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あなたの隣に有名人

かたたん、かたたん、とリズム良く路面を叩く車輪の振動。

今まで走ってきた道と比べて大分乗り心地が良い道です。

それもそのはず、ミルム廃坑からミルム村までの間は石畳の完全舗装。

ミルム廃坑がまだ現役の頃に作った道のようで、採掘した鉱石を職人街へ、そして港へ運ぶ産業道路だったとか。

道路の横にはなんと線路も。トロッコみたいにして鉱石を輸送した跡なんだとか。

ちなみに、機関車みたいな物は無くて、魔力で撃ち出すだけという何ともアグレッシブな方式。

もちろん廃れた理由は「途中で脱線する」とか「魔獣とか野生動物にぶつかって止まる」が原因らしい。

終点で止まり切らない。って事故も多かったとか。

作る前に気付けよ!と言いたい。



心地よくリズミカルな振動でうとうとしていると、ミルムの関(村の入り口)が見えてきました。

うん。馬車って寝るのに良いかもしれない。昨日、リュミちゃんがぐっすりだったのが良く分かる。

……今日は御者席で寝てるんだけどね。起きなさい。


「ほーい、ここで止まってねー。……ってお前等か」

流石にここの関の門番さんは出かけてませんでした。

「後ろに乗ってるのは……キーリの商人とスズネさんね。問題ないから進んで良いぞ」

毎度のことながら、このフリーパスはどうかと思うよ……。


「はい、書類はこちらに……って、えぇっ!?確認しなくて良いんですか!?」

うん。そうなるよね。

まぁ、入国審査でがっちりチェックしてるし、ちゃんとノーヴのメンバーが付いているから問題ない。ってことなんだろうけど。

……ましてや、私が乗ってるんだしねぇ。不法入国な訳無いじゃん。って話ですよ。


「そのようで……。国内の通行証は出国の時に回収しますので、それまで無くさないでくださいね」

カルメンさんみたいに最初から公的に護衛を付けて目的地へ行く人なら特に問題は無いし、

冒険者みたいに一人やグループだけでうろちょろする人なら、関ごとの通行確認でどこに行ったか判る仕組みなのです。

行方不明になっても、最後に確認した場所から位置を推測できるしね。

あ、一応……関を通らなくても長距離移動は出来るけど、天竜さんの部隊で定期哨戒してるから職質みたいにして位置確認が出来ちゃいます。


「ノーヴ出張の多い先輩が『護衛を依頼すると楽に進める』とは言ってましたがここまでとは。うちの国なんて、関所で賄賂渡さなければ足止めされる場所も多いのに……」

そこは士気とか民度の差になるのかな。

ノーヴほど緩くするのは問題かもだけど、それにはそれでちゃんと理由は有るしね。

国民全員が何らかの形で国の仕事をしてるし、国民が少ない事から『私の国』って言う意思も強い。それに他国から海と言う形で物理的に断絶されている。

ノーヴは『国』というよりは『村』みたいに生活共同体って言う考えなのかもしれないね。

私的にはMMOなんかの『小規模~中規模程度のギルド』みたいな感じに思える。

知っている人、仲間同士だからこそ、ガチガチに規則で縛らなくても上手く回せる。みたいな。

……でも最低限の規則はあるよ。無法地帯じゃないよ。


「何やら話しこんでるトコ悪いんですが、このままうち……じゃなかった納品先行きますから。カルメンさんはそこで荷物下ろして、依頼完了のサイン下さい」

『うち』って、駄目だよ。このまま帰っちゃ。

「その後、俺達は詰め所行って任務完了手続きと交代手続きします。ほらリュミ、お前が隊長だろうが。起きろ」


「にゃ~?」

つ、詰め所に着くまでに起きてくれると良いな……。



関を抜けて、村の中に入るとあちらこちらから鎚の音が聞こえてきます。

流石、職人の街って言うだけあるね。

軒先に下がっている屋号には『鍛冶師』とか『彫金師』、『刀剣工』等、金属を扱う名前が色々と。

それぞれ、どこの工房の所属なのかって言うのも書いてるんだね。見てると一番多いのは『ゲール工房』みたい。

……そう言えば、カルメンさんの納品先って聞いてたっけ?

