第7話:神の裁き(ギロチン)と、賢者の戦慄
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今回は、玲奈による「ボスの安全なお片付け」と「環境に配慮したSDGs(不法投棄)」のお話です。
現場監督なら誰もが知る「KY(危険予知)活動」を異世界で真面目にやった結果、なぜか神獣が完璧な幾何学によって圧殺されることになります。
システムエラーが織りなす、恐怖のピタゴラスイッチをお楽しみください!
「はーい、排水工事完了です! 工期内の無事故完工ですね!」
私はプレハブ(岩陰)からトコトコと歩み出て、隣の超巨大クレーター(山脈跡地)の底を覗き込んだ。
山頂の湖を満たしていた何千万トンという熱湯は、すべてこちらに移動したわけだが……元々の山脈の敷地面積が規格外に広大すぎたため、水はクレーターの底一面に薄く広がり、ただの「ポツポツとした温水の水たまり」になって干上がってしまっていた。
その水たまりの真ん中には、さっき私が放流した『安全第一・岩石牛(※総重量3トン)』が、頭から地面にブスリと突き刺さったまま、しっぽの誘導灯をチカチカと点滅させている。
その横では、湖の主であるエリアボス(ヘビさん)が「きゅ、きゅぅ……」と流された衝撃と深刻な水不足により、完全に心を折られてピチピチと無力に跳ねていた。
「うーん、あのヘビさん、まだ生きてますね。あんな危険な残留オブジェクトを現場に放置したまま引き渡したら、後で絶対に発注者からクレーム(労災報告)が来ます」
私はヘルメットの顎紐を締め直すイメージで、キリッと表情を引き締めた。
「本日の仕上げ作業に入る前に、まずは『KY(危険予知)活動』を行います! 現場の安全確認、指差し呼称! ……残留危険物、1名(頭)。無力化状態につき、即時撤去ヨシ!」
『ちょっと待ってくださいユーザーC! それ、ただの労働災害の隠蔽――というか、動けなくなった被害者を口封じで処分するタイプのサイコパスのムーブです!』
脳内でミネルヴァさんがすごい勢いで騒いでいるが、現場の安全を預かる身としては、この程度の指摘で手を止めるわけにはいかない。
「何を言っているんですかミネルヴァさん。5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)は、すべての基本ですよ。片付けができない人間は現場に立つ資格はありません。……おや? あそこの崖、一部がせり出していて落石の危険がありますね」
ボスの真上にあたるクレーターの壁面を見上げると、岩盤の一部がボコッと不自然に突き出していた。
「不安全行動および不安全状態の排除! あそこも削ってフラットに不陸整正しましょう。……あ、そうだ。あそこの崖を切り落として、下のヘビさんの上に落とせば一石二鳥じゃないですか? 重力エネルギーを有効活用した、ノーコストのプレス処理です」
『一石二鳥の意味が不穏すぎる!! 神獣をオーバーハングの落石(※意図的)で圧殺する現場監督がどこにいますか!?』
「ここにいます。それでは、施工手順に入ります。ミネルヴァさん、空間操作モジュールの出力を最大に固定してください」
私は空中を人差し指でツンと叩き、システムUIの『3D CAD・空間モデリング画面』を呼び出した。
視界いっぱいに、建築のプロが使うような複雑な座標軸(X・Y・Z)と、無数の数値パラメータが展開される。
「まずは、範囲選択ツールの起動。ドラッグ&ドロップで、対象の岩盤をバウンディングボックスで囲みます。サイズは……そうですね、縦10メートル、横10メートル、奥行き50メートル。これくらいがキリが良くてスッキリします」
私が空間を指先で四角く囲むと、せり出した崖の岩盤を包み込むように、光り輝く『超精密な3次元グリッド線』がスパーンと走り、空間そのものを完全にロックオンした。
「次に、スナップ機能を使用。周囲の地形ポリゴンとズレが生じないよう、既存の断層面にミリ単位でピタッと吸着させます。よし、完璧なホールドです。……最後に、アドオン機能の『オブジェクト・スライス』を実行します」
『ユーザーC、警告です! その指定範囲の岩盤、体積に対して想定される質量が『数千トン』に達しています! 魔法の術式を経由せずに、純粋な空間切断と物理演算の自由落下だけでこれを処理しようとすると、サーバーの物理エンジンマトリクスが悲鳴をあげます! CPUのサーマルスロットリングが発生して、また世界がフリーズします!!』
「さっき運営さんの都合でラグが発生したばかりなんですから、サーバーの補強くらいちゃんとしておいてほしいものですね。それじゃあ――危険物プレス処理、開始!」
ミネルヴァさんの警告(仕様上のバグ懸念)をワンクリックでスキップし、私は指先をスッと下へ振り下ろした。
魔法陣も詠唱も、何もない。ただの管理者のコマンド入力。
――ズバァァァンッ!!!
