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言魂学院の無字姫と一文字使い ~ 綴りましょう、わたしだけの言葉を ~  作者: YY
第3章

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第9話 別々の方向

 人混みに紛れて、往来を行く4人の集まり。

 全員がこれと言って特徴のない外見をしており、来ている着物もありふれたもの。

 だが、その実態は到底普通ではなかった。


「これで、一通り回ったか?」

「だな、ケプラー。 まったく、首都だからって無駄に広いんだよ」

「パウリ、文句を言ってんじゃないわよ。 任務はまだ、始まったばかりなんだからね?」

「タウンズの言う通りよ。 パウリ、少し舐めていないかしら?」

「うるせぇな、タウンズ、フェルマー。 別に舐めてる訳じゃねぇよ。 むしろ、この程度なら俺たちだけで充分だぜ。 なぁ、ケプラー?」

「それはまだ何とも言えんな。 ただ俺は、ロレンツ様の配下として、完璧に任務を遂行してみせる。 それだけだ」

「ふん。 そんなの、あたしたちだって同じよ。 レフラク様の配下として、恥ずかしくない働きをするわ。 ねぇ、フェルマー?」

「勿論よ、タウンズ。 その為なら、このようなみすぼらしい布を纏うことも我慢出来るわ」

「いや、それくらいは普通に我慢しろよ……」


 フェルマーの宣言に、溜息をつくパウリ。

 彼らの言葉通り、4人はロレンツとレフラクの配下たちだ。

 抑制具を付けて首都に紛れ込むことで、まずは詳細な構造を把握しようとしていた。

 だが、それはあくまでも下準備に過ぎない。

 真の目的は――


「やはり、【聡明叡智】は常に学院にいるようだな。 別の場所に隠れている可能性も考えたが、その様子はなさそうだ」

「そうね、ケプラー。 レフラク様たちが『肆言姫』を狙っている間に、潰しましょう」

「待てよ、フェルマー。 それは、出来ればの話だ。 優先事項は、社に援軍を出させないことだぜ?」

「パウリ、わかっているわ。 でも、可能なら始末した方が良いでしょう? それに、『核』を奪える可能性もあるわ」

「欲張り過ぎではないか、フェルマー? 今回、『核』の確保は優先度が低い。 それに関しては、『肆言姫』のデータが集まってからでも、充分と言う話だっただろう?」

「何よ、ケプラー。 パウリもだけど、そっちは随分と弱気ね? あたしたちは、最大の戦果を目指すわよ」

「だから、優先順位の問題だって言ってんだよ。 タウンズ、お前だって知ってんだろ? ここには、トーマがいるってことをよ」


 自分たちにしか聞こえないように、会話を続ける配下たちだったが、パウリの発した名前を聞いて、全員が突然立ち止まった。

 周りの人々が迷惑そうにしているが、お構いなし。

 それほど、彼らにとっては重大な問題だった。

 ロレンツとレフラクが四季たち『肆言姫』を襲っている間に、首都からの援軍を阻止するのが4人の主な任務ではあるが、その難易度を劇的に跳ね上げているのが透真。

 はっきり言って、勝てる見込みはない。

 それでも彼らに、退くと言う選択肢はなかった。

 毅然とした面持ちで拳を握ったケプラーは、決意に満ちた声で告げる。


「奴の相手は俺がする」

「……1人でやるつもりか?」

「仕方あるまい、パウリ。 他の言魂士や、行方知らずのクオン様……いや、クオンのことを思えば、戦力を固める訳には行かんのだからな」

「だからって、あんた1人で勝てると思ってんの? 相手は、腐っても元魔王よ?」

「タウンズ、勝つのはほぼ不可能だ。 ただ、時間は稼いでみせる。 どんな手を使ってでもな」

「……良いわ。 貴方がトーマを抑えてくれると言うなら、他はわたしたちに任せなさい。 首都を攪乱して援軍を出させず、『核』と【聡明叡智】の対処もしてあげる」

「頼んだ、フェルマー。 俺は、トーマのことだけを考える。 では、そろそろ行くか。 本格的な調査は、学院に入れる言魂祭が始まってからだが、今のうちに出来ることはやっておくぞ」


 そう言って足を踏み出したケプラーに続いて、パウリたちも再び往来を歩き始めた。

 そのとき――


「お兄さん、お姉さん! よろしければ、お団子はいかがですか?」


 店先に立った少女――玖乃が、ケプラーたちに声を掛けた。

 それを受けた4人は一瞬目を合わせ、代表してパウリが返事する。


「悪ぃな。 今は腹いっぱいなんだよ。 また機会があれば、買わせてもらうぜ」

「あら、それは失礼しました。 ところで皆さん、初めてお会いしましたけど、首都にいらしたのは最近ですか?」

「そうよ。 あたしたちは、旅の行商人なの。 今日は休みだから、商品は持ってないけどね」

「ふむふむ、なるほどです。 それでしたら、良い時期にいらっしゃいましたね。 近々、言魂祭が開かれるので、都合が付けば遊びに行ってみて下さい! わたしも出店するので!」

「えぇ、そのつもりよ。 では、失礼するわね」

「はい! お引止めして、申し訳ありませんでした!」


 丁寧にお辞儀する玖乃。

 そんな彼女をケプラーたちは見やっていたが、すぐに視線を切って調査を再開した。

 玖乃はしばし頭を下げたままだったが、やがて顔を上げる。

 そこには、極めて真剣な表情が浮かんでおり、おとがいに手を当てて思考を巡らせた。


「取り敢えず、わたしのことには気付いていないようね。 何が狙いかはまだわからないけれど、今すぐ動く気配はないわ。 だからと言って安心は出来ないし、トーマ様たちに共有しておきましょう。 場合によっては、わたしも動くことになるでしょうね」


 ブツブツと呟きながら、考えを纏めた玖乃。

 彼女がケプラーたちに接触したのは、情報収集が主な狙いだったが、歌奏の護符の力の確認の意味もあった。

 情報に関しては大して得られなかったものの、護符の効果は間違いないと確信している。

 そうして玖乃が改めて歌奏の有難みを実感していると、良く知る声が聞こえて来た。


「玖乃お姉ちゃん、こんにちは!」

「あら、サチさん! こんにちは!」

「今日はお小遣いもらったから、三色団子ちょーだい!」

「ふふ、かしこまりました。 少々お待ち下さい!」

「わーい!」


 玖乃――いや、クオンが人間に味方するようになった、切っ掛けの1人であるサチ。

 あれ以降、彼女は本当の意味でサチと親しくなった。

 それと同時に、クオンが戦う理由も増えている。


「……あの子の平和は、わたしが守ってみせるわ」


 三色団子の準備をしながら、ポツリと声を落とすクオン。

 小さく儚い命を守る。

 玖乃として生きると誓った彼女に、芽生えた感情だ。

 ロレンツとレフラクの配下たちは準備を整え、玖乃は戦意を漲らせる。

 同じ魔族が全く別の方向を目指す中、言魂祭の開催日が近付いていた。

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