【7】僕と◯◯◯
「シロイ、ちょっと来なさい」
ローズの元に通い始めて一ヶ月くらい経った頃、叔父さんが物置こと僕の部屋にやって来た。
名前を呼ばれるのはいつ振りだろうか。
「こんな夜にどこへ行くのですか?」
「黙って着いて来るんだ」
そう言うと、叔父さんはスタスタと歩き出す。
なんとも言えない嫌な予感がしたけど、着いて行くしかないので黙って後に続く。
そうして着いた先は、議会長の家だった。
「議会長様、シロイを連れて参りました」
「おお、待っておったぞ! 久しぶりだねぇ」
「……ご無沙汰しております」
議会長は、ついこの間まで商人をしていたけど、転がり込んで来た資産を元に、あっという間に議会を牛耳った人だ。
耳障りの悪い声で僕に笑いかけてくる。
「シロイくん、儂はちゃあんと知っているよ」
僕の悪い予感は当たりそうだと思った。
「お前は魔女の森に入っているね? 魔女の家を見つけたかい?」
内臓がひっくり返ったように気持ち悪い。
が、ここで言葉選びを間違えてはいけない。
なんの証拠もなく、こんな事言うはずはないのだから。
「……はい」
肯定するしかない。
ウソをついた時、それがどんな取り返しのつかない事になるか分からないのだから。
今さえ乗り切れたなら、なんとか出来る可能性は残る。
「オイオイ! シロイ、良くやったなぁ!!」
「え、?」
横に立っていた叔父さんが、不意に僕の背中を叩く。それもものすごく嫌な笑顔を浮かべて。
「おお、おお! お前が森に出入りしているという噂は真であったか! 素晴らしい功績だ!」
「は、はい」
事態が飲み込めない。
どうして僕は褒められているんだろう。
「ようやく魔女を見つけられた。我が町の近くに住み着き何百年。ようやく、ようやくだ!」
「み、見つける、ですか?」
見つけるも何も、魔女の家が森の奥にある事など誰でも知っている。
何故この人達はこんなに喜んでいるんだ?
「あ? あー、そうかまだお前しらねぇか」
困惑している僕に、上機嫌な叔父さんが説明する。
僕にとって絶望的な説明を。
「魔女の家はな、誰も見た事ねえんだよ。昔話にゃ森の奥に住んでるって書かれてるけど、どれだけ探しても見つからねぇから、そのうち森自体を封鎖しちまったんだ」
叔父さん、説明を、続ける。
「曰く、森の魔女は人を惑わすって言うからな。封鎖してりゃ、その内何か起こるだろうって。15になるまでは秘密にしてるけどな。ガキの方が誑かされるんじゃねえかってよ」
「そしたらどうだ、お前が最近森の周りでフラフラしてるって噂が出てきたんだ。いやぁ、まさか本当に見つけてるとは思わなんだよ!」
「そう、だったんだ! てっきりみんな知ってると思ってた! 森に入っちゃってごめんなさい……」
間違えた。
僕は答えを間違えた。
取り繕うための時間が欲しい。
無邪気な子供を演じなくてはいけない。
「いいんじゃよ。シロイ、お主は本当によくやった。魔女を退治でもしたかったのだろう? 勇気ある若者だ、何も咎めまい」
「は、はは。ありがとうございます……。そう言う事でしたら、明日明るくなったらご案内しますよ!」
この場から離れなければ。
この人達がどういう思考をしているのかは、いやでも分かってしまう。
「ハッハッハ。本当に素晴らしい子じゃな。すまんが、明日ではなく、今から案内してくれんか?」
「い、いえ、でも暗い森は危ないですよ」
「心配いらぬ。明るい松明を山ほど持っていくのでの。30人ほどで山に入り、魔女も家も全て焼いてしまうのだ」
ああ、神さま。
本当に貴方がいて、ローズの行く末が見たいのでしたら、なんとかお救い下さい。




