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夜天戦線  作者: シナノ
第二章 初任務
14/27

14話 劣勢

『踊銃弾』


 その言葉が聞こえた瞬間、五発ほどの連続した銃声が轟いた。

 しかし、そのどれもが俺たちの方向どころか視界にすら入ってこない。


「外したんか……?」

「そう、ですかね。」

「いや、違う、この音……!危ない!」


 紫音は叫びながら俺にタックルする。

 そして、俺がさっきまでいた場所を黒い銃弾が通過した。

 それに少し遅れる形で他の四発も川篠や夜敷を襲う。

 どっちも無事だ。


「ありがとう紫音。」

「いいってこと。」


 しかし、銃声から着弾まで時間が空きすぎている。

 どんなタネだ。


「今のは跳弾だ。」

「チョーダン?」

「うん、弾が反射して弾道が変わることを利用した技術だ。でも、ここまで時間差でかつ正確に撃つのは技量どころの話じゃない。」


 跳弾、そんなことが可能なのか。

 いや、可能か。夜術があれば。

 しかし、想像以上に厄介だ。


「敵を探しましょう。」

「そうやな、宇喜田!上から見えんか!?」

「木が邪魔ですが、やってみます。」


 宇喜田は空高く上昇していき、上からの索敵に徹する。

 俺たちは地上で警戒しつつ反撃のチャンスを見計らう。


「視界良好、遮蔽物無し。」


 また、銃声が鳴り響く。

 今回は三発。


「一発目」

「あ」


 黒鉄から小さく言葉が漏れる。


「どうした……って……」


 黒鉄を見るとその場にへたれこむように座っており、太ももからは滝のように血が流れ出ていた。

 白い足は赤に染まり、脈に合わせて血が吹き出る。

 当の本人はニヤケ顔をしているが、間違いなく重症だ。


「アハ!立てないや!」

「黒鉄!」

「おい!よそ見するな!」


「二発目」


 俺が黒鉄に駆け寄ろうとすると、右膝に強い衝撃が走り、バランスを崩して地面に顔から突っ込んだ。

 体を起こして見ると、俺の膝には風穴が開いていた。

 右足は思うように上がらず、今までに無い痛みを返してくる。


「うっ、あぅっ……!」

「夕陽!夜敷は黒鉄を診てくれ!」

「ああ、分かった!」


 その場にうずくまり、傷口を抑えて止血を試みる。

 しかし、指の隙間から流れ出てくる血液を目にする度に絶望感が襲う。


「三発目」


 突然、俺の目の前に何かがドサッと落ちてきた。

 宇喜田だった。


「宇喜田ぁ!」

「カハッエホッ!」


 腹部からの出血。

 腹に銃弾を食らったのか。

 間違いなく内蔵が傷ついている。

 俺と黒鉄の出血量を超える量だ。

 処置しないといつ失血死してもおかしくない。


「紫音……俺はいい、宇喜田さんを……」

「でも」

「いいから……!早く!このままじゃ死ぬ!」

「……分かった、夕陽も止血を続けてね。」

「ああ」


 紫音は自分の着ていたパーカーを脱ぎ、宇喜田の患部に押し当てる。

 俺も自分のシャツを破り、脚を縛って止血する。

 アニメで予習しておいて良かった。


 しかし、大幅に戦力を削がれた。

 まともに動けるのは川篠と夜敷と紫音。

 しかも紫音と夜敷は応急処置で手一杯だ。

 俺も動けるには動けるけど、まともな戦力では無い


「おらぁ!全部俺に撃ってこいやぁ、下手くそ!俺がリーダーやぞ!怖いんちゃうか!?」


「舐めやがって……」


 川篠が挑発する。

 シルラの憤りの声が微かに聞こえ、再び銃声が鳴った。

 10発だ。


「ふん、乗っかったな。」


 川篠は目を閉じて攻撃を待つ。

 そして、10発の銃弾が木や石、銃弾同士でぶつかり不規則な軌跡を描いて全方位から川篠に向かう。

 不可避の攻撃だ。


「は!よっと!」


 しかし、俺の予想とは裏腹に、川篠は体を捻り、全ての弾丸を避けきった。

 目を瞑っているのに、まるで見えているかのように。


「すごい……なんだあれ。」


 どこに何が来るか全部分かったような動き。

 無駄がなく、反射神経の域を超えた離れ業だ。

 

