↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
言魂学院の無字姫と一文字使い ~ 綴りましょう、わたしだけの言葉を ~  作者: YY
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
69/80

第5話 四つ巴

 訓練場から教室に向かう途中、わたしは榊原さんや小鳥遊さん、若草さんから、質問攻めに遭っていました。

 榊原さんと小鳥遊さんはともかく、若草さんの積極性には驚かされましたね。

 少しは心を開いてくれたんでしょうか?

 話題は基本的には戦闘技術に関することで、特に魂力を直接推進力に変える技法などには、かなり興味を持っているようです。

 ただ……い、一色くんとの関係や、光凜さんとの仲についても聞かれて、困ってしまいました。

 まぁ、これに関してはほぼ小鳥遊さんのせいなんですけど、榊原さんと若草さんも興味深そうでしたね。

 当人でもあるはずの光凜さんは、助けようともせず、ただただ微笑んでいただけでしたし……。

 何にせよ、親睦を深められたのは良かった……のでしょうか……?

 などと思っていましたが、少なくともこのあとの展開よりはマシだったかもしれません。


「ん?」

「あら?」


 教室へと向かう廊下の途中で、一葉ちゃんと金剛寺さん、椿さんと宝来さんに出会いました。

 同じ教室なんですから、それは当然の成り行きなんですけど……嫌な予感がしましたね。

 足を止めて見つめ合って……いえ、睨み合っている九条陣営と神代陣営。

 こっそりとわたしが避難していると、それぞれの先頭に立っていた一葉ちゃんと光凜さんが、舌戦の火蓋を切りました。


「何よ、あんたのとこの『参言衆』も帰ってたの? てっきり、言魂祭を前にビビッて、逃げるかと思ってたわよ」

「そちらこそ、良く教室に顔を出せたものね。 それとも、力の差もわからないのかしら」

「ふん。 去年も一昨年もその前もそのまた前も、ずっと引き分けなのよ? 力の差なんてないでしょうが」

「だったら貴女の言う、こちらが一方的に逃げる論理も成立しないわよね? だから馬鹿と話すのは嫌なのよ」

「誰が馬鹿よ、陰険女! 何だったら、今ここであんたとケリを付けたって良いんだけど!?」

「面白いわね、望むところよ。 今日こそは、引導を渡してあげるわ」


 当初は言魂祭の武闘大会を話題にしていたにもかかわらず、いつの間にか直接対決の話になっているのはなんでですか……。

 2人は既に魂力を高めていて、それは互いの『参言衆』にも波及しています。

 ちょ……!?

 こんなところでこの人数が本気で戦うとか、正気ですか……!?

 下手をすれば校舎が全壊するどころか、折角復興した街にまで被害が出ますよ……!?

 だ、だからと言って、流石にわたし1人で抑えるのは厳し過ぎます……!

 こんなとき、一色くんがいてくれれば……いえ、そんな考えではいけません。

 ピンチになる度に彼に頼るような人間には、絶対になりたくありませんから。

 決意を固めたわたしは、思い切って割って入ろうとして――優しい歌が耳朶を打ちました。

 この歌は、もしかして……。

 一瞬呆けたわたしはハッとして、声の主を探しました。

 すると、廊下の向こうから歩み寄って来るのは、良く知る4人でした。


「帰還早々、物騒ですね」


 いつもの冷静で平坦な口調でそう言ったのは、かつてお世話になった夢愛さん。

 不知火さんと九重さん、千石さんの姿もあります。

 3人とも元気そうで、こちらに手を振ってくれていました。

 そのことが嬉しくなったわたしは、目頭が熱くなりながら手を振り返します。

 一方の九条陣営と神代陣営の皆さんは、すっかり戦意を削がれたようで、全員が矛を収めていました。

 流石は夢愛さんです。

 恐らく、【夢幻泡影】を使いましたね?

 わたしがそんな疑問を乗せて視線を向けると、彼女は一瞬だけ微笑んだ後に表情を引き締め、一葉ちゃんと光凜さんに鋭い声を発しました。


「貴女がたの仲が悪いのは知っていますが、やるなら訓練場でお願いします。 校舎の修繕や街の復興も、ただではないのですよ? それでなくとも、ここには大勢の生徒たちがいます。 彼らの身に何かあったら、どうするつもりですか?」