ただ無機質な空間切断音と共に、数千トンの崖の岩盤が、まるでレーザーで切った豆腐のように「完全な直方体」として空間から切り離された。
外側の破片を1ミリも散らさない精密な質量計算と自由落下の物理法則に従い、人工物じみた超巨大な『豆腐型の岩柱』が、ギロチンの如き速度でボスの真上へと垂直落下していく。
(時速200キロの牛の次は、これかよ……)
水たまりの金魚状態だったヘビさんが上空を見上げて、そんな絶望の顔をした瞬間。
――ドゴォォォォォォンッッッ!!!!
完璧な一点集中プレスの衝撃がクレーターに轟いた。
ボスは悲鳴を上げる間もなく跡形もなく圧殺され、金色の経験値の光となって霧散する。
跡に残ったのは、クレーターの底を完全に平らに踏み固めた、美しい直方体の岩盤だけだった。
「ふぅ……綺麗な整地ができましたね」
私はどこか誇らしげに周囲を見渡した。
そこには、これまでの山脈崩壊と地盤整備で発生した「大量の倒木・丸太(産業廃棄物)」が散乱していた。
「うーん、これだけ大量の丸太を放置したまま現場を引き渡したら、整理整頓(5S活動)違反です。不安全極まりないですね。……そうだ! この丸太たち、全部まとめて現場の外(見えないところ)にポイッと移動させちゃいましょう! 後で誰かがリサイクル資材(お下がり)として使ってくれれば、環境にも優しくてSDGsです!」
私はCAD魔法の範囲選択ツールで周囲の数千本の丸太を一括選択すると、クレーターの外れにパカッと開いていた深い地割れ(地下への空洞)に向けて、そのままドラッグ&ドロップで不法投棄した。
大量の丸太(木材)が、空間をスライドするようにスーッと不自然な軌道で移動し、奈落の底へとガラガラと音を立てて落ちていく。
これがのちのち、物理エンジンのラグによって奇跡の自己アセンブル(自動マージ)を引き起こすことになるとは、この時の私は知る由もなかった。
「ひ、ひぃぃぃっ……!!」
実は近くの岩陰で、一連の天変地異をガタガタ震えながら見ていた男がいた。
NPCの最高峰魔術師、賢者ゴルギアスである。
(な、何という計算……! あのお方は、最初の山脈崩壊で大地を揺らし、湖の水を落とした衝撃を利用して、この広大なクレーターの底に水を薄く広げ、神獣の機動力を完全に奪うことまで計算していたというのか……!)
ゴルギアスは恐怖に顔を引きつらせた。
(魔力も収束させず、ただ指を振っただけで大地の位置エネルギーを完全に掌握し、完璧な幾何学の岩柱で神獣を必中圧殺した……! それのみならず、周囲の森林資材を一瞬で伐採・整地し、下流へ転送しただと……!? これぞ失われた神代の殲滅魔術! ああ、あのお方こそ、神の領域に立つ『破壊の戦乙女』様だ……!!)
