【8】 僕と火炙り
ーー違う。
何をどう願ったところで、神さま救ってくれたりなんてしない。
そもそもローズを苦しめるようなヤツだ、現れたとしても、頼ってはいけないんだ。
「あの、」
「なんじゃ、まだ何かあるのか?」
上機嫌な議会長が返答する。
無理だバカやめろと自分自身思うけれど、僕には他に手が思いつかない。
「聞いて欲しい話があるのですがーー」
僕はローズから聞いた話をかいつまんで話した。
全てが誤解であり、憎む相手はいないのだと。
「そんなことが……」
最後まで黙って聞いていた議会長が口を開く。
「なんと悲しいことなのだ……」
「議会長?! 何言ってるんですか、このガキの話、信じるんですか?!」
「信じるも何もあるまい……」
そう言って議会長は、僕に哀れみの目を向けてくる。
ああ、そうだった。僕はこの哀れみの目が嫌いなんだった。
どうしてか、ローズの向けてくれた目を思い出す。
あの時は哀れみだと思ったけれど、違う。
あれは……あれが人を慈しむ目だったんだ。
「シロイはもうダメじゃ。魔女に毒されておる。清めて送るしかあるまい……」
「あ、ああ、なんだ! そう言う事ですか!」
ダメか。そりゃそうだよね。
気色ばむような叔父さんの声が、なんだか遠く感じる。
どうしようもない僕の人生だったけれど、最後の一ヶ月は悪くなかったと思えるのが救いかも知れない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それからはとても早かった。
夜が明けると、僕は広場の清め台に吊るされていた。
これは魔女を殺すために作られた物だけど、何年かに一度、魔女に誑かされたと判断された咎人に対して使われている物だ。
その彼らがどんな目に遭ったのか、これから僕がどんな目に遭うのか、それはよく知っている。
全身にかけられた油の臭いは、あの日の僕の愚行を思いだす。
「皆の者、聞くがよい!」
どこか楽しそうに、議会長が見物人達に対して声を張り上げる。
「ここに吊るされたシロイ・アクリルは、あの魔女に誑かされていると判明した! よってこれより清めの炎にかけ、清い場所へ送る事とする!」
ざわざわと。
普段、咎人の清めに湧いている見物人達が、今日は騒めいている。
今まで子どもが清められた事はないからだろう。
こんな世界でも良識みたいなのはあるのだと、少しだけホッとした気持ちになった。
「おーい! その子は一体何をしたんだ?」
若そうな男が議会長に問いかける。
「こやつは魔女から直接、邪悪な知識を授けられた! 説得も試みたが、どうにも手遅れであったのだ!」
「……なるほど! あー、それなら仕方ねえな! 皆でしっかり送ってやろうぜ!」
議会長の言葉に納得した様子の男は、そう言って意地の悪い大声で観客を煽動し始めた。
すると、先ほどまで困惑した様子だった観客にも、致し方なしという雰囲気が漂い始める。
「ローズ……」
今、思い浮かぶのは彼女の顔だ。
あれだけ顔を出していた僕が急に来なくなれば、彼女も異常に勘付いて、直ぐに僕の事を知るだろう。
僕の自業自得でしかないんだ。
どうか彼女が心を痛めずにいて欲しい。
「シロイよ。最期に言葉を残して良いぞ。ただし、それが魔女に与する言葉であれば、その時点で生きたまま清めを始める」
これは慈悲とかそんなものじゃない。
今までの咎人たちは、自分のの身に起こった理不尽に対して、最期の言葉で恨み辛みを吐いていた。
それを見て、観客たちは清めに間違いは無かったと胸を撫で下ろすんだ。
何を言っても、僕は死ぬ。
それなら、誰にも伝わらなくてもいいから、好き勝手話して終わろう。
「魔女はーー!」
この一ヶ月の記憶が鮮明に脳裏を駆け巡る。
「とても優しかった! 守られているんだ、僕らは!」
「手に負えんな……。火を焚べろ」
議会長の言葉で、僕の足先に直接火が付けられた。
一瞬で視界が明るく染まる。いつかよりも明るく感じたのは、単純に火の勢いが違うからなんだろう。
でも、前と一つだけ違うことかあった。あの耐え難い痛みがまだこない。まだ喋る余裕がある。
それなら言い切ってやろう。
「間違って、いるのは、ぼくら、」
まだまだ言い足りないけれど、もう喋るための、さんそが、なくてーー。
「ーーーー」
意識を失う直前、誰かに何かを言われた、気がする。
ローズじゃない、意地の悪い声だった。




