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言魂学院の無字姫と一文字使い ~ 綴りましょう、わたしだけの言葉を ~  作者: YY
第2章

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第24話 3人で

 巨大死霊兵の強さを改めて示すなら、ガイゼルよりは弱くて、エニロたち腹心よりは圧倒的に強い。

 つまり、四季や一葉、光凜であれば、勝てる可能性が高いと言うことだ。

 そう、普段通りなら。


「何て言うか、無駄に大きいわね」

「無駄かどうかは、やってみないとわからんぞ」

「いずれにせよ、長期戦は厳しいわね。 なるべく速く倒すわよ」


 一葉の軽口を四季はバッサリと切り捨て、光凜は建設的な案を出す。

 美紗たち『参言衆』の働きもあり、結界は無事に破壊出来た為、人々の命の危機はひとまず去った。

 四季たちの消耗も止まり、最悪の事態は免れたと言える。

 しかし、ここで巨大死霊兵を倒せなければ、それも台無しだ。

 最後の最後にこのような罠が仕掛けられていたことに、3人は悔しがる――ことはない。

 彼女たちにあるのは、ヒノモト最大戦力として、この難局を打開しようと言う意志のみである。

 どれだけ疲れていようが、魂力が摩耗していようが、そこだけは揺るがなかった。

 そうして巨大死霊兵と対峙した四季たちは、奇しくも同じ結論に至っている。


「この期に及んで、陣営だ何だと言っている場合ではないな」

「そうね、四季さん。 わたしたちは、何があっても勝たなければならないの。 余計なプライドは捨てるべきだわ」

「ふん。 今回だけは、陰険女に賛成してあげる。 あたしたちの本気の本気、見せてやりましょ!」


 叫ぶと同時に、一葉が言魂を発動した。

 隠匿発動を使用しない、通常発動。

 正確に言うなら、今の彼女に緻密な制御が必要な隠匿発動は使えず、なおかつ手加減出来るゆとりなどない。

 それは四季と光凜も同様で、2人とも通常発動を選択した。

 3人を中心に魂力が荒れ狂い、収束して行く。

 ペース配分に気を付ければ、ある程度長時間戦うことも可能。

 だが彼女たちは、敢えて短時間の最大出力に賭けた。

 知能の高い巨大死霊兵はそのことを察知し、先手必勝で3人を仕留めようとして――


「とうッ!」


 地上から一直線に放たれた一葉の跳び蹴りが、巨大死霊兵を襲った。

 反射的に盾で守ったものの、【一騎当千】の破壊力を防ぎ切るには至らない。

 ダメージ自体はなかったが、巨体が後方に弾け飛び、背中から地面に倒れ込む。

 そこは人里から離れた場所であり、一葉の狙い通りだった。

 適当に攻撃したように見えて、彼女は人命を第一に考えていたらしい。

 そのことに四季と光凜は気付きつつ、敢えて言及せずに、それぞれの戦いを開始する。


「付いて来られるかしら?」


 飛び跳ねるように立ち上がった巨大死霊兵の足元で、神速の機動力を発揮する光凜。

 絶え間なく場所を移動しながら、鋭い斬撃を右膝に叩き込み続けた。

 以前から一撃の威力の低さを課題にしていた光凜だが、そちらは現時点で大きな進歩はない。

 ただし、剣技の底上げに関しては違う。

 夜宵だけではなく、積極的に透真に挑むようになった彼女は、めきめき腕を上げていた。

 元々、正確無比な攻撃が得意だったが、そこに大胆さも加わっている。

 【電光石火】によって目にも映らぬ速さを手に入れ、繊細かつ力強い連撃を放った。

 それでも巨大死霊兵にとっては、大した痛手ではなかったが、鬱陶しそうに巨剣で薙ぎ払おうとしている。

 ところが、そのようなものが当たる光凜ではなく、彼女の努力は遂に実を結んだ。


『グ……!?』


 バキッと。

 度重なる斬撃を受けた右膝が割れ、巨大死霊兵が呻きながら崩れ落ちた。

 大きな隙を晒した巨大死霊兵は、巨剣を杖にして起き上がろうとしているが、そこに四季が攻め込む。


「行けッ!」


 鳥の翼で上空を翔けた四季が、雨のような羽根の弾丸を放った。

 尋常ではない硬さを誇る巨大死霊兵だが、羽根の弾丸の特性は貫通力。

 ダメージを与えることよりも、足止めに力を使った四季の攻撃は、巨大死霊兵の腕と足を蜂の巣にする。

 またしても動きを止めることとなり、苛立たしそうな声を漏らしていた。

 そこに一葉が、全力の跳び膝蹴りを繰り出す。


「それッ!」


 軽い掛け声に反して、馬鹿げた威力が込められていた。

 彼女の小柄な体が地面から跳び上がり、沈み込んでいた巨大死霊兵の顎に、膝蹴りがクリーンヒットする。

 顎が粉砕され、仰け反る形になった巨大死霊兵だが、まだ終わりではない。


「これでどう?」


 既に頭上を取っていた光凜が、落下の勢いも乗せた斬り下ろしで首を断ち切った。

 地響きを立てて巨大死霊兵の頭と体が、地面に倒れ込む。

 その様子を見ていた四季たちは、大きく息をついた。

 圧倒的な戦いを繰り広げていたようだが、実際はかなりの無茶を通している。

 体力的にも魂力的にも、これ以上の戦闘は避けたい――が――


