【14】 変わらない世界
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「それでなんだ? 貴様はシロイ君の複製を代わりに吊るして燃やさせて、皆を欺いたということか?」
「本当に申し訳ありませんでした……」
「貴様というやつは。私がどれほどの気分を味わったのか思い知らせてやろうか?」
僕の目の前で、彼がローズに土下座をしている。
人の土下座を見たのって、生まれて初めて。
「……もういい。シロイ君を助けてくれたのは、本当に良くやってくれた。礼を言うよ」
僕が助けられてからの話はこうだった。
まず、彼は僕を模した身代わり人形を作った。
それから僕は3日寝ちゃった。
その間にローズが広場に行って、身代わり人形を見てしまった
「……ローズ、僕が悪い話だよ。心配かけてごめんなさい」
「そうだね。私は君にも怒っているよ。聞けば私を庇って死のうとしたらしいね? はっきり言って迷惑だ」
「……うん」
「でも、嬉しいと感じる部分もある。怖い思いをしただろう、ありがとうね」
「…なんかソイツに甘くね?」
「うるさい。少し黙ってなさい。……何を勝手に茶を飲んでいるんだい?」
「話長くなるしなぁって。まあ座ろうぜ」
いつの間にか土下座を止めていた彼が、これまたいつの間にか淹れたお茶をテーブルで啜っている。
ご丁寧に3人分用意されていた。
「ローズ、真面目な話だ」
「……待ってたよ」
彼の話がローズにとって大切なものだと、僕は知っている。
「……僕、外にいるね」
「構わねぇよ。部外者じゃないんだ、座ってろ」
「コヤツと2人だと却って気まずい。居てくれないかな?」
「うん……」
席を外そうとした僕を彼が呼び止め、ローズもそれに同調してくれので、大人しく僕も椅子に座った。
ただ邪魔にならないように一言も喋らないでおこうと思う。
「簡潔に言うぞ。ローズ、お前と神サマの契約は切れた」
「ーーそう、か。どおりで最近、ヤツの干渉がないわけだ」
「あれ? 驚かねえんだな?」
「お前が会いに来てくれた事を考えると、合点がいっただけだよ。……ヤツはどうなったんだ?」
「存在ごと消してやったよ。俺が今の神様でーす」
「「……はっ?!」」
能天気な彼の声を理解するのに一呼吸置いて、僕とローズが同時に声を出した。
「いやぁ、俺って消されそうになったろ? 実際に周りの連中は消されちまったし。どうせ消えるくらいならってずっと抵抗してたら、いつの間にか一騎打ちする羽目になって、な?」
「ば、バカな……」
さらっと語っているが、ローズの開いた口の大きさから察するにとんでもないことなんだろうな。
スケールが大き過ぎて僕にはピンとこない。
「あとな、これは気分の悪い話なんだけだけどよ」
と、前置きをして。
「今のこの世界じゃ、もう魔女差別の思想は無くなったよ。他の国じゃもう魔女への理不尽はない。この国だけだよ、なんでもかんでもお前のせいにしてんのは」
本当に気分の悪い話を始めた。
「誰も関わらないようにと、閉鎖的な国の閉鎖的な街近くに住んでたんだろうけどよ、それが裏目になっちまったな」
「俺がヤツを討った時点で、一度世界中からお前への憎悪は無くなったんだ。それをこの国のお偉いさん連中は、わざわざ時間をかけてイチから再教育しやがった」
ローズの話を聞いた時に感じた違和感が分かった。
彼女が話してくれた内容と、僕達が彼女に対して抱いてた感情には、なにか温度差があったんだ。
僕らは彼女に憎悪を向けていたんじゃない。害獣をみんなで追い回すような、そんな娯楽めいた嫌悪感だったんだ。
「……ヤツはここ数十年、私に接触して来なかった。お前がヤツを討ったというのは、その頃であっているね?」
「正確には、もう二十年以上前になる」
「そう、か。くっ……」
そこまで聞いてローズは俯き、肩を震わせた。
当たり前だよね、ずっと何十年も僕らの都合で酷い目に遭っていたなんて……。
「ローズ……」
何も口を出すまいと決めていたけれど、初めて見る彼女の涙にーー
「くっ、くくっ……あははははっ!」
「ろ、ローズ?」
「すまないっ……くくっ。そうか! もうこの世界は大丈夫なんだね! それはなんて素敵なんだ!」
「え」
「心配いらねぇよ、ガキ。未来永劫、全世界に嫌われてでもソレを守るって言える女だぞ。並のメンタルしてねぇ」
「ふふっ。彼の言うとおりだよ、シロイ君。そもそも君が気にしてくれる必要はないんだ」
……ああ。ローズだけじゃない
彼もーーこの2人は、底抜けに優しいんだ。
ローズが不自然なくらいに明るく振る舞っているのは、僕のためだ。僕が何も思わないように。
彼がそれに乗っかっているのは、ローズの為。
僕が沈めば、彼女が悲しむから。
「2人がそう言うなら……」
今だけはーー。




