↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
言魂学院の無字姫と一文字使い ~ 綴りましょう、わたしだけの言葉を ~  作者: YY
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
71/80

第7話 特色と偏り

 と言うことで、実技の授業の時間がやって来ました。

 特務組が全員揃っていることで、嫌でも他の生徒たちや、何なら先生方からも注目を浴びていますね……。

 ただ、本音を言うともっと騒がしくなるかと思っていましたが、予想よりは大人しいです。

 何と言いますか、皆さんやる気に満ち溢れていて、自分たちのことに必死な感じがしました。

 良いことだとは思いますけど、何かあったんでしょうか?

 わたしが疑問に思っていると、光凜さんがそれとなく解説してくれました。


「夜宵さん、武闘大会が開かれることは言ったわよね?」

「あ、はい。 もしかして、皆さんも出場するんですか?」

「あたしたちは出ないわよ。 『肆言姫』は緊急時に備えて、力を温存しないといけないから」

「そうなんですね、一葉ちゃん。 でも、九条陣営と神代陣営の『参言衆』は、出るんでしたよね?」

「それは特例ね。 大昔からの、恒例行事だから。 実際、天羽陣営と黒咲陣営は出ないしね。 他の一文字や二文字の言魂士は、ほぼ全員が参加するみたいよ」

「ほぼ全員、ですか……」


 光凜さんの言葉を聞いたわたしは、チラリと隣に立つ一色くんの横顔を窺いました。

 無字のわたしに参加権はないとして、彼はどうなんでしょう?

 そんなわたしの疑問が伝わったのか、一色くんは前を向いたまま答えてくれました。


「俺も出ない。 学院長の指示でな」

「学院長の……?」

「特務組は文字通り特別だから、他の参加者に悪影響を与えかねない……とのことだ」

「……なるほどです」


 そう言いつつ、あまり納得は出来ませんでした。

 確かに一色くんが混ざると、圧倒的過ぎるとは思います。

 ですが、だからと言って仲間外れにしなくても、良いじゃないですか。

 彼だってれっきとした学院の生徒なんですし、他の生徒たちと同じように扱うべきです。

 少しばかり不機嫌になったわたしは、学院長に直談判しようかと考え始めていましたが――


「心配しなくても、俺は気にしていない。 むしろ、面倒ごとを避けられて感謝している」

「え……そ、そうなんですか?」

「あぁ。 それに、俺が出たら優勝者が決まっているようなものだから、盛り上がらないだろう」

「そ、そんなこと……ないとは言えませんね……」

「そう言うことだから、俺の不参加に関して気にする必要はない。 わかったな?」

「は、はい。 わかりました」


 一色くんから念押しされたわたしは、今度こそ納得しました。

 彼がここまで言い切っているのに、わたしが文句を言うのは筋違いですよね。

 それに武闘大会に出ないと言うことは、当日は時間があると言うことで、時間があれば一緒に……って何を考えているんですか……!?

