↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
言魂学院の無字姫と一文字使い ~ 綴りましょう、わたしだけの言葉を ~  作者: YY
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
79/80

第15話 剛と精

 午後から始まった武闘大会ですが、いつしか夕方が近くなっていました。

 参加生徒の数は膨大ですし、いくら乱戦で絞ると言っても限界はあります。

 ただ、その間に席を立つ観客はほとんどいませんでした。

 一文字使いの試合も二文字使いの試合も、それだけ見応えがあったと言うことでしょう。

 そして何より、これから行われる試合に、誰もが注目していました。


『それでは、本日最後の試合を始めます。 参加者は前へ』


 橘先生の合図に従って、訓練場の中央付近に集まったのは、九条陣営と神代陣営の『参言衆』。

 見るからにやる気満々な九条陣営に対して、神代陣営は静かに闘志を燃やしていました。

 更に、彼らから離れた場所には、お友だちの姿がありました。


「司! 陽奈子! 信志! 思い切りやっちゃいなさい!」


 腕をぶんぶん振り回して、ともすれば誰よりも熱くなっている一葉ちゃん。


「琴音さん、鈴香さん、和希くん、信じているわよ」


 優雅に佇んで微笑みつつ、どことなく圧のある光凜さん。

 うぅん、やっぱり勝ち負けに拘っているようですね。

 わたしとしては、内容が大事だと思っているんですけど。

 一色くんは特に反応することなく、落ち着いた様子で開始のときを待っていました。

 すると、今度は6人が言葉の応酬を始めたのです。


「ガッハッハ! お主と勝負するのは、いつぶりかのう。 楽しみじゃ!」

「わたし如きが金剛寺様のお相手になれるかわかりませんが、全力で挑ませて参ります」

「良く言うわい。 勝つ気しかないじゃろうが」

「やるからには、勝利を目指すのは当然のことです」

「まったく、変わらんのう」


 お酒を飲みながら丸めた頭を掻く金剛寺さんと、丁寧に一礼しつつも瞳に強い光を宿した榊原さん。

 中々、面白そうな組み合わせですね。


「鈴香! テメェ、今年こそはぶちのめしてやるからな! 覚悟しやがれ!」

「あらあら~。 陽奈子ちゃんは、相変わらず口が悪いわね~。 可愛いお顔が台無しよ~?」

「う、うるせぇッ! テメェこそ、その鬱陶しい話し方、なんとかなんねぇのか!? とにかく、勝つのはあたしだ!」

「うふふ~。 そう簡単には行かないわよ~。 わたしだって~、負けたくないし~」


 地団太を踏んで激昂している椿さんに比して、小鳥遊さんは穏やかでしたが、自然な動作で両腰から2本の刀を抜き放ちました。

 準備万端って感じですね。


「この日を待っていたぞ、和希くん! さぁ、今日こそ決着を付けようじゃないか!」

「……そうですね」

「何だ何だ、覇気のない! そんなことでは、やる前から負けているようなものだぞ!」

「……そうですか」


 元気いっぱいな宝来さんに何を言われても、適当に受け流している若草さん。

 暖簾に腕押し、柳に風って、こう言うことを言うんでしょうか……。

 ただし、若草さんも態度に反して戦意は高く、眼光は鋭いです。

 ちなみに九条陣営は、全員が手甲と脚甲を装備していました。

 普通に考えて刀に素手で挑むのは危険なので、当たり前の備えと言えるかもしれません。

 ……一葉ちゃんは、例外ですよ。

 そんなことを考えていると、互いが戦闘態勢に入ったのを確認した橘先生が、宝石に向かって声を発しました。


『ルール説明をします。 制限時間は30分。 言魂の使用は禁止です。 先に相手を全員倒した方が、勝者となります。 あとは自由です』


 極めてシンプルな説明ですが、わかり易いです。

 ただ、言魂の使用が禁止と言うことには、意外感を覚えました。

 一文字使いの試合も二文字使いの試合は、思い切り使っていましたし。

 わたしが内心で首を捻っていると、一色くんから思わぬ言葉が飛び出しました。


「俺が学院長に提案したんだ」

「え?」

「魔族が見ている可能性があるから、言魂の使用は控えろとな。 今更かもしれないが、わざわざ近くで観察させてやる必要はない」

「……心当たりでもあるんですか?」

「あくまでも、可能性の話だ。 具体的に何かを掴んでいる訳じゃない」

「……なるほどです」


 こちらを見ようともせずに、前を向き続けている一色くん。

 誤魔化している感じはしませんが……本当でしょうか?

