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夜天戦線  作者: シナノ
第二章 初任務
15/28

15話 vsシルラ

 シルラと夜敷・右響の戦いはお互い譲らない状況が続いていた。

 夜敷が攻めてシルラが受け、カウンターで発砲するも避けるか弾かれる。

 そんな攻防が始まってからずっと継続している。

 

「(こいつ、やりにくいな。)」


 シルラは苦戦を強いられていた。

 変則的な動きで尚且つさっき戦った巨漢よりも素早く的も小さい夜敷と呼ばれる少女。

 刀の扱いも上手く、散弾銃の弾を一斉に弾き落とす技量を持っている。

 後ろで耳に両手を当ててこちらをじっと見ている右響という男は一見何をしているのか分からず、攻撃を仕掛けてくる気配もない。

 ただ、何かをしていることはシルラの勘が訴えていた。

 しかし、女の方を狙っても全ていなされ、男を狙っても女が必ず守りに入る。

 

 シルラの夜術『銃生成』には一回の弾薬制限が課せられており一度使った武器には10分のクールタイムが発生する。

 先に使った三種類の武器はまだ使えず、武器の種類はこのショットガンを含めあと2つ。

 ここで無闇に武器変更をするのは悪手だと考え、クールタイム終了まで時間を稼ぐことにした。

 

「(この夜魔強いな……右響のバフをかけた私でも決めあぐねるなんて。これがCランクか。)」

 

 対する夜敷もやりづらさを感じていた。

 たまに仕掛ける本気の一撃も見切られ、挙句にカウンターを放つ余裕すら見受けられる。

 シルラは勘も良く冷静で、時折右響を狙って撃ってくるので、そちらの守備にも回らなければならない。

 右響もバフ掛け中は集中力がいるため動けない。

 一つ間違えれば右響のバフは無くなり、大幅なパワーダウンをしてしまう。


 夜敷の戦闘スタイルは速度と技術をもって相手を切り伏せる短期戦闘型の前衛。

 右響の戦闘スタイルは夜術『音』を用いた後衛。

 特定の周波数による身体能力の向上、振動による妨害などの味方支援型。

 本来二人が合わされば倒せない夜魔などいなかったが、相手が格上だとそうもいかなかった。


 夜敷はこのままでは動き回っているこちらが不利になると思い、一度右響と合流する。


「右響、あの夜魔は手強い。もっと出力あげられるか。」

「出来るけど駄目だ、これ以上は心臓に大きな負担がかかる。」


「立ち止まって作戦会議とか余裕だね。」


 シルラがそんなことを許すはずもなく、容赦なく追撃する。

 夜敷は右響を脇に抱え、跳躍して避ける。

 

「一回でいい。それで決める。このままじゃどの道消耗して死ぬ。なら、一か八かに賭けるしかないだろう。」

「……分かった。」


 すると夜敷は自分の刀を鞘に納める。


「……何?降参?」

「うーん……いや、勝算かな?なんてね。」


 シルラは右響の余裕なダジャレに眉を歪ませるが、2人はそんなことはどうでも良いかのように構えた。

 右響は先ほどと変わらぬ両手を耳に当てるスタイル。

 夜敷は姿勢を低くし、刀に手をかけて腰溜めに構える。


『拍振・激』


 右響がそう言った瞬間、夜敷の心拍数は増加し、一回の脈拍の強さも大きくなった。

 全身に血が巡るのを感じると同時に、着々と体力が失われる感覚に襲われる。


『深見(ふかみ)流一刀術 霞斬(かすみぎ)り』


 瞬間、シルラの視界から夜敷が消えた。

 ほんの刹那のタイムラグの後、自分の右肩から左横腹にかけて一本の筋が入り、そこから赤い血が噴き出した。

 

「なっ……んだ……今の速さ…………!」


 シルラはそう言って仰向けに地面に倒れ込んだ。


「はぁ……はぁ……うぐっ!」

「夜敷!」

 

 夜敷はさっきの反動で膝から崩れ落ちる。

 全身が痺れて麻痺したようになり、握力も思うように働かずに刀が手から滑り落ちる。

 咄嗟に右響が駆け寄り、夜敷の体を支える。

 しかし、右響自身も夜気の消耗が激しく回復に時間を要する。


「やったね、夜敷。」

「ああ、なんとかな……。」


 2人はシルラの死体を確認する。

 白目を剥き、大きく開いた傷口からはゴポゴポと流血している。

 明らかな致命傷。疑う余地すらない。


「とにかくみんなと合流しよう。」

「そうだな。まだ終わりじゃない。」

 

