第28話 備える
ラザロスの襲撃から数日が過ぎ去り、首都も復興が進んでいた。
こう言うときは、戦闘用ではない言魂の使い手も、重宝されることが多い。
まさに、民が一丸となって作業している。
四季たちも例外ではなく、持てる力をフル活用して手伝っていた。
ガイゼル戦に続き、奇跡的に人命に被害は出ていないが、だからと言って安心出来る訳でもない。
誰もが最近の魔族の動向を不安に思っている一方で、弦蔵も今後のことを憂いていた。
「まさか、【聡明叡智】の無機物に反応しない弱点を突かれるとはな。 それに、抑制具を付けたまま戦える者がいたのは、正直想定外だった。 やはり、このままでは駄目だ」
「確かに、【聡明叡智】だけに任せるのは良くないですね……。 別の手段を講じる必要がありそうです」
「抑制具に関しても、対策が必要だ。 あれで完成なら良いが、恐らく未完成のはず」
例の隠し部屋に集まった、弦蔵と歌奏、透真。
透真はいつも通りだが、弦蔵と歌奏は厳しい面持ちを浮かべていた。
そのまま無言の時間が続いたが、腕を組んだ弦蔵が重々しく口を開く。
「やるしかないか」
「学院長? 何をなさるおつもりですか?」
「【聡明叡智】の改良だ、歌奏。 この先の戦いに備えて、儂も言魂を磨かなければならない」
「なるほどな。 確かに、【聡明叡智】に変化が加われば、相手の動きを制限出来るかもしれない。 だが、本当に可能なのか?」
「見くびるなよ、透真。 これに関しては、昨日今日の思い付きではない。 ガイゼル戦を終えた辺りから、ずっと考えていたことだ」
「俺に言わせれば、それでも遅いくらいだ」
「やれやれ、お前は本当に手厳しいな……」
溜息をつきながら、後頭部をガリガリと掻く弦蔵。
対する透真の表情筋はピクリともしなかったが、歌奏は恐る恐る尋ねた。
「ですが、改良すると言っても、具体的にはどうするんですか? 【聡明叡智】はかなり特殊な言魂で、訓練してどうこうなるものではないと思いますが……」
「まぁ、そうだな。 だが、別のアプローチを掛ければ、そうとも言い切れん」
「別のアプローチ?」
「簡単に言えば、敢えて制約を作ることだな。 例えば、再発動の間隔を短くする代わりに、新たな機能を追加するなどだ」
「し、しかし、そのようなことをすれば、学院長の負担が更に大きくなるのでは……? 今でさえ、可能な限り【聡明叡智】を発動し続ける為に、無理をしていると言うのに……」
「案ずるな、歌奏。 こう見えて、儂は頑丈なのだ。 それに、若者が頑張っているのに、年長者がサボる訳にも行くまい」
「学院長……わかりました。 わたしも、可能な限り助力します」
「うむ。 頼んだぞ」
少年のように快活な笑みを浮かべる弦蔵に、歌奏は苦笑した。
本音を言えば彼女は止めたかったが、実際問題として、【聡明叡智】の強化は必須事項。
そう判断した歌奏が気持ちを押さえていると、透真が鋭い声を発した。
「それだけでは足りない」
「む? どう言うことだ、透真?」
「いくら【聡明叡智】を改良したとしても、それで全てをカバーするのは難しい。 穴をなくす為には、他の言魂士の力も必要だ」
「他の言魂士、ね……。 わたしには思い付かないけど、透真には何か考えがあるの?」
「大した案じゃないぞ、歌奏。 ただ、【結界】や【障壁】、【探知】などの言魂を持つ者たちを集めて、【聡明叡智】の穴を埋めさせてはどうかと思っただけだ。 そうすれば弦蔵は休み易くなるし、穴を埋める連中も順番に休息を取れるよう、調整すれば良い」
「ふむ……。 悪くないかもしれんな。 すぐには難しいだろうが、やってみる価値はある。 歌奏、明日にでも該当しそうな言魂士を集めてくれるか? 多ければ多いほど良い」
「了解しました。 手配しておきます」
真剣な顔で頷いた歌奏に、弦蔵は満足そうに笑みを浮かべた。
しかし、すぐに表情を引き締めて、次なる議題に移る。
「黒咲領から連絡鳥が来たが、向こうは向こうで大変だったようだ。 なんとか無事に終わったものの、かなり危なかったらしい。 やはり、『十魔天』が絡んでいたみたいだな」
「そうなると、無明さんを首都から出したのは正解だったのかどうか、難しいところですね。 まぁ、結果良ければ……と言う言葉もありますが。 透真は心配だったんじゃない?」
少し意地悪そうに、透真に流し目を送る歌奏。
弦蔵も何やらニヤニヤ笑っており、透真は内心で呆れ果てていた。
ただし、黙り込むことはなく、平然と言い返す。
「俺が施した守護は、残っている。 それはつまり、命に関わる場面はなかったと言うことだ」
「ほう。 これだけ離れていても、そんなことがわかるのか」
「当然だろう、弦蔵。 自分でやったのだからな」
「いや、それは貴方だけだから……。 わたしの護符なんて、少し遠くに行ったら察知出来なくなるし」
「それは、お前が未熟だからだ。 歌奏、もっと精進しろ」
「本当に、可愛くない……」
歌奏は透真にジト目を向けたが、どこ吹く風。
そのことを歌奏が不満に思っていると、透真がすぐさま軌道修正を図った。
「そんなことより、やはり敵の狙いは【一筆魂書】か?」
「あぁ、恐らくな。 もっとも、奴らは夜宵を『核』と呼んでいるようだが」
「『核』……。 いったい、何のことなんでしょう?」
「はっきりしたことは、現時点ではわからん。 ただ、これからも夜宵が狙われるのは、間違いないだろう」
歌奏の問いに曖昧に答えた弦蔵は、難しい顔で口髭を撫でた。
対する歌奏もおとがいに手を当て、何やら考え込んでいる。
隠し部屋に静寂が満ちようとしたが、その前に透真が口を開いた。
「今は考えても、詮ないこと。 そんな時間があるなら、体を休めて態勢を整え、戦いに備えるべきだろう。 誰が攻めて来ようが、返り討ちに出来るようにな」
「……そうだな。 儂らも、疲れは溜まっている。 休めるときに休むべきだ」
「そうですね、学院長。 でも透真、桜葉さん……いえ、クオンに関してはどうするの? 今回は助けてくれたようだけど、一応『十魔天』なのよね?」
少し心配そうな歌奏と、毅然とした面持ちの弦蔵。
2人から見つめられた透真は、少しだけ間を取って、自身の考えを語った。