 今日だけでも様々な彼と接したからか、些細な変化にも気付けるようになっています。

 その直感を信じるなら、一色くんは何かを知っているんでしょう。

 ですが……敢えて問い質すのは、やめておきましょうか。

 彼が話さないと言うことは、何かしら意味があるはずなので。

 そう信じたわたしは頭を切り替えて、訓練場に意識を戻しました。

 すると、橘先生が真っ直ぐに右手を挙げました。

 それを見た観客たちは静まり返り、息を飲む音が聞こえます。

 緊張感が高まり、遂に――


『それでは、試合……開始!』


 橘先生の右手が振り下ろされ、戦いの火蓋が切られました。

 同時に観客席が爆発したかのように盛り上がり、6人の『参言衆』がぶつかります。

 全員がほぼ同時に駆け出し、それぞれの相手とぶつかりました。

 完全に、1対1で戦うつもりだったようですね。

 天羽陣営と黒咲陣営の模擬戦は、チーム同士での戦いだったので、随分と毛色が違います。

 などと考えている間にも、戦いは進んでいました。


「ガッハッハ!」


 丸太のような腕を使って、砲弾のような拳を繰り出す金剛寺さん。

 一見すると豪快一辺倒ですが、体術の練度そのものが高いです。

 巨体から生み出されるパワーを、拳に集約させており、無駄が全くありません。

 しかも、スピードも相当速く、並の使い手では付いて行けないでしょう。

 もっとも、相対しているのは並には程遠い訳ですが。


「ふッ……!」


 金剛寺さんの右拳を紙一重で避けて、そのまま懐に潜り込みながら刀を一閃する榊原さん。

 その一撃は金剛寺さんの左腕に阻まれましたが、見事な動きですね。

 剣捌きは鋭く、体の動きは流麗で……どことなく、光凜さんに似ています。

 恐らくそれは、思い違いではありません。

 フェイントの掛け方や緩急の付け方も、まるで本人そのものでした。

 ただし、模倣と呼ぶにはレベルが高く、自分の技として会得しているのが伝わって来ます。

 結果としてこの戦いは、一葉ちゃんと光凜さんの戦いに、近しい展開になっていました。

 破壊力の高い金剛寺さんが攻める一方、それらを捌きつつ榊原さんが反撃しています。

 しかし、互いに決定打を出せずに、拮抗した勝負を繰り広げていました。

 これは、制限時間内に決着が付くか怪しいですね……。

 そこでわたしが別の戦いに目を転じると、全く違う光景が広がっています。


「このッ! 喰らいやがれッ!」


 手と言わず脚と言わず、何なら頭までも使って、怒涛の連撃を放ち続ける椿さん。

 金剛寺さんが圧倒的なパワーだとすれば、彼女は途轍もない手数です。

 一撃の威力はさほどなさそうですが、1発でも当たれば、一気に押し潰されそうな勢いですね。

 がむしゃらなように感じましたが、良く見るとそうではないと察せられました。

 1つ1つの攻撃が次の攻撃に繋がっており、金剛寺さんとは違うベクトルで無駄がありません。

 付け加えるなら、この戦法を選択して息切れ1つしないのは、恐ろしいまでの体力です。

 ところが――


「うふふ~。 嫌~」


 小鳥遊さんも、決して負けてはいません。

 口調はのんびりしていますが、2本の刀を嵐のように振り乱していました。

 それによって椿さんの連撃を完封し、僅かでも隙があれば攻勢に転じています。

 とは言え椿さんも、そう言った攻撃には確実に対処していますが。

 先ほど、榊原さんの対捌きを流麗だと表現しましたが、小鳥遊さんは激動と言う印象です。

 普段の様子からは考えられないほど、激しく舞い踊るかのように双刃を操っていました。

 奇しくも同じ連撃タイプの使い手なのもあって、この組み合わせも勝負が決するのに時間が掛かりそうです。

 そう判断したわたしは、最後の1戦に目を向けました。


「おぉッ!」


 遠い間合いから一瞬で距離を詰めて、渾身の右ストレートを放つ宝来さん。

 踏み込んだ足元が、陥没するほどの勢いです。