 死んでいる事を確定させ、2人は品野たちの元へ急いだ。


 ーーー

 ——夕陽視点——


 川篠の応急処置が終わり、ふと戦場に目をやる。

 しかし、俺が見たときにはもうシルラは地面に倒れ、夜敷と紫音が駆け寄ってきているところだった。


「2人とも……勝ったの?」

「ああ、問題なく終わった。」

「俺のおかげでね!」

「おい。」


 どうやら軽口が叩けるくらいには元気らしい。

 でも、そっか……勝ったのか。

 やっぱり凄いなぁ、この2人は。

 黒鉄も不覚を取っただけで、戦いに参戦できていたら貢献できていたのだろう。

 俺だけが足手纏いは早めに抜け出したいな。


「じゃあ目的も果たせた事だし、夜天閣に帰ろう。早くしないと川篠さんと宇喜田さんが危ない。」

「そうだな。私は宇喜田さんと川篠さんを担ぐから、右響は奈鞠と品野を頼む。」

「りょーかい!」


 そう言って夜敷は少し離れた場所に寝かせていた宇喜田の元に歩いていった。

 2人とも戦って消耗してるはずなのに、積極的に動いてくれる。

 俺も何かサポートできないか。


「きゃー!どこ触ってんの右響ぉ〜!」

「どこも触ってないよ!」


 この2人は相変わらずバカップルみたいな茶番を展開しているな。

 見る分には面白いからいいが、巻き込むなよ?


 何はともあれ、全員生き残った。

 まだ生死の境目を彷徨っているのが2人いるが、今の時点では生きているし、帰って癒野さんに直してもらえば元気になるだろう。

 初任務だというのに何もしてないが、結果オーライだ。


『狙撃銃』


「ん?……品野!危ない!」

「え?」


 俺は夜敷の言葉で後ろを振り向く。

 すると、そこにはうつ伏せになってスナイパーを構えるシルラの姿があった。

 

「ハハ!もう遅い!」


 引き金が引かれ、銃弾は一直線に俺目掛けて飛んでくる。

 まずい、避けないと。

 いや、間に合わない。

 どうする、死ぬ?

 役に立てずに死ぬのか?

 それだけは嫌だ!


「おらぁ!!」


 突然誰かに体を突き飛ばされて地面に転がった。

 そのおかげでなんとか銃弾を躱すことができた。

 おそらく紫音か?助かった。


「ありが……と……う」


 ついさっき俺がいた場所に倒れた男を見て俺は言葉を失った。

 俺を突き飛ばしたのは右響ではない、黒鉄でもない。

 ガタイがよく、血が滲んだ包帯を下手くそに巻かれた男。

 川篠だった。

 

「嘘……でしょ……」


 しかし、俺が言葉を失ったのはそこではない。

 川篠の首だった。

 横に抜けるように風穴が空いていたのだ。

 位置的に動脈を貫通している。


「川篠さん!」


 俺は急いで駆け寄った。

 体を返し、仰向けにする。


「ハハ、すまんな……二度寝するわ…………。」

 

 川篠はゆっくりと瞼を閉じて動かなくなった。

 脈は止まり、全身の筋肉が緩んだ。

 

 完全に、死んでいた。


 俺を、守ったせいで。

 俺が愚図なせいで。

 俺のせいで……人が死んだ。


「ま、狙い通りじゃないけど1人確実に殺せたよ。」


 放心する俺に、シルラのそんな言葉が聞こえてくる。

 俺はハッとしてシルラの方を向いた。


 服に血は滲んでいるものの、体に傷はどこにも見当たらない。

 無傷だ。

 でも、さっきシルラは2人が倒したはずだ……。

 おかしいじゃないか。


「再生能力……てことはあいつ……推定B以上!?」

「僕をそこら辺の雑魚と一緒にするな、このくらいできて当然だ。脳を破壊しないと僕は死なないよ。」


 無理だ、勝てない。

 どう足掻いても詰みだ。


「にしても、滑稽だね。その男の無駄死には。」

「……は?」

 

 今、なんて言った。


「わざわざ身を挺して部下を守ったつもりかな?自分より弱いやつを生かしてどうするんだよ。感動シーンを演出したかったのか?だっさいなぁ。」

「……」

「そこの雑魚。お前が取るべき行動は盾になって他の奴らを逃す事だったんだよ。弱い奴から犠牲になれば勝率は上がる。

 簡単な事だろう?

 まぁ、どの道全員死んでただろうけどね。」

 

「……す……。」

「あ?」

「お前は、殺さなくちゃいけない!」


 俺はゆらりと立ち上がり、これまでにない怒りを持ちながらシルラに対面した。

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