13話 銃の夜魔
「散開!!」
川篠の言葉で固まっていた全員が散り散りに走る。
俺もなんとか足を鼓舞して走り出し、近くの茂みに飛び込んだ。
「六人、女三男三、リーダーはあのガタイのいい男。
そして、一番弱いのは……。」
シルラはそう言うと俺の方を向き、スコープを覗く。
「お前だ。」
冷たい声の後、バンバンと銃声が響き、俺の足元に銃痕が2つ現れた。
俺は「ヒッ!」と情けない声を上げて尻餅をつく。
死ぬ……死ぬ死ぬ死ぬ!
銃?そんなのあり……!?
まずい……立たないと、殺される。
「あれ……外したか。寝起きで腕が鈍ってるな。」
シルラは目を擦ってもう一度俺に照準を合わせる。
俺は地面に腕をついて立ち上がろうとするが、足が言うことを聞かず、その場にもう一度転ぶ。
完全に腰が抜けた俺は逃げることができなかった。
「今度は外さない。」
銃の引き金が引かれ、バン!と銃声が響く。
俺は涙目になった目を強く瞑った。
キンッ!
と金属音が目の前から聞こえた。
パッと目を開けるとそこには俺を庇うように大の字に腕を広げる黒鉄の姿があった。
体の前面を金属化して俺を守ってくれたのだ。
「アハ!イッタイ!」
「ありがとう……助かっおわ!」
突然誰かに俺の襟首を掴まれて森の奥へと引きずられる。
俺とシルラとの距離がすごいスピードで遠ざかっていく。
シルラの姿が完全に見えなくなったところで俺は投げられるように解放された。
「バカ!何してるんだ!死ぬところだぞ!」
「夜敷……」
「だいたい……!いや、今日が初だもんな。」
夜敷は言いたいことをグッと飲み込んで冷静になったようにそう言った。
「品野は逃げろ。応援はもう右響が呼んだ。あとは私達で耐える。」
逃げろって……確かにさっきは取り乱した。
でも、逃げたくない。
「そんな、俺も残るよ!」
「それで死んだらどうする!力が無いうちは逃げるしか残されてないんだ!」
「っ……!」
夜敷は怒鳴るように言葉を畳み掛ける。
俺はその気迫に押されて黙るしかなかった。
「逃がさないって言ってるじゃん。人間ってバカ?」
突然上から声が聞こえ、俺と夜敷は振り向く。
見ると、木の枝の上にシルラが立っていた。
そして、銃口を再び俺に向ける。
「一人目。」
シルラがスコープを覗き、引き金に手をかけた瞬間、たくましい体をした男が浮遊したようにシルラの背後に現れた。
男が放った渾身の裏拳によりシルラの顔が横に歪み、そのまま森の奥まで吹っ飛んだ。
「大丈夫か!?品野!夜敷!」
「遅れてしまいました……」
「川篠さん……宇喜田さん」
助かった……。
あと少し遅れてたら死んでた。
「これは一年ちゃんたちには荷が重い思うんやが……応援が来るまで耐えれるか?」
「私は問題ありませんが、品野が……。」
その場にいる全員の視線が俺に向く。
三人に圧をかける意図はないだろうが、俺にはプレッシャーとして伝わる。
「品野、お前は無理せずに事が済むまでどこかに隠れてもええぞ。」
「ああ、誰も責めたりはしない。」
誰も責めない。
だから隠れてろ、か。
俺だって隠れたいし逃げたい。
でも、ここで逃げても変われない。
夜敷たちの強さに憧れたのに、逃げることはできない。
「いえ、大丈夫です。さっきは取り乱しましたが、今はなんともないです。」
言い切った。
逃げなかったぞ、俺は。
「違うねんな。」
「え?」
川篠は急に低い声になってそう言った。
「邪魔や言うてんねん。新人が足引っ張って、全滅したらどうすんねん!頑張るだけじゃ越えれん壁がある!半端な覚悟は死ぬぞ!」
「死ぬなら結構!死ぬ覚悟はできてますよ!」
俺はここで引いてはいけないと思い、勢いに任せてそんな言葉を口走った。
死ぬ覚悟なんてない。
死にたくない。
でも、死ぬ気で頑張る覚悟はある。
それを分かってもらう。
川篠は黙ったまま鋭い眼光で俺を睨みつける。
俺はそれに怯むことなく睨み返す。
「ハッハー!その言葉が聞きたかった!逃げんかったのは偉いぞ!」
川篠はパッと顔を明るくさせ、俺の方をバシバシと叩く。
鎌をかけられたのか。
「でもな、これは比喩でもなんでもないんやが、最悪死ぬぞ?」
「構いません……。」
俺の声は震え、冷や汗はダラダラ。
さっきの涙で目は赤く腫れていることだろう。
これではまるでただ虚勢を張っているようにしか見えない。
「よし!とりあえず右響と黒鉄と合流や。」
そう言って川篠は大きく息を吸い込んで、耳を塞ぎたくなるような大音声で叫んだ。
「右響おぉぉぉお!黒鉄えぇぇぇえ!集合やあぁぁぁあ!おわ!」
すると、突然川篠の体が少しだけ後ろに仰け反り、遅れて何かが猛スピードで通りすぎる。
隣の木には2センチほどの銃痕が残った。
それにしても今の川篠の動きなんだ。
銃声も聞こえなかったあの攻撃を避けた?たまたまか?
「来るぞ、気ぃ引き締めや。」
いや、今はそんなことはいい。
シルラに集中だ。
しばらく周囲を警戒する。
どこからかカサカサと草木の擦れる音がする。
どこだ……どこから来る。
俺のすぐ横の茂みが大きく揺れる。
「そこか!」
俺はそこに向かって思いっきり夜気で強化したパンチを放つ。
さっきのお返しだ!
「あ、良かった。みんブフォ!」
よし!手応えあり!
どうだ参ったか!てか参ってくれ!
「いてて……違うって夕陽、俺だよ紫音だよ!」
「え?あ、紫音……。」
俺がシルラだと思って思いっきりぶん殴ったのは右響だったのか。
くそ、卑劣な手を。
……嘘です。ごめんなさい。
「ごめん紫音、ちょっと間違えた。」
「間違えすぎだって……。」
「アッハハハハ!!」
すると、右響の後ろにいた黒鉄が大笑いする。
「今のは……!けっ、傑作だぁ!ハハハハハ!」
鼻を抑える右響を指差して腹を抱えて笑う黒鉄。
この緊迫した空気に似合わない雰囲気だ。
もとは俺のせいだけど。
「まったく、何しとんや自分ら。プフッ。ほんま緊張感の無い奴らやで。」
「川篠さんもちゃんとしてください……ん?」
夜敷は呆れたようにそう言ったかと思えば、急いで自分の刀を掴み、抜刀した。
刃先から火花が散り、飛んできた物体が真っ二つに割れて地面に埋まった。
「ボクを殺しに来といておしゃべりか。随分舐められたものだね。」
どこだ、姿は見えない。
弾はどこから来た?
上か?正面か?
くそ、俺のせいか。
意気込んですぐ空回りしてどうする。バカが。
「右響!分かるか!?」
「いえ、感じません。完全に隠れています!」
「スナイパーの怖いところは、狙撃者が隠れたらあとは一方的ってところだよ。
体験させてあげるよ。死ぬほどの緊張感を。」
俺たちは全員で辺りを見渡すが、どこにも見えない。
「踊銃弾」
ただ、その一言だけが、森の中に響いた。