「そう言えばカルメンさん、今回の依頼はどこの工房に荷物を……」


「着きました、ゲール工房です。荷物は徒弟に下ろさせるんで、まずは中に入りましょう」

あぁ、そっか。国外から、しかも重要な品の依頼なんだから一番技術力の有る所なんだよね。

ここで言えば元締の工房になるんですよね。


「ありがとうございます。ここがあの有名なゲール工房ですか……緊張しますね」

ぴょこんと馬車を飛び降り、ヴィル君に着いていくカルメンさん。

ん~……私も行った方が良いのかな?待ってて良いのかな?

「スズネさんもどうぞ。リュミは……苦茶でも飲ませて眼を覚まさせましょう」

あ、はい。では着いていきます。

ちなみに苦茶って、コーヒーみたいな御茶?です。

じっくり煮出すと凄く苦くなる(エスプレッソコーヒーみたいな)ので、眼を覚ましたい時には最適。



「いらっしゃ……親方じゃないっすか、おかえりなさいませ。お~い、親方がお勤め終わって帰られたぞ~」

お勤めって……。

しかも『親方』って?


<<説明が遅れました。俺はゲール工房の取りまとめをしてます。不肖ながらゲールの名を継ぐ者として働いてます>>

にゃんと!

<<カルメンさんの依頼、工房筋で連絡は受けてましてね。俺の任期明けに納品合わせてもらったんですよ>>

先に言え―!

と、言うか……ヴィル君が持ってくれば良かったじゃないかーっ!


<<う~ん……職人さんかとは思ってたけど、工房の親方さんだったのね。だから色々詳しかったのか>>

ホント、この国って色んな人が部隊に居るねぇ。

と、言うか色んな人が国のお仕事してる……って言う方が正しいのか。


<<あぁ、道中行ってたようなアイデアはあまり口外しないように。俺の目の届く所なら話を止めれますが、他国に流れると色々ヤバい位の異世界技術ですから>>

あ、はい。重々承知しております。


「とりあえず、前に馬車停めてるから。キールの案件だから直接加工場へ持って行かせて。あと、リュミが寝てるから運んできて苦茶でも飲ませといて」

ヴィル君の指示で忙しく動き出す工房内。


「おい、手が空いてる見習い手伝え」

「歌姫リュミエルたんキターーーー」

「2番炉に火を入れとけ!」

「寝てる姿も可愛い!まじ天使!」

「剣なんて後回しでいいから製作所開けろ!」

「手ぇ出したら親方にブッ飛ばされんぞ!」

「親方と客人に御茶出せって」

「いや、俺が溶鉱炉放り込むわ」

「俺も俺も!」

「それも御褒美……あ、嘘ッス。やめ、アーッ」

……なんか変な連中が混じってる気がする。


「辺りが五月蠅くて申し訳ないです。カルメンさん、ゲール工房で確かに品物をお受け取りしました」

納品書にサラサラと受領のサインを書きこむヴィル君。

「完成まで滞在なさるのですよね?こちらで宿を手配しましょうか?」


「あ、いえ。商会の出張所へ泊まりますので。……ヴィルゲール親方様でしたか」

うん。カルメンさん、フリーズする気持ちもわかるよ。

この世界のお店とか知らない私でもびっくりだもんね。

「た、大変申し訳ないのですが、握手して頂いてもっ!あ、後サインもっ!」

……そこまでなのか。

ヴィル君って実は、私の世界で言う所のジョブズさんみたいな人なのかな?


「私なんて名前が独り歩きしてるだけの職人ですよ。工房の皆が頑張ってくれたおかげです」

おぉー。かっこいい!

ヴィル君が輝いて見えるっ!メカヲタクってだけじゃないんだねっ!

……こんな事口走ったら工房の皆に怒られるよね。

ヴィル君の名前、ヴィルゲールはそんな由来が。

リュミちゃんも酒場の歌姫……と言うか、看板娘です。

この二人、単なる幼馴染です。恋人とかではありません。

むしろ、ヴィル君から見て「手の掛かる妹」的な感覚。

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