 急に邪なことを考え出した自分に喝を入れていると、近くから強烈なプレッシャーを感じました。

 ハッとして周囲を見渡すと、天羽さんと一葉ちゃん、光凜さん、夢愛さんが、こちらをジッと見ています。

 な、何だか怖いですね……。

 内心でビクビクしていると、彼女たちは互いに顔を見合わせて、同時に溜息をつきました。

 それから、各々が行動を始めます。


「じゃあ、あたしたちは向こうで訓練するから。 行くわよ、あんたたち」

「ヒック! 了解じゃあ、一葉様」

「酒臭ッ! ちょっと司! あんま近寄るんじゃねぇよ!」

「ハハハ! いつまで経っても慣れんな、陽奈子! お子様だから、仕方あるまいが!」

「誰がお子様だ、信志!? ぶっ飛ばすぞッ!」


 騒々しく歩み去る九条陣営。


「わたしたちは向こうね」

「かしこまりました、光凜様」

「うふふ~。 久しぶりの実技の授業ね~。 張り切っちゃうわよ~」

「……適度に頑張ります」


 整然とした足取りで、反対側に移動する神代陣営。

 どうやら、武闘大会で当たる者同士、別で訓練するようですね。

 このまま、天羽陣営と黒咲陣営も分かれるのかと思っていましたが――


「四季さん、少し良いですか?」

「む? どうした、黒咲?」

「良ければ、うちの『参言衆』とそちらの『参言衆』で、模擬戦を行いませんか?」

「ほう……。 面白い。 美紗たちに勝てるとでも?」

「勝ち負けは重要じゃありません。 実のある訓練をすることが、肝要です」

「そう言う割には、お前も後ろの連中も、やる気満々のようだが?」

「それは、お互い様でしょう?」


 夢愛さんの発言を切っ掛けに、天羽陣営と黒咲陣営の間で、火花が散りました。

 こ、これは……興味あります。

 どちらが強いかと言うよりは、お互いにどんな戦いをするんでしょう。

 一色くんの様子を窺うと、腕を組んで観戦モードでした。

 わたしも、真似させてもらいましょうか。

 腕は組みませんけど。

 そうしてわたしが黙っていると、天羽さんと夢愛さんが離れて、それぞれの『参言衆』が向かい合いました。

 周囲にいた他の生徒たちは、巻き込まれないように退避しています。

 しかし、本人たちは知ったことかとばかりに集中力を高めており、前哨戦とばかりに言葉の応酬を始めました。


「ふん。 最も優れた陣営である、天羽陣営に勝てるとでも思っているのか?」


 【伏魔殿】の使い魔を生み出し、蛇の鞭を構える桐生さん。


「お前のそれって自称だよな? 実際は、やってみないとわかんねぇぜ?」


 不敵な笑みを湛えて、戦斧を担ぐ不知火さん。


「誠の言う通りだよ! あたしたちは、負けないんだから!」


 鎖鎌をブンブン回しながら、宣言する九重さん。


「あはは! 相変わらず、九重ちゃんは元気だねぇ。 あたしはこう言うとき、あまり役に立てないけど、なんとか頑張るよ」


 両手に苦無を持って、隙を探している早乙女さん。


「良く言うわね。 貴女みたいな人が、1番厄介なのよ」


 鉄扇で口元を隠して、目を細める千石さん。


「一色透真の前で、無様な戦いは出来ない」


 別のベクトルで戦意を燃やしている白河さん。

 本当に、どうなるのか読めませんね……。

 折角見学するなら、集中しましょう。

 などと、わたしが意気込んでいると――地面が凍りました。

 それも、黒咲陣営の足場だけ。

 白河さんの【冬化粧】による、妨害ですか。

 どんな開幕になるかと思いましたが、予想外でしたね。

 しかも、このときには既に桐生さんと早乙女さんが駆け出していて、まるで打ち合わせしていたかのような連携の密度です。

 ところが――


「はい、やり直し」


 凍っていた地面と、桐生さんたちの位置が、元に戻りました。

 千石さんの【御破算】ですね。

 この能力、本当に厄介だと思います。

 そして今度は、お返しとばかりに不知火さんと九重さんが、攻め込みました。

 千石さんのような能力がない天羽陣営は、後手に回るかと思いましたが、その予想は外れました。


「白河ちゃん、右! 桐生くん、左後ろ!」


 早乙女さんの指示に従った2人が咄嗟に動くと、不知火さんの戦斧が桐生さんの傍の地面を叩き、九重さんの鎖鎌が白河さんの横に突き刺さりました。

 【千里眼】の未来予知で、黒咲陣営の動きを視たらしいです。

 それによって桐生さんたちは、余裕を持って攻撃を躱すことが出来て、即座に反撃に移りました。


「行け」


 自分はバックステップしながら、大量の使い魔を不知火さんにけしかけ、爪や牙で攻撃します。

 戦斧を振り切った体勢の不知火さんは、その全てをまともに受けましたが――


「悪ぃな、効かねぇよ」

「ハッタリ男が……」


 【外連味】による無効化を上手く使って、凌ぎました。

 忌々しそうに声を落とした桐生さんの気持ちもわかりますが、今は別のところが気になります。

