17話 予告
入学から一ヶ月と少しが経過した。
夜の世界でも気温は高くなり、何もしてなくとも汗ばむ季節となった。
現世ではそろそろ始まる夏休みムードが漂っている。
俺といえばあれから毎日鍛錬に励んでいる。
夜気の操作はもちろん、基礎体力の鍛え方や体術なども夜敷に教えてもらいながら日々努力している。
まだまだ強いとはいえないかもしれないが、だいぶ戦えるようになった。
でも、まだ足りない。
みんなの足下くらいには行ったかもしれないが、それでもなお首が折れそうなほど見上げなければ見えないステージに彼らはいる。
地道で良いから這い上がって行こう。
あの後も何回か任務に行った。
もう一度あんなことが起こるんじゃないかと張り詰めていたのだが、拍子抜けするほど簡単だった。
まあ半分以上一緒に行った黒鉄とか夜敷が倒してるんだけどな。
何もしてないわけじゃないよ?
ちゃんと戦ってるしFランク夜魔には苦戦もしなくなった。
俺だって強くなってるんだ。
最近になって、やたらと四平が忙しそうにしている。
やはり、あの夜魔の組織の事についてだろうか。
夜天閣での四平の立場がまだいまいち分かっていないのだが、結構偉い人だったりするのだろうか。
そうだ、この前初めて給料を貰った。
シルラの任務のボーナスで初任給がこれがまたすごい額になった。
新車を買えるくらいだ。
学生にこんな額良いのかと思うが、命をかけているのだから妥当だな。
半分くらいは四平への借金返済に充てて、残った分は口座に入れた。
それでも潤っている懐にテンションが上がってしまう。
何はともあれ、順調な生活を過ごしていると言っても過言ではないだろう。
今日もこれから朝のホームルームから始まり訓練で終わる1日が待っているのだ。
気合い入れていこう。
「おはよう。」
8時半になんか疲れた様子の四平が入ってきた。
かろうじて笑顔を演出しているが、休みたいオーラが滲み出ている。
教師がブラックというのは本当らしい。
「先生お疲れだね。あの件?」
「ああ、そうだね。色々追われてて……。」
「珍しいですね、先生が疲れるなんて。」
「私が手伝おっか!?」
「ありがたいけど、大丈夫だよ。ただ5日ほど寝てないだけだから。」
つまり重症だな。
睡眠は大切だぞ?1日30分でいいから寝た方がいい。
「さて、本題に入ろう。」
四平は頬をパンと叩いて気を取り直した。
「前回話した通り、夜魔の組織が存在することがほぼ確定した。この一ヶ月の報告では例のマークが入った夜魔がCランクが7体、Bランクが3体、Aランクが1体だった。どれも強力な力を持つ夜魔だったので油断はできない。
故に僕たちはある対策を練った。」
「それは?」
「『夜天閣交流会』だ。」
交流会?楽しそうな響きだな。
「先生、その交流会では何をするんですか?」
夜敷が問う。
「夜天閣に所属する三人のSランク資格所持者から君たち生徒に試験を設ける。
これにより、夜天閣員全員のレベルアップを図る。」
「は?」
全員の口から疑問の声が漏れる。
そんな事はお構いなしと言わんばかりに四平は話を続ける。
「期間は明日の朝十時から二週間サバイバル形式、ここから北にある現世の霧野山で開催される。
試練の詳細は当日試験官から説明される。」
そんなすぐに始めるのか。
二週間、しかも現世でって......一般人に見られたりするんじゃないのか。
そこら辺の対策もしているのだろうか。
「せんせー」
「なにかな?」
「その試験をクリアすると何か貰えるんですか?」
「よく聞いてくれたね。これをすべてクリアすると、特別Bランク資格を得ることができる。」
「え!?」
え、なにそれ。
特別ってなんかすごいの?
「紫音、特別なんたらって何?」
「夕陽は知らないか。特別資格っていうのは昇格試験を飛ばして得られる資格のことだよ。
夜天閣はランクが上がるごとに色々と融通効かせてくれるし、給料も上がる。
これはチャンスだよ。」
なるほど。
そんなメリットがあるのか。
確かにそれならやる価値もある。
でも、Fの俺がいきなりBになったら……ふはは、妄想が膨らむな。
「じゃあ今日はもう解散にするから、明日に備えて休むも良し、鍛錬するも良しだよ。
僕は寝てくるよ。」
そう言って四平はフラフラとした足取りながらも素早い動きで教室を出ていった。
余程疲れてたんだな。
ゆっくり休んでくれ。
教室に取り残された俺たちは教室を出ることなく、伝えられた情報を整理していた。
「夜敷!Bランク資格だって!これで俺も出世だぁ!」
「待て右響。試験内容も不明で試験官がSランクだぞ。そんな思い通りに事が進むとは思えない。」
報酬だけを見てはしゃぐ紫音を現実を見ている夜敷が呆れたように言う。
「でもチャンスだよ?」
「それはそうだがお前、Sランクと戦って勝てって言われてできると思うか?」
「……いや。」
「アハ!弱気!右響はメンタルが足りなぁい!」
「じゃあそう言う黒鉄はどうなのさ!」
「アハ!無理。」
「はいはい。とにかく、今日は明日に備えて解散しよう。」
夜敷は二人の茶番を適当に終わらせてその場を締めようとした。
「みんな、今から一緒に特訓しない?」
「私はパスだ。今日は明日に備える。」
夜敷はそう言って、教室を出る。
「釣れないなぁ。夕陽は?」
「……いや、俺もパスしようかな。」
「夕陽もぉ?」
明らかに落胆する紫音に黒鉄が肩を叩く。
「安心して右響、私がボコボコにしてあげるからぁ。」
「ふん、こっちのセリフだね!じゃあ夕陽、また明日ね!」
「うん、また明日。」
俺は二人の背中を見送った後、自分の部屋に戻った。
なぜ俺が紫音の申し出を断ったのかだが、理由は俺がある事に奮起しているからだ。
「ふん!ぐぬぬぬ……」
俺は手に力を込めて唸り声を上げる。
破ァとかグーとか色々試しながら繰り返す。
そう、俺がしているのは夜術の発現の実験だ。
俺は紫音や黒鉄、川篠など色んな人の夜術を見た。
その度に感動し、憧れる気持ちが強くなった。
それが最近になって気後れとなり、焦りとなった。
夜敷のように夜術がないやつもいるが、あれは夜敷が強いから成り立っているだけだ。
一朝一夕に出来るわけがないとは思っているが、どうにも上手くいかない。
あれこれ試してみてはいるのだが、何も掴めずにいる。
俺には、そっちの才能がないのかもしれない。
だが、才能が無くとも俺は諦めない。
何かを守るためとか大層な目的を持っているわけでもなく、ただ強くなりたいという単純な気持ちだ。
強くなったからなんだと思われるかもしれないけど、男なら誰しも思う事だろう。
強くなりたい理由なんて後付けでいい。
結局その日もなんの成果も得られず、翌日を迎えた。




