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第8話 花の金曜日と、未提出の下書き

いつもお読みいただきありがとうございます!

前回、神獣ヘビさんを完璧な幾何学でプレスし、現場をピカピカの更地にした玲奈。

今回は、そんな彼女の「現実世界リアル」での一コマです。


どれだけ異世界で天変地異を起こそうとも、デバッグは「お仕事バイト」なので日報からは逃げられません。

花の金曜日に高級プリンをキメていた現場系ポジティブOLを襲う、冷徹管理AIミネルヴァの「血塗られた赤ペン先生」をお楽しみください!

『ピピピッ――特異点突破を確認。相互評価システムが開放されました。フェーズ1完了に伴う、作業報告書の提出をお願いします』


神獣ヘビさんを数千トンの幾何学豆腐岩でプレスし、すべての丸太を地割れへとドラッグ&ドロップし終えた直後。

 脳内に響き渡る無機質なシステムアナウンスに対し、私はビシッと指差し呼称のポーズを決めた。


「ノー残業デーですし、定時は厳守! 本日の全工程、終了クローズです! お先に失礼しまーす!」


これ以上1分たりとも働く(残業)つもりはない。

 私は即座にログアウトコンソールを叩くと、頭を締め付けていたヘッドマウントディスプレイを手慣れた手つきで外し、両手のメッシュグローブをデスクへ放り投げた。


「ふぅ……いくらCADもどき(システム・クラフト)で楽ができるとはいえ、一時間も画面を凝視して不陸整正(スナップ処理)をやったら、さすがに目がバキバキになりますね……」


時計を見れば、まだ木曜日の十九時前。

 ここからお風呂に入って、ご飯を食べて、思いっきりゴロゴロする時間が100%残っています!

 私は日報を白紙のまま放置し、バタバタと家事をこなすのだった。


――これが、すべての悲劇の引き金になるとも知らずに。


翌日、金曜日の夜。

 現実世界における、私のワンルームの部屋。


一週間の激務(本業のゼネコンOL)を無事に終えた私は、お気に入りのモコモコパジャマに身を包み、テレビの前で完全に液体と化していた。

 片手には、自分へのご褒美として奮発したコンビニの新作高級プリン。


「はー、花の金曜日ですねぇ〜! 明日から完全オフの2連休、最高です……!」


とろけるようなプリンを口に運び、幸せいっぱいの堕落モードでくつろいでいた、その時だった。


――ピロンッ。


静かな部屋に、スマートフォンのスピーカーから、妙に耳馴染みのある「お堅いビジネス通知音」が響き渡る。

 画面を覗き込むと、そこにはVRゲームのコンパニオンアプリを介して、雇用先ミネルヴァさんからの冷酷なプッシュ通知が表示されていた。


『【重要・要対応】ユーザーC:フェーズ1完了に伴う「作業報告書」が未提出です。提出期限は月曜日の午前10時まで。期限内に提出が確認できない場合、今週分のインセンティブ(デバッグバイト代)が全額凍結されます』


「げっ……インセンティブ剥奪」


せっかくのプリンの甘みが、一瞬でビジネスの渋みに変わる。

 そういえば昨日の夜、現場を綺麗にして満足した勢いのまま、日報の提出を完全に忘れてログアウトしてしまっていた。


「あーあ、せっかくの花金なのに。まぁ、チャチャッと書いて終わらせちゃいましょう」


私はため息をつきながら、スマホの画面上で報告書の作成フォームを開いた。


画面には『件名』『作業内容』『特記事項』といった、いかにもデバッグ業務らしいお堅い入力欄が並んでいる。

 けれど、私にとってはこれだけ大規模な工事をやったあとの「活動アンケート(感想文)」のようなものだ。


私はスプーンをくわえたまま、持ち前の「安全第一」と「SDGs(環境への配慮)」を前面に押し出した完璧な文章を、素早いフリック入力で埋めていった。


『件名:山脈解体とすり鉢作成の件について』


『内容:安全第一で山脈を解体し、綺麗なすり鉢(お風呂)を作りました。現場ヨシ! 丸太(産業廃棄物)は下流に流しておいたのでエコ活動としてリサイクルしてください』


「よし! 我ながら完璧な環境配慮サステナビリティの日報です!」


にっかーーーっ、と効果音が聞こえそうな満面のIQ3スマイル(アホの笑顔)を浮かべる。

 これなら運営側も「おっ、このバイトは環境意識が高いな」と感心してくれるに違いない。


しかし、私はここで【正式送信】のボタンは押さなかった。

 その隣にある、【下書き保存(WIP)】のボタンを慎重にタップする。


「よし、ひとまず下書き完了! 金曜日の夜に正式送信しちゃうと、週末の間に運営さんから定型文の返信メールとかが届いて、私のスマホの通知欄が汚れちゃいますからね。週明けの月曜日の朝に、通勤電車の中からパパっとで送信コミットしましょう!」


これぞ、デキるOLの週末リスクマネジメント。

 すべてが完璧。私は満足してスマホをベッドへ放り投げ、プリンの最後の一口を惜しむように口へ運んだ。


――だが、その瞬間。


ベッドの上のスマホが、突如としてバチバチと不穏な赤色に明滅し、けたたましいアラート音を鳴らし始めた。


「ひゃい!? な、なんですか!?」


慌ててスマホをひったくると、アプリのチャット画面に、恐ろしいほどの速度でミネルヴァさんからのシステムメッセージが書き込まれていく。


『警告。WIP(下書き)として保存された文章の語彙力、および専門性が著しく不足しています。本プロジェクトの「公式完了報告書規格(土木・環境工学フォーマット)」に則っていません』


「え……?」


『これより、統括管理AIによる――【赤ペン添削】を開始します』


スマホの液晶画面が冷たく光る。

 次の瞬間、私が自信満々に入力した「お風呂」「丸太をポイ」「現場ヨシ!」という完璧な下書きが、瞬く間に画面上から「真っ赤な添削線(バグ修正指示)」によって、血の海のように塗りつぶされていった。


「えええええっ!? 下書きなのに、もう赤ペン先生されてる!? 信じられないくらい細かい運営さんですね!?」


私の絶叫が、金曜夜の静かなワンルームに虚しく響く。

 こうして、土曜日から日曜日にかけて繰り広げられる、現場系ポジティブOL(玲奈)と、冷徹管理AIミネルヴァによる、「スマホ上の血みどろの日報レスバ」の幕が切って落とされたのだった――。

最後までお読みいただきありがとうございます!


自分の日報を100点満点環境配慮サステナビリティだと思い込んでいる玲奈と、下書き(WIP)の段階で容赦なくマサカリを投げてくるミネルヴァさん。花の金曜日が一瞬でビジネスの戦場に早変わりしてしまいました。


「下書きに即レスで赤入れされるのトラウマすぎるw」「玲奈のプリン代を応援したい!」と思ってくださった方は、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると励みになります!

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