第6話 勢揃い
一色くんのお陰で……と言うには複雑ですが、とにかく彼が切っ掛けとなり、全員が教室に入りました。
その後は各陣営に分かれて雑談し、授業開始を待っていました。
わたしが配属されてから、特務組が全員揃うのは初めてなので、圧巻でしたね。
ただ、陣営ごとに集まっていることには、引っ掛かりを覚えました。
当然の帰結と言えばそれまでですが、一色くんが過去に言っていた、陣営の垣根を超えた連携と言う側面から見ると、このままでは駄目なように感じます。
だからと言って、すぐに改善出来る問題でもないと思うので、自分に出来ることを考えましょう。
ちなみに、どの陣営にも属していないわたしと一色くんですが、特に2人で会話すると言うことはありませんでした。
彼はずっと窓の外を眺めていたので、話し掛け辛かったですし……。
まぁ、いつも自室で話していますから、そんなに気にしません。
……本当ですよ?
と、とにかく、そんな時間のあとに座学の授業が始まったのですが、橘先生はいつも通りでした。
一気に人数が増えたからと言って、動揺するようなことはなく、終始落ち着いていましたね。
ずっと特務組の担任を任されているのだとしたら、当たり前なのかもしれませんけど。
当たり前と言えば、やはり皆さん、知識面でも凄かったです。
九条陣営の『参言衆』のような……えぇと……に、賑やかな人たちも、全ての問いに完璧に正解していました。
流石は、精鋭中の精鋭と呼ばれる言魂士です。
わたしも負けないように、より一層頑張らないとですね。
そうして座学の授業が終わり、お昼休みになりました。
てっきり、また陣営ごとに分かれて食べるのかと思いきや、意外な光景が広がっています。
「それで黒咲、領に現れた『十魔天』はどのような奴だった? 報告で一通りは聞いているが、実際に戦った感想を聞きたい」
「強かったのは確かです、四季さん。 攻撃手段は肉弾戦に限られていましたが、能力が厄介でしたね。 正直なところ、良く生きていられたと思いますよ」
「確か、いろんなものを覚醒させる能力だっけ? 自己強化とかはまだわかるけど、夜宵ちゃんの恐怖心を覚醒させるなんて使い方もあったのよね?」
「はい、一葉さん。 『十魔天』を名乗るだけあって、能力1つ取っても一筋縄では行きませんでした。 首都に現れた方はどうでした?」
「それが、詳細はわからないのよ。 強力な結界を張られたのは確実だけれど、具体的なことはわからないわ。 何せ、別の魔族が倒してしまったのだから」
「そのような報告が上がっていましたね、光凜さん。 人間に味方した魔族ですか。 興味深いですが、現在は行方知らずなのですね?」
「あぁ。 捜索は続けているのだが、反応は一切ない。 わたしは、もう魔界に帰ったのではないかと考えている」
「あたしも、四季ちゃんに賛成かな。 少なくとも、これだけ探して見付からないってことは、首都にはいないでしょ」
「今回は、猪娘に同意してあげる。 ひとまず、彼女のことは忘れて良いでしょう。 ただし、今度現れても味方とは限らないと、肝に銘じておくべきね」
4つの机を突き合わせるようにして座る、『肆言姫』。
光凜さんの言葉に、天羽さんたちは同時に頷きました。
その様子を『参言衆』の皆さんは、黙って窺っています。
昼食を摂りながらですが、空気が張り詰めていました。
どうやら、完全にバラバラなのではなく、共有するべきことはきちんと話し合うようですね。
連携に関して心配になっていましたけど、思ったよりも希望があるかもです。
こっそりと安堵の息をついたわたしですが、隣から声を掛けられて意識を戻しました。
「無明、そろそろ弁当を渡してもらえるか?」
「あ……。 す、すみません、すぐに用意します……!」
「謝る必要も、慌てる必要もない。 むしろ、いつも有難う」
「え……!? あ、いえ、こちらこそ……?」
いきなり一色くんからお礼を言われたわたしは、思い切り挙動不審になってしまいました。
は、恥ずかしいです……。
顔が赤くなっているのを自覚しながら、彼と視線を合わすことが出来ず、俯きがちにお弁当を差し出しました。
一色くんは平然と受け取りましたが、そのときに……チョン、と。
彼の指先がわたしの指先に触れて、ドキリとしました。
反射的に手を引っ込めて胸に当てると、鼓動が速くなっているのが伝わって来ます。
こ、『刻言筆』の訓練のときに比べたら大したことないですが……ス、スキンシップには慣れません。
ますます赤面しているように思ったわたしは、一旦落ち着くべく深呼吸しようとして――
「……皆さん、『あれ』はいつものことですか?」
「黒咲、腹立たしいことだが、いつものことだ……」
「む~! あたしは今でも、認めてないからねッ!」
「落ち着きなさい、猪娘。 ……確かに、目に余るけれど」
どことなく殺伐とした夢愛さん。
怨念めいた雰囲気の天羽さん。
柳眉を逆立てて頬を膨らませた一葉ちゃん。
眼光を鋭くさせた光凜さん。
『肆言姫』たちから一斉に視線が殺到して、思わず頬を痙攣させました。
一色くんは、素知らぬ顔でお弁当を食べ始めていますけど。
相変わらず、肝が据わっていますね……。
などと思っていると、箸をピタリと止めた一色くんが天羽さんたちを見やってから、こちらに目を向けました。
そして、気負いの欠片もなく言い放ったのです。
「今日も美味しいぞ、無明。 明日も楽しみにしている」
「へ……!? あ……は、はい……」
またしてもわたしを恥ずかしがらせた一色くんは、天羽さんたちをもう1度見ていましたが……挑発的に感じたのは、気のせいじゃないでしょうね。
あの冷静な夢愛さんでさえも、無表情のまま不愉快そうにしていました。
まったく、もう……。
彼の悪戯癖にも、困ったものです。
ま、まぁ、褒めてくれたこと自体は、嬉しいんですけど……。
それに、たぶんですが……わざと自分が悪者になることで、彼女たちの結束を高めているんだと思います。
考え過ぎかもしれませんけど、あながち的外れではないでしょう。
こう言った、不器用な自己犠牲と言いますか優しさを、もっと素直に出せば良いのに……。
歯痒い気持ちもあるとは言え、今のわたしに出来ることはありません。
いつか、きちんと皆さんに伝わって欲しいですね……。
今日が一色くんと初対面の、九条陣営と神代陣営の『参言衆』は、呆気に取られているように見えました。
対するわたしは、いまいちどう反応するべきか迷って、誤魔化すように自分のお弁当を食べ始めました。
先ほどまでの真面目な空気は霧散し、クラスメイトたちからの様々な視線を、一身に浴びる一色くん。
それでも彼が揺らぐことはなく、黙々とお弁当を食べ続けています。
これだけのメンバーを相手に、凄いですね……。
感心と呆れが半々な気持ちのわたしは、小さく溜息をついて卵焼きを口に含みました。
そうして、特務組が勢揃いした実技授業の時間が、近付くのでした。




