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森の奥の白い家の魔女  作者: プーマン
白い家の魔女と僕
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8/15

【8】 僕と火炙り

 ーー違う。 


 何をどう願ったところで、神さま救ってくれたりなんてしない。

 そもそもローズを苦しめるようなヤツだ、現れたとしても、頼ってはいけないんだ。


 「あの、」


 「なんじゃ、まだ何かあるのか?」


 上機嫌な議会長が返答する。

 無理だバカやめろと自分自身思うけれど、僕には他に手が思いつかない。


 「聞いて欲しい話があるのですがーー」





 僕はローズから聞いた話をかいつまんで話した。

 全てが誤解であり、憎む相手はいないのだと。


 「そんなことが……」


 最後まで黙って聞いていた議会長が口を開く。


 「なんと悲しいことなのだ……」


 「議会長?! 何言ってるんですか、このガキの話、信じるんですか?!」


 「信じるも何もあるまい……」


 そう言って議会長は、僕に哀れみの目を向けてくる。

 ああ、そうだった。僕はこの哀れみの目が嫌いなんだった。


 どうしてか、ローズの向けてくれた目を思い出す。

 あの時は哀れみだと思ったけれど、違う。

 

 あれは……あれが人を慈しむ目だったんだ。


 「シロイはもうダメじゃ。魔女に毒されておる。清めて送るしかあるまい……」


 「あ、ああ、なんだ! そう言う事ですか!」


 ダメか。そりゃそうだよね。

 気色ばむような叔父さんの声が、なんだか遠く感じる。


 どうしようもない僕の人生だったけれど、最後の一ヶ月は悪くなかったと思えるのが救いかも知れない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 


 それからはとても早かった。


 夜が明けると、僕は広場の清め台に吊るされていた。


 これは魔女を殺すために作られた物だけど、何年かに一度、魔女に誑かされたと判断された咎人に対して使われている物だ。


 その彼らがどんな目に遭ったのか、これから僕がどんな目に遭うのか、それはよく知っている。


 全身にかけられた油の臭いは、あの日の僕の愚行を思いだす。

 

 「皆の者、聞くがよい!」

 

 どこか楽しそうに、議会長が見物人達に対して声を張り上げる。


 「ここに吊るされたシロイ・アクリルは、あの魔女に誑かされていると判明した! よってこれより清めの炎にかけ、清い場所へ送る事とする!」


 ざわざわと。

 普段、咎人の清めに湧いている見物人達が、今日は騒めいている。


 今まで子どもが清められた事はないからだろう。

 こんな世界でも良識みたいなのはあるのだと、少しだけホッとした気持ちになった。


 「おーい! その子は一体何をしたんだ?」


 若そうな男が議会長に問いかける。


 「こやつは魔女から直接、邪悪な知識を授けられた! 説得も試みたが、どうにも手遅れであったのだ!」


 「……なるほど! あー、それなら仕方ねえな! 皆でしっかり送ってやろうぜ!」


 議会長の言葉に納得した様子の男は、そう言って意地の悪い大声で観客を煽動し始めた。


 すると、先ほどまで困惑した様子だった観客にも、致し方なしという雰囲気が漂い始める。


 「ローズ……」


 今、思い浮かぶのは彼女の顔だ。

 あれだけ顔を出していた僕が急に来なくなれば、彼女も異常に勘付いて、直ぐに僕の事を知るだろう。


 僕の自業自得でしかないんだ。

 どうか彼女が心を痛めずにいて欲しい。


 「シロイよ。最期に言葉を残して良いぞ。ただし、それが魔女に与する言葉であれば、その時点で生きたまま清めを始める」


 これは慈悲とかそんなものじゃない。

 今までの咎人たちは、自分のの身に起こった理不尽に対して、最期の言葉で恨み辛みを吐いていた。


 それを見て、観客たちは清めに間違いは無かったと胸を撫で下ろすんだ。


 何を言っても、僕は死ぬ。

 それなら、誰にも伝わらなくてもいいから、好き勝手話して終わろう。  


 「魔女はーー!」


 この一ヶ月の記憶が鮮明に脳裏を駆け巡る。


 「とても優しかった! 守られているんだ、僕らは!」


 「手に負えんな……。火を焚べろ」


 議会長の言葉で、僕の足先に直接火が付けられた。

 一瞬で視界が明るく染まる。いつかよりも明るく感じたのは、単純に火の勢いが違うからなんだろう。


 でも、前と一つだけ違うことかあった。あの耐え難い痛みがまだこない。まだ喋る余裕がある。


それなら言い切ってやろう。


 「間違って、いるのは、ぼくら、」


 まだまだ言い足りないけれど、もう喋るための、さんそが、なくてーー。


 「ーーーー」


 意識を失う直前、誰かに何かを言われた、気がする。


 ローズじゃない、意地の悪い声だった。

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