 動きは彼らしく一直線ですが、特筆すべきはその速度。

 若草さんからすれば、まさしく瞬きする間に、目の前にいるような感覚でしょう。

 その運動エネルギーが乗った拳も破壊力抜群で、一撃必殺の威力を誇っていそうでした。

 代償として隙は大きめですけど、相手に守りを強要させることで、カバー出来るかもしれません。

 それとも、別の対策方法でもあるんでしょうか?

 疑問を抱いたわたしですが、今は目の前の戦いに集中することにしました。


「……暑苦しいです」


 ウンザリしたようにボソッと呟きつつ、刀を手甲に添わせるようにして、宝来さんの拳をやり過ごす若草さん。

 素晴らしい技術ですね。

 あれだけのスピードを前にしても動じない胆力もですけど、少しタイミングを間違えば、戦闘不能は避けられません。

 それをあっさりとやってのけた若草さんは、言動に反して非常にハイレベルな剣士だと思い知らされました。

 ですが、それは守りに関してです。

 あくまでも攻めているのは宝来さんで、若草さんはまだ反撃出来ていません。

 全ての攻撃を受け流してはいますが、試合に勝つには反撃する必要があります。

 消極的……の割には、瞳は爛々としていますね……。

 ここにも謎が生まれましたが、隣から溜息が聞こえて振り向きました。

 そこには、言うまでもなく一色くんが座っている訳ですけど、何やらジト目になっています。

 えぇと、どうしたんでしょうか……?

 戸惑ったわたしは、おっかなびっくり問い掛けてみました。


「あの……どうかしましたか?」

「どうもこうも、連中の馬鹿さ加減に呆れていただけだ。 特に宝来と若草が酷いが、それを許している時点で全員同罪だ」

「そ、そんなことありません。 皆さん凄く一生懸命ですし、強いですよ」

「そう言う問題じゃない。 俺が問題にしているのは、戦い方がいつも通りと言う点だ」

「え? いつも通りだと、いけないんですか?」

「ルールを忘れたか? 今回は、言魂の使用が禁じられている。 それなら、そのルールに則った戦法に切り替えるべきだ。 その為に事前にルールを伝えておいたにもかかわらず……全くもって、嘆かわしい。 九条と神代は、何をしていたんだ」


 ぶつぶつと、文句を言い続ける一色くん。

 これはこれで、珍しいかもしれませんね……。

 それはともかく、ルールに則った戦法ですか。

 つまり今は、言魂ありきの戦い方をしていると言うことでしょう。

 一色くんがどうして、彼らの言魂を知っているのか気になりましたけど、ひとまず横に置いておきます。

 尚も不満そうな一色くんに苦笑したわたしは、顔を正面に戻しながら告げました。


「確かに臨機応変に戦うのは大切ですけど、自分の信念を持って戦うのも尊いと思いますよ。 今回の特別ルールの為に、スタイルを崩すのもリスクがありますし」

「……それは間違いない」

「一色くんであれば、その程度の調整は容易いのかもしれません。 ですが、皆が皆、貴方のようには出来ないんです。 もう少し、それを知って欲しいです」

「……一応、覚えておこう」

「有難うございます。 では、最後まで見届けましょうか。 たぶん、時間切れまで続きそうですけど」


 わたしが苦笑を深くしていると、一色くんに横目で見つめられるのを感じました。

 しかし彼は何も言わず、大人しく観戦を続行しています。

 恐らく、完全に納得出来た訳じゃありません。

 それでも、少しは歩み寄ってくれたんじゃないでしょうか。

 温かい気持ちになったわたしは薄く微笑み、激しい攻防を繰り広げる6人を見つめました。

 こうして『参言衆』同士の試合は今年も引き分けに終わり、当人たちは不服そうにしていましたが、観客席は大盛り上がりでした。

 その頃には日が暮れ始めており、わたしが初めて参加した言魂祭も幕を閉じます。

 ところが、最後の最後に1つのイベントが残っていました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。