃなく、内容は忍者の俺にとって欠伸が出るようなものだったのだ。
もちろん、深見という男を知らないわけではない。
むしろ、知っているからこそ自信が湧いてくる。
自分が強いと自覚している奴は、力を見せようと急いで人を探し回るだろう。
このスタート地点から離れてな。
これぞ忍法『灯台下暗し』だ!
一撃入れる方は寝首でもかいてやれば一発だろ。
そろそろ始まってから一時間が経つな。
俺はここで三日間乗り越えてみせるぜ。
夢の高収入、想像が膨らむぜ!
「98……99……3600……っと。もういいかーい。」
深見は頭をポリポリと掻きながらのんびりとした声で言った。
呑気なことだ。俺がここにいることも知らずに。
「さて、気の向くまま足の向くまま……のらりくらり……うん、語彙力がいい感じだ。」
そんなことを呟きながら、深見は森の中へと姿を消していった。
勝った。
一度去ったら一日は戻って来ないだろう。
「俺の作戦勝ちだぁ!」
「ほぉ、どんな作戦だったんだ?」
「そりゃあ裏をかいて……え?」
ハットリが背後を振り返ると、そこには深見がいた。
そして攻撃をする暇もなく、何をされたか分からないまま気絶して木から落ちた。
「よし、まずは一人目。」
深見は手をパンパンと叩いて気を取り直す。
「裏をかく……か。いい言葉だな。俺も裏をかいて、あえて裏側から探してみようか。」
今し方倒した相手の気絶体を跨いで今度こそ森の中へと消えていった。




