【10】 魔女の怒り
もう誰も来ない、白い家の中。
どうやってここに帰ってきたのか、覚えていない。
私は自分の過ちを、ただ一人悔いることしか出来ない。
先ほど見た光景だけが、脳裏にこびり付いて離れない。
私などと関わったせいで、あの子はあんな姿になってしまった。
「ーーもう、いいかな」
どれだけの時間、人間を見てきただろう。
その残酷さや愚かさは、もう十分知っている。
ーー優しさや温もりも知っている。
今でもこの世界は好きだ。
私に冷たい世界になったけれど、人間同士が愛し愛され生活を営む姿を覗き見ると、辛く退屈な日々もどうという事は無かった。
ただ、折れてしまったんだ、私の心が。
どれほど痛かっただろうか、苦しかっただろうか。
シロイ君の事を思うと、全てを投げ出して終わりにしたくなってしまう。
コンコンコンーー。
「……?」
不意にドアをノックされた音が響いた。
この家は私が張り巡らした結界により、誰からも認識出来ないようになっているはずだけれど。
コンコンーー!
先ほどよりも少し強くドアが叩かれた。
やっぱり誰か来たようだ。
シロイ君といい、ここは神とやらにも場所を探る事は出来ないはずなのだけれど。
最も、シロイ君の一件以来、ドアの開閉にはより強固な魔術で鍵をしてあるのだから、放っていてもいい。
なんて、ぼうっと考えていると、外から話し声が聞こえてきた。
「居留守決め込んでやがんぞ、アイツ。ようし、こうなったらーー」
「ダメですよ! なに壊そうとしてるんですか!」
それは男性と少年の声。
私には、どちらにも聞き覚えがあった。
「ーーッ!!」
玄関まで駆け寄り、そのままの勢いでドアを開ける。
「シロイ君!!」
「うわっ! ローズ、そんなに慌てて……って、泣いてるの?」
「君は……本当に……」
「そんなに心配かけちゃったかな……? ちょっと来なかっただけだよ?」
「いいんだ、シロイ君が無事で本当によかった……」
あんまり状況が分かっていない様子のシロイ君だけれど、実際この子は何も分かっていないのだろう。
よく状況を理解しているであろう男に説明をしてもらうとしよう。
「ーー貴様。私がどんな感情か分かるか?」
「怒って……いるよな、そりゃ。俺にとっても急な事だったんで手段を選ばなくてよ……」
「うん。とても怒っているよ、私は。さっさと全て詳しく説明をしなさい」
「分かってるよ」
私が怒りの感情など抱くなど、そうそうないと知っている彼は、軽薄そうな声を最大限申し訳なさそうにして、言葉を続ける。
「まあ、なんだ。ーーまずは、遅くなって悪かった。久しぶりだな、ローズ」
「それと、私のことをバカ呼ばわりした事も訂正してもらおうか」
「もしかしてお前、それずっと根に持ってたの?」
「それらもちろん。だけれど、今回の件の方がより怒りを覚えたよ」
「うへぇ……」
あの手紙の主である『私の古い友人』は、当時と変わらない雰囲気で私との会話を交わしてゆく。




