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夜天戦線  作者: シナノ
第二章 初任務
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16.5話 不吉な予感

 あの任務から数日後、俺たちは四平に呼び出された。

 どうやら当事者から話が聞きたいらしい。

 集合場所は俺の知らないホームルーム棟の地下室だった。

 階段裏にある低いドアから下に続く階段を降りると、コンクリートでできた通路に出る。

 一番奥の両開きのドアが設置された部屋が目的の場所だ。

 中は死体安置所だった。

 明らかに学校の校舎に似つかわしくない施設に、違和感を感じた。

 夜敷、紫音、黒鉄も存在は知りつつも入るのは初めてらしい。


「よく来てくれたね。」

「おはようございます、先生。」

「うん、おはよう。今日来てもらったのは他でもない、聞きたいことがあるのと見て欲しいものがあるんだ。」

「見て欲しいもの……ですか。」

「とりあえず着いてきて。」


 四平は何か焦っているように会話を早く切り上げて俺たちを奥へと案内する。


 案内された先には白衣を着た知らない女の子と宇喜田がいた。


「宇喜田さん。」

「あ、どうも……。」

「お体の方は大丈夫でしたか?」

「ええ、良くしてもらいました。」


 どこか暗い。

 元々暗い人ではあったがそれ以上に暗い。


「川篠さんのことは残念でした。」

「ええ、でも、仕方のない事だったんです……。私たちはいつも死と隣り合わせですから。」


 その言葉には重みがあった。

 そして、それは流れで夜天閣に入った俺にグッとくるものがあった。

 

「連れてきましたよ。」

「うむ、ご苦労じゃった。それじゃ、話を始めるぞい。」


 そうやって白衣を着た女の子が言った。

 この子は何だろうか、背丈も小学生のように小さい。

 桃色の髪を腰まで下ろして丸メガネを掛けている。


「その前に自己紹介からじゃの。わしは雇われの研究者、有葉知恵(あるばちえ)じゃ。よろしくの坊や達。」


 中々いいキャラ付けだな。

 子供の遊びにしては喋り方も名前もよく出来てる方だ。

 

「うん、よろしくね知恵ちゃん。」


 もしかして見せたいものってこの子か?

 四平に隠し子がいて世話してくれってことか?

 まぁ、この場所に来た時点でそんなことは無いだろうが。


「品野、勘違いしてるみたいだけど、この人は成人どころか還暦もとっくの昔に終えてる方だからね。」

「えぇ!?」


 俺はそう言われてもう一度この幼女を見てみる。

 子供特有の瑞々(みずみず)しい肌、ぷっくりとした頬、俺の腹くらいまでの身長。

 どう見ても大人には見えない。


「もう、ちゃん付けとは幾年ぶりかの。年甲斐もなくドキッとしてしまうでないか。このババアの心臓に負荷をかけるもんじゃ無いぞよ。」


 モジモジしながらそう言うと、コホンと咳払いをして話に入る。


「今回お主らに来てもらったのはこれについて聞きたいからじゃ。」


 そう言って遺体安置棚を開けようとしてジャンプする。

 しかし届かず、気を利かせた四平が開けた。


 トレイの上には1人の男の死体があった。

 額から上がない特殊な死体。

 シルラだった。


「前の夜魔じゃん。どうしてこれを?」

「見て欲しいのはここじゃ。」

 

 有葉はよじ登るようにトレイに顔を覗かせ、シルラの右肩を指差した。

 そこにはフクロウのようなマークが黒く書かれていた。


「これは?」

「わしも分からん。じゃからお主らに此奴と戦った時の発言などを聞いとこうと思っての。何か不審なことを言っとらんかったか。」


 俺たちは顔を見合わせる。

 

「俺は知らないよ。夜敷は?」

「残念だけど何も。」

「私も知らなぁい。」

「申し訳ないですが私もです……。」


 俺は記憶を掘り起こして思い出してみる。

 そして、あの時ボソッと聞こえた言葉が頭に浮かんでくる。

 

『癪だがあの方たちに援助を願おう。』


「あの方……」

「おや?何か知っとるのか?」

「いえ、知ってるわけではないのですが、シルラが……この夜魔が引こうとした時あの方に援助を求めるとか言ってた気がして。」

「ほぅ……」


 有葉は俺の言葉を聞いてしばらく顎に手を当てて考え、結論を出したように顔を上げた。


「やっぱりそうじゃの。たか坊。」

「ええ、有葉さんの仮説は正しいと見ていいでしょう。」


 二人は意見が合致したことを確認して言った。


「知能を持った夜魔の組織が存在する。」


 その言葉に全員の目が見開かれた。

 夜魔の組織。

 それはつまりシルラのような夜魔が集団で協力しているということ。


「そんなバカな!奴らに仲間意識は無いはずです!」

「組織とは色んな形がある。目的の一致、トップの支配など、構築された理由はわしらにも分からん。

 ただ言えることはわしら人間にとって良いことではないということじゃ。」


 有葉は「それに……」と続けて話す。


「このマークを詳しく調べた。その結果これは書かれているのではなく夜気で刻(・)ま(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)と分かった。何より、その夜気はこの夜魔のものと異なっていたんじゃ。

 つまり、これを刻んだ者が他におる。」


 どんな奴だ。

 シルラより強いのだろうか。

 それに、組織だとして何人いるのだろうか。

 疑問は残る。


「でも、組織だったとしてどうやって探すんです?」

「それは僕でも困難だったから相手が尾を見せるまでは何も出来ないだろうね。」

「ま、何か分かるまでわしは研究を続ける。今日は悪かったね、もう戻ってもらって構わないよ。はい、これ飴ちゃん。」

「あ、ありがとうございます。」

 

 俺たちは有葉に飴ちゃんを貰って、教室に戻る。

 四平はまだ有葉のもとに残った。


「うーむ。なんじゃろうなぁ。この胸騒ぎは。」


 扉が閉まる瞬間、そんな言葉が聞こえた気がした。


 ーーー


 とある山の地下

 そこには、かつて日本が秘密裏に実現を目指していた「地底計画」の跡地があった。

 広さはなんらかの市町村に劣らないほど広大であり、人が移住する計画を立てていた。

 しかし、バブル崩壊とともに計画も崩れ、記録も全て処分された。

 夜の世界におけるその跡地にて、三人の影がボードゲームの置かれた丸いテーブルを囲んで話していた。


「ん?あら、シルラ死んじゃった。」


 そう話し始めたのは緑髪の男だった。脂肪も筋肉も少ない痩せ型の男で、ノースリーブのシャツに上着を肩を出すように着ている。

 左手は手袋をしているかのように手首を境に真っ黒になっていた。

 

「あいつ集団行動が嫌いだからって逃げ出したらすぐこれか。」


 もう一人は藍色の髪をしていた。顔や体つきは中性的で、男でも女でもあるように見える。

 目の下には大きなクマが出来ており、覇気のない雰囲気を出している。


「まあ弱かったしいいじゃないの。でも、これから面白くなるってのに戦力が一つ減ったのは残念かなぁ。」


 最後の一人は茶色のフードを深く被り、その素性は一切わからない。

 しかし、声からして男であるのは分かる。


「さて、戦力もだいぶ集まった。そろそろ第一段階に入ろうか。」


 その言葉でいつの間にか三人の後ろに立っていた六人の目が光る。

 フードの男が立ち上がり、宣言した。


「夜天閣を潰すためのね。」


 

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