【15】 森の奥の白い家の魔女
「そんで、これからどうするよ? 何かしたい事とかあんのか?」
彼がローズにそう問いかけた。
彼女は頬に指を当てて、考える仕草を見せる。
「うーん、そうだねぇ。……やっぱり、みんなと過ごした場所に一度帰りたい、かなぁ。お前の事だから、ちゃんと弔ってくれているんでしょう? ……私は、現実を受け止めきれなくて、ずっと帰れていないから」
「そりゃもちろん。きっちり全員分の墓もあるぜ」
「……ありがとう」
二人には特別な空気感がある。
それは知り合いというよりも、もっと親しい関係なんだろうなと思った。
思えば、彼はローズの為にどれだけの苦労をしたのだろうか。
冗談めかして話していたけれど、神様なんて簡単にどうこうできる相手じゃないに決まっている。
それをローズのために、途方もない時間をかけてどうにかしてしまったんだ。
……すごいなぁ。
「ねえ、ローズ」
「ん、なにかな?」
彼と話していたローズが、振り返って笑いかけてくれる。
「いつ行っちゃうのか教えて欲しいな。2人にはたくさんお世話になったから、お見送りはちゃんとしたいんだ」
せめて二人の旅立ちに立ち会いたいなと、素直にそう思った。
「……うん?」
ローズは首を少しコクンと傾けて、困ったような顔をしている。
もしかして何か困らせてしまったかな……。
「あ、やっぱり迷惑ならーー」
「違ぇよ、バーカ」
横にいた彼が僕の頭をわしわしと撫で回しながら言葉を遮る。
「こいつも一緒に連れていくんだろ?」
彼はそうローズに問いかけた。
少しも悩んだ様子もなく、ローズは頷く。
「当たり前だろう? 君はもう死んだ事になっているんだよ。それに……こんな町に置いていくと私が不安で仕方ない。人助けだと思って一緒に来て欲しいな」
「でも、せっかく二人会えたんだから……」
そうは言ってくれても、やはり二人の間を邪魔する事は出来ない。
二人は間違いなく良い人だ。僕が着いていくと色々な部分で枷になってしまう。それが嫌だ。
「うん? だからなんだい?」
「僕がいると邪魔だと……」
一瞬の沈黙の後、
「ふふっ、あはははっ!」
「ダァハハっ!!」
二人は、そろって吹き出した。
「おいおい! お前、まさか俺たちが深い関係だって思ってたのか?!
「ふふっ……いや、すまない。想像したら、つい……!」
ローズは目尻に浮かんだ涙を指で拭いながら、まだおかしそうに肩を震わせていた。
彼もまた、腹を抱えて笑っている。
「ち、違うの?」
「彼とはただの腐れ縁だよ。生まれが同じ村だったんだけれど、同年代がお互いしかいなくてね。いつの間にか一緒にいるのが当たり前になったんだ」
ようやく笑いが治まったらしい彼女が、そう説明してくれた。
彼もローズの言葉に続ける。
「……まあ、安心しろ。俺もコイツもそう簡単に死ねねぇんだ。ガキが独り立ちするまで面倒みる時間はあらぁ」
「二人とも……」
思わず、声が漏れた。
そんな僕を見て、ローズが優しく目を細める。
「なんだい? まだ何か心配事でもあるのかな?」
「……僕が、本当についていってもいいの?」
「来いっつってんだ」
彼は、まるでそんなことを聞く方がおかしいとでも言いたげに答えた。
「お前がいなきゃ、誰がローズの面倒を見るんだよ」
「おや、それは聞き捨てならないね。私だって、これでなかなかしっかりしているつもりなんだけど?」
「どこがだよ。昔っから放っておくと、ろくなことにならねぇだろうが」
「放っておいたら神になってしまったのはどこの誰だったかな?」
楽しげなやり取り。
だけれど、敢えて軽妙なやり取りにしてくれてるんだと思う。
そんな二人の心が嬉しくて、胸の奥がじんわりと温かくなった。
「……ありがとう」
今度は、ちゃんと言えた。
「礼なんかいらねぇよ」
「ふふっ、そうだね」
彼は照れくさそうに鼻を鳴らし、ローズは嬉しそうに微笑んだ。
「さあ、まずはどこへ行くのか三人で決めないと」
「お前、さっき墓参りがしたいって言ってただろうが」
「あんな辺境まで行くんだ。少しくらい寄り道をしてもバチは当たらないだろう?」
「あー……ま、それもそうだな」
「ね。良かったらローズに紹介したいお店があるんだ。行ったことないんだけれど、ちょっと遠い町に大きな古書のお店がーー」
「よし、決まりだ。さっさと準備をしよう」
「お前そんな感じだったっけ……?」
他愛もない会話をしながら、これからの生活を想像する。
住み慣れた町、お父さんとお母さんとの思い出だってある町。失うものもあったけれど、大切なものが出来た町。
ーーこの森から魔女はいなくなる。
ーー僕は……。
読んで頂いた方、ありがとうございました。
大変申し訳ありません。バッドエンドの予定で話を書いていたのですが、どうしても幸せにしたくなってしまいました。
整合性のない部分があるかと思いますが、ご容赦ください。




