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言魂学院の無字姫と一文字使い ~ 綴りましょう、わたしだけの言葉を ~  作者: YY
第3章

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第6話 勢揃い

 一色くんのお陰で……と言うには複雑ですが、とにかく彼が切っ掛けとなり、全員が教室に入りました。

 その後は各陣営に分かれて雑談し、授業開始を待っていました。

 わたしが配属されてから、特務組が全員揃うのは初めてなので、圧巻でしたね。

 ただ、陣営ごとに集まっていることには、引っ掛かりを覚えました。

 当然の帰結と言えばそれまでですが、一色くんが過去に言っていた、陣営の垣根を超えた連携と言う側面から見ると、このままでは駄目なように感じます。

 だからと言って、すぐに改善出来る問題でもないと思うので、自分に出来ることを考えましょう。

 ちなみに、どの陣営にも属していないわたしと一色くんですが、特に2人で会話すると言うことはありませんでした。

 彼はずっと窓の外を眺めていたので、話し掛け辛かったですし……。

 まぁ、いつも自室で話していますから、そんなに気にしません。

 ……本当ですよ?

 と、とにかく、そんな時間のあとに座学の授業が始まったのですが、橘先生はいつも通りでした。

 一気に人数が増えたからと言って、動揺するようなことはなく、終始落ち着いていましたね。

 ずっと特務組の担任を任されているのだとしたら、当たり前なのかもしれませんけど。

 当たり前と言えば、やはり皆さん、知識面でも凄かったです。

 九条陣営の『参言衆』のような……えぇと……に、賑やかな人たちも、全ての問いに完璧に正解していました。

 流石は、精鋭中の精鋭と呼ばれる言魂士です。

 わたしも負けないように、より一層頑張らないとですね。

 そうして座学の授業が終わり、お昼休みになりました。

 てっきり、また陣営ごとに分かれて食べるのかと思いきや、意外な光景が広がっています。


「それで黒咲、領に現れた『十魔天』はどのような奴だった? 報告で一通りは聞いているが、実際に戦った感想を聞きたい」

「強かったのは確かです、四季さん。 攻撃手段は肉弾戦に限られていましたが、能力が厄介でしたね。 正直なところ、良く生きていられたと思いますよ」

「確か、いろんなものを覚醒させる能力だっけ? 自己強化とかはまだわかるけど、夜宵ちゃんの恐怖心を覚醒させるなんて使い方もあったのよね?」

「はい、一葉さん。 『十魔天』を名乗るだけあって、能力1つ取っても一筋縄では行きませんでした。 首都に現れた方はどうでした?」

「それが、詳細はわからないのよ。 強力な結界を張られたのは確実だけれど、具体的なことはわからないわ。 何せ、別の魔族が倒してしまったのだから」

「そのような報告が上がっていましたね、光凜さん。 人間に味方した魔族ですか。 興味深いですが、現在は行方知らずなのですね?」

「あぁ。 捜索は続けているのだが、反応は一切ない。 わたしは、もう魔界に帰ったのではないかと考えている」

「あたしも、四季ちゃんに賛成かな。 少なくとも、これだけ探して見付からないってことは、首都にはいないでしょ」

「今回は、猪娘に同意してあげる。 ひとまず、彼女のことは忘れて良いでしょう。 ただし、今度現れても味方とは限らないと、肝に銘じておくべきね」


 4つの机を突き合わせるようにして座る、『肆言姫』。

 光凜さんの言葉に、天羽さんたちは同時に頷きました。

 その様子を『参言衆』の皆さんは、黙って窺っています。

 昼食を摂りながらですが、空気が張り詰めていました。

 どうやら、完全にバラバラなのではなく、共有するべきことはきちんと話し合うようですね。

 連携に関して心配になっていましたけど、思ったよりも希望があるかもです。

 こっそりと安堵の息をついたわたしですが、隣から声を掛けられて意識を戻しました。


「無明、そろそろ弁当を渡してもらえるか?」

「あ……。 す、すみません、すぐに用意します……!」

「謝る必要も、慌てる必要もない。 むしろ、いつも有難う」

「え……!? あ、いえ、こちらこそ……?」


 いきなり一色くんからお礼を言われたわたしは、思い切り挙動不審になってしまいました。

 は、恥ずかしいです……。

 顔が赤くなっているのを自覚しながら、彼と視線を合わすことが出来ず、俯きがちにお弁当を差し出しました。

 一色くんは平然と受け取りましたが、そのときに……チョン、と。

 彼の指先がわたしの指先に触れて、ドキリとしました。

 反射的に手を引っ込めて胸に当てると、鼓動が速くなっているのが伝わって来ます。

 こ、『刻言筆』の訓練のときに比べたら大したことないですが……ス、スキンシップには慣れません。

 ますます赤面しているように思ったわたしは、一旦落ち着くべく深呼吸しようとして――


「……皆さん、『あれ』はいつものことですか?」

「黒咲、腹立たしいことだが、いつものことだ……」

「む~! あたしは今でも、認めてないからねッ!」

「落ち着きなさい、猪娘。 ……確かに、目に余るけれど」


 どことなく殺伐とした夢愛さん。

 怨念めいた雰囲気の天羽さん。

 柳眉を逆立てて頬を膨らませた一葉ちゃん。

 眼光を鋭くさせた光凜さん。

 『肆言姫』たちから一斉に視線が殺到して、思わず頬を痙攣させました。

 一色くんは、素知らぬ顔でお弁当を食べ始めていますけど。

 相変わらず、肝が据わっていますね……。

 などと思っていると、箸をピタリと止めた一色くんが天羽さんたちを見やってから、こちらに目を向けました。

 そして、気負いの欠片もなく言い放ったのです。


「今日も美味しいぞ、無明。 明日も楽しみにしている」

「へ……!? あ……は、はい……」


 またしてもわたしを恥ずかしがらせた一色くんは、天羽さんたちをもう1度見ていましたが……挑発的に感じたのは、気のせいじゃないでしょうね。

 あの冷静な夢愛さんでさえも、無表情のまま不愉快そうにしていました。

 まったく、もう……。

 彼の悪戯癖にも、困ったものです。

 ま、まぁ、褒めてくれたこと自体は、嬉しいんですけど……。

 それに、たぶんですが……わざと自分が悪者になることで、彼女たちの結束を高めているんだと思います。

 考え過ぎかもしれませんけど、あながち的外れではないでしょう。

 こう言った、不器用な自己犠牲と言いますか優しさを、もっと素直に出せば良いのに……。

 歯痒い気持ちもあるとは言え、今のわたしに出来ることはありません。

 いつか、きちんと皆さんに伝わって欲しいですね……。

 今日が一色くんと初対面の、九条陣営と神代陣営の『参言衆』は、呆気に取られているように見えました。

 対するわたしは、いまいちどう反応するべきか迷って、誤魔化すように自分のお弁当を食べ始めました。

 先ほどまでの真面目な空気は霧散し、クラスメイトたちからの様々な視線を、一身に浴びる一色くん。

 それでも彼が揺らぐことはなく、黙々とお弁当を食べ続けています。

 これだけのメンバーを相手に、凄いですね……。

 感心と呆れが半々な気持ちのわたしは、小さく溜息をついて卵焼きを口に含みました。

 そうして、特務組が勢揃いした実技授業の時間が、近付くのでした。

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