「……そう簡単には、行かないわね」

「む~! 腹立つ!」

「文句を言うなら、九条。 少なくとも、削ったのは間違いない」


 粉々になった顎や割れた膝も含めて、完全に修復した巨大死霊兵。

 何事もなかったかのように佇んでおり、3人を怪しく見下ろしている。

 全く同じに見えるが、四季の言うように、当初よりも内包しているエネルギーが減じていた。

 ただし、それは彼女たちも同じ。

 むしろこのまま戦えば、巨大死霊兵を駆逐するより先に、四季たちの限界が訪れるのは、火を見るよりも明らか。

 3人もそのことは正しく認識しており、勝ち目のない戦いに絶望――していなかった。


「四季ちゃん、あれ行ける?」

「時間帯的には、ギリギリではないかしら?」


 同時に上を振り仰ぐ一葉と光凜。

 そこには、夜が訪れた空が広がっていた。

 あまりにも息の合った行動に、思わず苦笑を漏らした四季は、力強く返答する。


「誰にものを言っている。 可能に決まっているだろう。 ただ……」

「守りを任せるってんでしょ? わかってるわよ!」

「猪娘の言う通りよ。 四季さんは思う存分、力を溜めて頂戴」

「……あぁ、頼んだ」


 微塵も躊躇のない一葉と光凜の言葉を受けた四季は、地上に降りて目を閉じた。

 自然体で立ち、残った全ての魂力を凝縮させて行く。

 完全なる無防備で、そのようなものを見逃すほど、巨大死霊兵はお人好しではない。


『ガァッ!』


 巨体に見合わぬ速度で振り下ろされた、塔のような巨剣。

 それでも四季は微動だにせず、力を溜め続ける。

 そうして巨剣が、彼女を押し潰そうとした、瞬間――


「えいッ!」


 四季の前に立ち塞がった一葉が、渾身の右ストレートで巨剣を粉砕した。

 あまりの衝撃に仰け反った巨大死霊兵だが、今度は左手を伸ばして、四季を握り潰そうとしている。

 もっとも、届くことはない。


「はぁッ!」


 炎雷を纏った『雷切丸』で、巨大死霊兵の左腕を肩口から斬り落とす光凜。

 左腕は燃え尽きて、炭となった。

 しかし、巨大死霊兵が諦めることはなく、口腔に魔力を凝縮させ――砲撃。

 口から吐き出された魔力の塊が、四季を飲み込もうとしたが――


「やらせる訳には――」

「行かないってのッ!」


 四季の前に並び立った光凜と一葉が、最後の力を振り絞って砲撃を相殺する。

 光凜の『雷切丸』と一葉の右拳が砲撃とせめぎ合い、辛うじて凌ぎ切った。

 とは言え、流石の彼女たちも限界に達し、地面に手を突いている。

 対する巨大死霊兵は健在で、またしても魔力の砲撃を繰り出そうとしていたが、そのときは訪れなかった。


「待たせたな」


 静かに告げた四季が右手を天に掲げると、現れたのは――月。

 無論、本物ではない。

 だが、圧倒的な存在感は、そう錯覚させるほど。

 【花鳥風月】最後にして最大の技。

 夜にしか使えないことと、チャージに時間が掛かると言う欠点を持つが――


「滅せよッ!」


 その殲滅力は、絶大。

 異変を感じた巨大死霊兵は頭上を見上げ、月から迸った光の奔流に飲み込まれた。

 あとには何も残っておらず、綺麗さっぱり消滅している。

 復活する気配もなく、間違いなく勝利したことを確かめた四季たちは、誰からともなく集まった。

 その顔には、何とも言い難い表情が浮かんでいる。

 四季は真顔を装っているが、微妙に頬が赤い。

 一葉は頭の後ろで手を組みつつ、目を泳がせていた。

 光凜は冷静に見えるものの、若干落ち着きがないようにも感じる。

 誰も何も言えないまま、しばしの時間が過ぎ去ったが、口火を切ったのは四季だった。


「……助かった。 感謝する」


 極めて短く、小声での感謝。

 それを聞いた一葉と光凜は目を丸くしたが、次いで苦笑を漏らして言い返した。


「わたしたちの方こそ、助かったわ。 四季さんの月は、相変わらず凄いわね」

「まーね。 今回ばかりは、あたしだけで充分!……とは言えなかったかも」

「九条、それは全員がそうだ。 この勝利は、わたしたち3人で掴んだものだと言える」

「少しむず痒いけれど……たまには良いかもしれないわ」

「何を照れてんのよ、陰険女。 ……気持ちは、わからなくもないけど」


 相変わらず、素直になり切れない『肆言姫』たちだが、間違いなく心は通じ合っていた。

 またしても沈黙が落ちたものの、空気は決して悪くない。

 だからと言って、感傷に浸るには早いだろう。

 まだ、全ての戦いが終わった訳ではないのだから。

 ほぼ同時に、意識を切り替えた四季たちは頷き合い――ズン、と。

 遠くから足元に振動を感じて、一斉に振り向いた。

 視線の先は、人里から離れた荒地。

 目視することは出来ないが、2つの強大な魔力が衝突している。

 悩んだのは一瞬で、即座に四季が方針を立てた。


「行くぞ」

「オッケー!」

「状況を把握する必要はあるわね」


 思いを同じくした四季と一葉、光凜が、休息を訴える体に鞭を打って駆け出した。

 こうして首都での戦いは、佳境を迎える。

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