「……ごめん」

「……悪かったわ」

「頼みますよ。 平和祈願を行う本人たちが、その平和を真っ先に壊す訳には行きませんからね」


 情け容赦のない夢愛さんの指摘に、一葉ちゃんと光凜さんは縮こまっています。

 凄いですね……。

 正確な年齢は知りませんが、たぶん『肆言姫』で最年長と言うこともあるでしょうけど、それにしても彼女たちをこうも簡単に言いくるめるとは……。

 金剛寺さんたちと榊原さんたちもバツが悪そうにしていて、この場は完全に収まったと見て良いでしょう。

 ホッとしたわたしが胸を撫で下ろしていると、いつの間にか夢愛さんが近寄って来ていました。

 あ、そう言えば、挨拶がまだでしたね。

 遅まきながら気付いたわたしは、慌てて口を開きました。


「おはようございます、夢愛さん。 不知火さんたちと一緒に、首都に戻って来ていたんですね」

「おはようございます。 えぇ。 着いたのは、昨日の深夜でしたが」

「深夜、ですか? それなら、今日は無理しなくても良かったのでは……」

「学院長からはそのように指示されたのですが、わたしが望んだのです」

「そうなんですね。 でも、どうしてですか?」

「それは……」


 そこで、何故か夢愛さんの言葉が止まりました。

 わたしを凝視したまま、黙っています。

 心なしか、顔が赤い気がしました。

 うぅん、本当は無理をしているんじゃないですよね……?

 心配になったわたしは声を掛けようとしましたが、その前に割り込む人たちがいました。


「ちょっと夢愛ちゃん!? まさか、あんたもなの!?」

「……何のことかわかりません」

「間があったわね? ますます怪しいわ。 これは、夜宵さんに対する守りを、更に強める必要があるわね」

「勝手なこと言ってんじゃないわよ、陰険女! 夜宵ちゃんを守るのは、あたしなんだから!」

「勝手なのは、一葉さんも同じでしょう。 夜宵さんとわたしは、ともに『十魔天』を倒した仲なのです。 つまり、最も強固な絆で結ばれていると言えます」

「あら、それは関係ないのではないかしら? そもそも、わたしたちの方が付き合いは長いのよ。 関係性の深さで言えば、そちらの方が重要でしょう?」

「たまには良いこと言うじゃない! そう言うことだから、夢愛ちゃんの出る幕はないわよ!」


 淡々と自身の考えを述べる夢愛さん。

 負けじと冷静な光凜さん。

 勢いでは1番の一葉ちゃん。

 えぇと……何ですか、これ……?

 困惑したわたしは周囲に助けを求めましたが、何故だか全員……いえ、椿さん以外は目を逸らしています。

 彼女に関しては、噛み付かんばかりの勢いで睨んで来ていますね……。

 どちらにせよ、何の解決にもなっていないと察したわたしは、今度こそ決死の覚悟で止めに入ろうとしました。

 しかしそこに、新たな顔ぶれが現れたのです。

 もっとも、この場合は混乱の種だったかもしれませんが……。


「む? 教室の前で、何をしている?」


 最後の『肆言姫』である天羽さんと、早乙女さん、白河さん、桐生さん。

 天羽陣営の面々です。

 こちらのただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、天羽さんが怪訝そうにしていたので、わたしは密かに説明しようとしましたが――


「あ、四季ちゃん! 聞いてよ! 夢愛ちゃんが、夜宵ちゃんを独り占めしようとしてるのよ!」


 一葉ちゃん……!?


「……黒咲、今の話は事実か?」


 天羽さん……!?


「事実だとすれば、何だと言うのですか?」


 夢愛さん……!?


「決まっているわ。 断固として阻止しないとね」


 光凜さん……!?

 気付けば天羽さんたち『肆言姫』は向かい合い、魂力を練り上げ始めていました。

 何より厄介なのは、頼みの綱の夢愛さんまでも参加していることです。

 ど、どうしてこんなことに……!?

 『参言衆』の皆さんを見渡しましたが、「もうどうしようもない」とでも言わんばかりです。

 先ほどから幾度目とも知れない絶望を与えられたわたしは、最終手段として【一筆魂書】の使用すら視野に入れて、懐の筆を取り出そうとしました。

 ですが結果として、その必要はありませんでした。


「騒々しいな」


 その場の空気を一刀両断したのは、わたしの背後から現れた一色くん。

 その際にこちらを一瞬見て、何かを訴え掛けていました。

 あ……【一筆魂書】を使おうとしたことを、止められたのかもしれません。

 確かに、安易に取るべき選択肢ではありませんでしたね……。

 反省したわたしが小さく頷くと、彼は顔を正面に戻して、ヒノモト最大戦力である『肆言姫』たちに言い放ちました。


「朝っぱらから女の取り合いとは……ヒノモトの未来は暗いな」

『……ッ!』

「文句があるなら、実技の授業で相手になってやる。 だが、まずは座学だ。 わかったら、そこをどけ。 邪魔だ。 それとも、全員仲良くペナルティを受けるか?」


 一色くんの刃のような言葉を受けた天羽さんたちは、悔しそうにしながらも道を開けました。

 そんな彼女たちを一瞥することすらなく、一色くんは教室へと入って行きます。

 その……助かったのは助かったんですけど……もうちょっと言い方を……。

 なんて思ってしまいましたが、それこそ文句を言うのはお門違いですよね。

 嫌なら、自分で対処すれば良かったんです。

 彼を責める前に、わたし自身の未熟さを認めましょう。

 深呼吸したわたしは、一色くんに続いて教室に入りました。

 あとには、複雑な顔付きの『肆言姫』と『参言衆』が残されました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。