「ッチ……めんどくさ。」


「どうや夜魔ぁ!俺の夜術『オート回避』には遠距離武器なんぞ無駄なんだよ!」


 あれは夜術だったのか。

 それならあの人間離れした反応速度も納得だ。

 それにしても便利な能力だ。

 攻撃を食らわないってだけで強すぎる。


「お前の下手な鉄砲玉なんか目を瞑って避けられるんだよぉ!」


 川篠がそう言うと、どこからともなくシルラが目の前に降ってきた。

 そして、若干怒りの入った口調で話す。


「……じゃあ、どれだけ通用するか試してみようか。」

「ハッ!どんと来い!」


「多重身機関銃(ガトリン・オルージエ)」


 すると、シルラが握っていた黒いライフルは霧散し、粒子が再び集まって黒い筒状の銃へと変化した。


「ガトリングガン!?」

「へっ、大層なもん持ってやがる。」

「ほら、踊って見せてよ。さっきみたいに。」


 シルラのガトリングガンの銃身が一斉に回転し始める。

 それと同時に川篠が目を閉じる。

 そして、8つの銃口から一斉に銃弾が放たれ、エンジン音のような激しい銃声が辺りを支配した。

 弾が連なって見えるほどの高速射撃だ。


 しかし、これほどの弾幕に関わらず、川篠に届く銃弾は無かった。

 地面を蹴り、宙を舞い、木にぶら下がり、飛び移り、旋回し……。

 まるで猿のような俊敏な動きで、すべての攻撃を躱している。

 そして、不規則なタイミングでシルラに打撃を入れて、また木に飛び移る。

 見事なヒットアンドアウェイ戦法だ。


「くっ……鬱陶しいなぁ。」


「ほらどうした!銃使いが的を狙えず何ができるってんだ!?」


 シルラは動き回る川篠に照準を合わせることができず、防戦一方を強いられている。

 パンチやキックを左手で防ぎながら、右手だけであの銃を操作しているのだから当然だろう。

 時間が経つにつれてシルラが劣勢になっていく。

 いける、このまま押し切れる!

 

「……もういいや。あっちを先に殺そう。」

「え」


 シルラはそう言って、一度発砲を停止し、銃口を川篠から俺に移した。

 そして、再び引き金に指が掛かる。


「品野ぉ!」


 川篠がこっちに振り向き、俺と目が合う。

 そして、それを待っていたかのようにシルラは二マリと口角を上げ、唱える。


『高火薬銃(マグナム・オルージエ)』


 ガトリングは消えてマグナムが出現する。

 それをほぼノータイムで構え、川篠に向かって発砲した。

 そして、その銃弾は川篠の左胸を貫通した。


「うあっ!」

「そんな……」

「川篠さん!」


 なんでだ。

 川篠の夜術はオート回避だろ。

 それなのになんで当たるんだ。


「やっぱり、読み通りだ。」


 戸惑う俺を無視してシルラは嬉しそうに話し始める。


「さっきは目を瞑っても避けれるとか言ってたけどとんだブラフだったな。お前は目を瞑らなければ避けられない。」

「ハハ、バレたか……うっ……ゴブッ……!」

 

 川篠の服に赤黒く血が滲み、口からも大量の血が噴き出ている。

 明らかに致命傷だ。


「だっておかしいよね?目を瞑っても避けられるって言うのが比喩じゃないなんて。明らかに格上の相手に舐めプとか自殺行為だ。つまり導き出した答えがそれってわけだよ。」


 シルラは淡々と話していき、徐々に口角が上がり、笑いを堪えるような口調になった。


「群れる人間は仲間に弱い。仲間が狙われたら心配で目を開けるよなぁ。ボクはそれを狙ってたんだ。

 見事な踊りだったよ!ボクの手のひらの上でね!」


 シルラは高らかに笑った。

 さっきまでのダルそうな印象とは逆に楽しそうに。


「君はウザかったけど強くなかった。それだけだよ。」


 シルラがそう言って川篠の頭に銃口を向けた瞬間、俺の真横をものすごいスピードで影が横切った。

 そして、ガキンと何かが打ち合う音が聞こえて、シルラの銃が真っ二つに切断され、地面にゴトっと落ちた。

 呆然とするシルラの奥には刀を振り抜いた姿の夜敷が立っていた。


 速い……目で追えなかった。

 

