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茶会の誘い

「……何の冗談だ」

 

 グレイハルトは、リトハルド公爵家の屋敷に届いた手紙に頭を抱えた。

 送ってきたのは、言わずもがなエリーゼ。内容は茶会の招待だ。

 行くつもりはないが、グレイハルトの自室にルルシェが飛び込んできて事情が変わった。


「グレイハルト!! あなた、エリーゼに何をしたの!?」

「ね、姉さん……い、いきなり何?」

「いきなり何、じゃありません!! あなた、エリーゼから茶会の招待状を受け取ったでしょう? リツハルトには送られてこなかったのに、あなたには届くってどういうこと!!」

「こ、声大きい……静かにしてくれよ」


 ルルシェは、キンキン声で叫ぶ。

 グレイハルトは耳を押え、手紙をチラッと見た。

 姉にバレた以上、『え、手紙? 届きませんでした』という作戦は使えない。それに、手紙には『ご安心ください、私とあなただけの茶会ですので』とも書いてある。勘違いされてもおかしくない手紙だ。

 

「はぁ……エリーゼ、当てつけなのかしら」

「え、当てつけ?」

「……まぁ、どうせエリーゼが言うだろうから教えてあげる」


 ルルシェは、グレイハルトに説明する。

 リトハルド公爵家が出資しているヘルマン侯爵家の令嬢プリメラが、休暇明けに学園で開催されるダンスパーティーのパートナーに、兄リツハルトを指名したこと。

 事業の関係上、出資する立場のリトハルド公爵家だが、ヘルマン侯爵家には強く言えないことから、プリメラ令嬢の願いを聞くしかないこと、エリーゼはダンスパーティーを病欠する予定などを、ルルシェから聞いた。


「ダンスパーティー……」

「あなたも聞いたでしょう? 学園の休暇明けに開催されるパーティーよ。王太子殿下もいらっしゃるパーティーよ!」

「ふーん」


 グレイハルトは、絶望的に興味がない。

 ダンスは踊れるが、相手がいない。公爵家の名前を出せば相手は見つかるだろうが、グレイハルトはそこまでしてパーティーに参加するつもりはなかった。 

 姉ルルシェは興奮している。


「姉さんの相手って……」

「もちろん、王太子殿下よ」


 ルルシェは、王太子の婚約者候補筆頭でもあった。すでに殿下から誘いが来ている。

 

「エリーゼ、パーティーに出られない腹いせに、あなたを茶会に誘ってリツハルトに見せつけるつもりなのかしら……」

「え……えええええっ!?」

「……ま。グレイハルトだし、そんなわけないか。他にもいい男はごまんといるし、わざわざグレイハルトを呼び出すのもねぇ……」

「……姉さん、さすがに失礼だよ」

「あらごめんなさい」


 ルルシェはクスっと笑う。

 兄リツハルトはともかく、姉ルルシェはグレイハルトをからかう程度には話しかけることがあった。今回もそのパターンだろう。

 そして、なぜか胸元に隠してあった扇を取り出し、バッと広げる。


「あなた、エリーゼと何かあった?」

「何かって……まぁ、つい先日、町でたまたま会って、古本屋に一緒に行って、店内を案内したけど」

「……それで?」

「それだけ。本屋の前で別れたよ」

「…………はぁ、なんだ。それなら、純粋にお礼の意味合いが強そうね」


 ルルシェはため息を吐き、部屋を出て行った。

 相変わらず、嵐のような姉だ。外見も外面も非常に良いが、今のような態度がルルシェの本性だとグレイハルトは知っている。

 グレイハルトは、書きかけの原稿の続きを書こうと思いペンを手にする。


「……うーん」


 だが、ペンを置きテスラを呼んだ。


「グレイハルト様、何か御用ですか?」

「あのさ、この手紙見たよね。茶会の誘い……」

「ええ」

「断れないし、前向きに考えることにした。せっかくだ……若い女性相手の取材って考えることにする。テスラ、失礼のない返信の書き方と、茶会に相応しい服、用意して」

「……お、おおっ! グレイハルト様がやる気になられた!」

「いや、取材だし……女性と接するのは緊張するけど、取材って思えば少しは気が楽だ。ダリウス編集長も言ってたよな……僕の書いてるファンタジーに足りないのは、女性キャラの扱いや心情、恋愛だって」

「確かに……」

「せっかくだ。アイレイウス令嬢に『取材』してみるよ」

「…………」

「な、何だよ」

「いや、それでいいのかな、と」


 テスラは、グレイハルトと長い付き合いだ。

 グレイハルトも、リツハルトよりテスラに『兄』を感じていた。


「グレイハルト様、本当に大丈夫ですか? 少し話しかけられただけで、ろくな返答もできなかったのに……『ええと』とか『まぁ、はい』とかはダメですよ」

「わかってる。取材だ取材」


 グレイハルトは、さっそく手紙を書くことにした。


 ◇◇◇◇◇◇


「エリ、返事! 返事が来たわ!」

「はい、お嬢様」


 エリーゼは、グレイハルトからの返事に歓喜していた。

 内容は、『茶会の誘いありがとうございます。ぜひ参加させていただきます』との内容だ。定型文を当てはめたような内容だが、エリーゼは喜んだ。

 

「ねぇエリ! グレイハルトに頼めば、タック・マルセイのサインとかもらえるかしら!」

「うーん……希望はありますね」

「ふふ、作家のお友達とかいるのかしら。ああ、いろんなお話聞けそう!」

「お嬢様、そう興奮なさらずに」

「あ、ごめん」


 エリーゼは呼吸を整える。

 そして、エリに命じた。


「茶会は明日。エリ、諸々の準備はお願いね」

「かしこまりました」


 自分が取材対象とは知らず、エリーゼは明日の茶会を楽しみにしていた。

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最強種族『竜人』の落ちこぼれ少年~最強の力に覚醒し無双する~
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