ゴルギアスは、満面の笑顔で丸太を流している玲奈の姿に、本物の魔王を見るかのように畏怖し――そのまま白目を剥いて失神した。
「ドレスも汚れてないし、危険物もゼロ。よし、完工検査、合格です!」
私が現場監督としてビシッとポーズを決めた瞬間、脳内にシステムの大音量アナウンスが響き渡った。
『ピピピッ――【フェーズ1:高地湖水排水および拠点広域造成工事】の検収を完了しました。規定の平坦度および排水勾配要件をクリア。メインタスク、達成です。おめでとうございます!』
「おー、パチパチパチ! やりました! 予定の工期通りの無事故完工ですね!」
『無事故というか、施工エリア内に居座っていた超巨大障害物(神獣)を、数千トンの豆腐岩でプレスして『埋め立て資材』の一部にしたおかげですが……。ともあれ、これでこの土地の『不安全状態』は完全に解消され、地盤の安定性が確保されました』
脳内でミネルヴァさんが、ハァと深い吐息のSE(効果音)を漏らす。
「ふふん、これぞ現場の知恵(地盤沈下対策)ですよ。あ、そうだミネルヴァさん。これだけ大規模な造成工事を完了したんですから、何かこう、現場の副産物というか、有価物は出てないんですか? 掘削現場から珍しい鉱物とかが出てくると、ちょっと得した気分になりますよね」
私は目を輝かせながら、完璧な幾何学豆腐岩の周りをトコトコと歩き回って、地面を覗き込み始めた。
『副産物ですか? ええと、システムログを確認します。……あ、障害物が完全に圧縮・超高密度化したことで、一つだけ特殊なレアオブジェクトがドロップしていますね。固有ドロップ【水神の心臓】です』
私が豆腐岩の根元を覗き込むと、そこにはボスの巨体が圧縮された結果として生まれた、怪しく青く光る「金属製の頑丈なシリンダー」のような塊がぽつんと落ちていた。
「うーん……? なんですかこれ。ものすごい圧力を生み出しそうな、高圧ポンプの心臓部みたいに見えますけど……。今すぐ何かの工事に使える形じゃないですね」
『世界の水流を圧縮して噴出していた神獣の機関ですからね。魔力を通せば凄まじい出力を発揮するはずですが、現段階のシステムクラフトのレシピには、これを組み込める設備が存在しません。ただの用途不明な超レア素材です』
「なるほど、使い道は保留ですか。まぁ、滅多に手に入らない有価物みたいですし、そのうち何か良い使い道を思いついたら引っ張り出しましょう。ひとまず、現場の資材置き場の奥にでも放り込んでおきますね」
私は正体不明の青いシリンダー塊をインベントリ(道具箱)にポイッと放り込み、腰に手を当てて満足げに頷いた。
「よし、周囲の地形のレベリングも終わり、排水勾配もバッチリです!」
広大なクレーターの底に、不自然なほど完璧な直方体の岩が鎮座し、完全に水平に整地された奇妙な景色。けれど、私にとってはこれ以上ないほど「安全第一」に整備された美しい更地だ。
「剣を振るゲームかと思ったら、意外とCADと重機(魔法)だけでなんとかなるものですね。これなら運動音痴の私でも、怪我をせずに工期を守れそうです!」
にっかーーーっ、と効果音が聞こえそうな満面のIQ3スマイルを浮かべ、私は青空に向かってビシッと指を差した。
「本日の全工程、これにて終了! 現場ヨシッッ!!」
私の元気な声が、綺麗にレベリングされたクレーターに、爽やかに響き渡るのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
無力化したボスにすら「指差し確認」を徹底し、数千トンの豆腐岩でプレスする玲奈の圧倒的な「現場主義」。そして見事なレベリングとエコ活動(不法投棄)。
謎のレアアイテム【水神の心臓】もゲットし、現場は完璧な更地となりました!
次回、第8話ではいよいよ「業務完了アンケート(クソチケット)」の提出、そしてそのチケットを時間差で受け取ることになる未来の管理者・結衣(ユーザーA)の月曜日の朝が幕を開けます!
3つの時間が交差する非同期マルチスレッドの悲劇をお楽しみに!
「現場の安全(ボスの命はない)」「この現場監督アホすぎるw」「次回の結衣ちゃんが不憫……」と思ってくださった方は、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけますと幸いです! 結衣の胃薬の足しになります!