「武器は抑えたぞ!」

「チッ、いいところで。」


「夕陽大丈夫か?」

「紫音、ありがとう。」

「ごめん、宇喜田さんがだいぶ重症で処置に手こずった。もう峠は越えたからしばらくは大丈夫だよ。」

「そっか、良かった。」

「夕陽も下がってて、ここからは俺と夜敷で戦う。」

「……分かった。」

 

 悔しいが、今の俺は戦いに参戦できるほど強くもないし動ける状態でもない。

 ここで勇んで「俺も戦う!」というのは簡単だが、戦況を悪化させかねない。

 ここはこの二人に任せるしかない。

 俺はその間、川篠を戦闘範囲外に移動させよう。


「まあ、ストレス溜まったから君たちで発散しようかな。」

「右響、頼む」

「任せて。」


 紫音はそう言うと手をグーにして自分の胸をドンドンとドラミングし始めた。

 叩くたびに空間が波打つような錯覚に陥り、太鼓のような重低音が響く。

 夜敷はシルラを中心に弧を描くように走る。


『拍振(はくしん)』


 その瞬間、夜敷の速度が大幅に上がった。

 足が消えて見えるほどに速い。

 そして徐々に間合いを詰め、切り掛かった。


『散弾銃《ドロボヴィーク・オルージエ》』


 地面に落ちた銃の部品が黒いモヤとなりシルラの手に集まる。

 そして、あっという間にショットガンが形成された。

 シルラは躊躇なく夜敷目掛けて撃ち放った。

 夜敷は攻撃を中断し、横に飛び退く。


「やっぱり狩りにはこれだね。」


 戦いが始まった。

 まだ二人の実力を完璧に知っているわけではないが、俺の数百倍は強い。

 今は二人を信じてやるべきことをやる。

 

 俺は貫かれた右足を引きずりながら川篠の元へ行き、這うようにして隅の方に避ける。

 川篠はとっくの前に意識を失っていた。

 顔色は悪く呼吸も浅い。

 早く治療しなければ。


「よいしょ」


 俺があたふたしながら考えていると、隣から声が聞こえた。

 見ると黒鉄が匍匐前進でこちらに来ているところだった。


「黒鉄……」

「確かここにぃ……」


 すると突然、黒鉄が川篠のポケットを漁り始め、何かを取り出した。

 コンビニで売っているようなライターだ。


「ライター?」

「待ってて!」


 そして、自分の手を金属化し、先端部分をライターで炙り始めた。


「あち!あち!」


 傷を焼くつもりか。

 確かにそれなら止血できるかもしれない。

 黒鉄は何考えているか分からないが、俺より頭が回るな。


 しばらくして黒鉄は炙るのをやめて川篠の服を脱がし、患部に押し当てた。

 ジュッという音と肉の焼ける匂いが鼻をつく。


「うああぁぐっ!」

「川篠さん、耐えてください。」


 おそらく聞こえてはない。

 意識も戻ってない。

 体の反射的な叫びだろう。


 少しの時間あて続け、血が止まったことを確認すると俺は川篠を黒鉄が持っていた包帯でぐるぐる巻きにする。

 ど素人で下手くそな巻き方だけど、無いよりもはマシだ、我慢してもらおう。


「ナイスでしょ!」

「うん、ナイス!」


 黒鉄はこの緊張感の張り詰めた空間にそぐわないニヒルな笑みを浮かべ、親指を立てた。

 俺もそれに倣って親指を立てて返した。


 それより、紫音と夜敷はどうなっただろうか。

 俺はふとそんな事を思い、戦場の方に目を向けた。


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