 九重さんの攻撃をやり過ごした白河さんが、自身の周囲に膨大な数の氷の礫を生成したのです。

 少し離れている九重さんに照準を絞っており、これだけの数があれば戦闘不能になるに違いありません。

 この局面を九重さんが、どう切り抜けるのかと考えていましたが、結果は意外なものでした。


「……! 面倒……」


 不貞腐れて頬を膨らませる白河さん。

 パン――と音が鳴り、またしても戦闘開始時点に戻されたからです。

 生成した礫も消滅しており、完全なるやり直し。

 千石さんに目を向けると微笑んでいますが、彼女も決して楽をしているのではないです。

 【御破算】を使う度に、確実に魂力は消耗しており、無限に使える訳ではありませんから。

 とは言え、九重さんにとっては大きなチャンスです。


「行くよ!」


 元気に声を発すると同時に、6人を不可視の空間が包みました。

 【天邪鬼】の、敵味方の認識を反転させる能力。

 こうなると、早乙女さんたちは同士討ちすることになり、黒咲陣営の勝利となる――ほど甘くないです。


「ふぅ……やっぱりしんどいね」

「愚痴をこぼすな、早乙女。 この程度、どうと言うこともない」

「桐生卓哉は強がりをやめて。 実際、消耗は大きい」


 【天邪鬼】の空間内にいながら、正常な認識を保っている天羽陣営。

 あとから教えてもらったのですが、九重さんの能力には魂力――魔族であれば魔力――で対抗出来るそうです。

 もっとも、1度認識を変えられてしまったら遅く、発動前から備える必要がありますが。

 更に、対抗している間は継続的に魂力を使う為、長期戦に不利になるとも聞きました。

 つまり、実質的に天羽陣営には制限時間が設けられたようなものですけど、九重さんが空間を維持するのも楽ではないそうです。

 千石さんの【御破算】にも回数制限があることも思えば、どちらが有利とも言い難いですね。

 ここまでの戦いを見て感じたのは、天羽陣営が汎用性の高さと正攻法に強いのに対して、黒咲陣営は持久戦や攪乱が得意そうです。

 ただ……少々、偏っているように感じました。

 もしも、陣営の垣根を解き放ってベストのメンバーを組むなら、また違った組み合わせになるのではないでしょうか。

 わたしがおとがいに手を当てて考え込んでいると、一色くんが声を掛けて来ました。


「気付いたようだな」

「え……? な、何がですか?」

「陣営の特色と、そのバランスについてだ」

「……一色くんって、やはり心を読む力を持っているんですか?」

「顔に書いてある」

「その嘘には、もう騙されません……!」

「わかったから、戦いから目を離すな。 話を戻すが、やはり今の陣営と言う仕組みには問題がある。 九条陣営と神代陣営も含めて、改善点はあるだろう」

「……またわたしに、潤滑油になれと言うんですか?」

「いや、ここからは本人たちの問題だ。 連中が自分で必要性を感じなければ、意味がない」

「そう言うものですか……」


 一色くんの言葉を咀嚼しながら、陣営同士の戦いに意識を戻しました。

 今も一進一退の攻防が続いています。

 攻撃力と言う点では天羽陣営が勝っていますが、黒咲陣営の妨害が突破を許していません。

 だからと言って、黒咲陣営に天羽陣営を倒し切るだけの破壊力はないです。

 なんとももどかしい気分になっていると、天羽さんと夢愛さんも難しそうな顔付きになっていました。

 彼女たちも、何か思うことがあったのかもしれませんね。

 などと考えていた、その瞬間――


「……ッ!?」


 一色くんが斬り掛かって来ました。

 な、何のつもりですか……!?

 紙一重で躱せましたが、あと少し反応が遅ければ、今頃斬られていたでしょう。

 大慌てで体勢を整えたわたしは彼から距離を取り、戦闘態勢に入りました。

 そんなわたしを見据えた彼は、ふてぶてしい態度でのたまったのです。


「まぁまぁだな。 いつ、どこから、誰が攻撃して来るかわからない。 最低限、その意識は持てているようだ」

「……褒められているんでしょうか?」

「事実を言っているのみだ。 それより、続けるぞ」

「あの……見学はもう良いんですか?」

「これ以上、観る価値はない。 消耗戦の泥仕合になるだけだ」

「言い方はあれですけど……そんな気はしますね」

「わかったなら、来い。 時間を無駄にしたくなければな」

「……行きます」


 歯に衣着せぬ物言いはどうかと思いましたが、一色くんの主張を間違っていると断言出来ませんでした。

 深呼吸して気を取り直したわたしは『葬命』に手を掛け、全力の踏み込みを敢行します。

 こうして実技の授業は終わりに向かい、放課後が訪れたのですけど……またしても、想定外の出来事に見舞われました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。