20話 手紙の行方
雪緒は14歳の中学2年生。正直、背は高くない。本人もそれを気にしているのか、踵のたっかいサンダルを履いている。その踵で俺の足、踏まないでね。清隆に踏まれるより効きそうだから。痛そうだから。絶対痛いから。まだ踏まれてないけど、それくらいわかるって。
本能っていうの?
なんかさ、見るだけで危険を感じるんだよ。多分同じ男ならわかると思う。ついでにいえば、この雪緒からも俺は危険を感じる。身の危険をヒシヒシと感じるんだよ。ジュースなんてどうでもいいから、家、帰りてぇ。
ダッシュで帰ってやろうかな?
そのサンダルなら絶対走れないだろうし。ってか俺、そんなに足に自信ないけど、中学生の女の子には負ける気がしないし。負けたら恥ずかしいし。
負けたくないし……
「弟さんと似てるから、間違えちゃった」
恥ずかしそうに笑ってるけどね雪緒ちゃん、俺と清隆は似てません。そりゃ顔はちょっと似てるかもしれないけど、性格とかね、全然似てないの。俺はあいつみたいに凶暴じゃないし、破壊的でもないし、きっつくもないの。
一緒にされたくねぇよ
「あの、このあいだあたしと会ったの、お兄さんのほうですよね?」
確かに雪緒ちゃんが、うちのポストにわけのわからん手紙を届けに来た時、うちの前で会ったのは俺です。
だから何?
つまりさ、この時になってようやく手紙のことを思い出したわけ。清隆が訊いてきた手紙が、この子がうちのポストに入れてった手紙のことだってことも、この時になってようやくわかったってわけだ。
別に嘘ついたわけじゃないから。正真正銘、綺麗さっぱり忘れてただけだから。なんてここで清隆に言い訳したって仕方がないよな。いないんだから。いや、もちろん家に帰っても謝るつもりはないけどさ。
バックレ決定!!
清隆にはバックレ決定でいいんだけど、雪緒ちゃんにはどうすりゃいいわけ? やっぱここは正直に言っとく? それともやっぱバックレる?
どうする、俺?
だってさ、返すにしても俺、あの手紙丸めちゃったよ。親父への怒りを込めて、思いっきり丸めちゃって、もうシワシワのくちゃくちゃ。どう考えたってあの手紙、返すわけにはいかないでしょ。やっぱバックレか。
「ほんと、よく似てますよね。
弟さんのほうがちょっと背が高いんですか?」
「いや、俺のほうが高いけど……」
まぁ2㎝なんて見た目じゃわからないよな。でもいつも 「同じくらい」 じゃなくて 「ちょっと弟さんのほうが高い」 って訊かれるんだよな。やっぱあいつのほうが体格がいいからか? 厳ついっていうの?
この子さ、今話してる感じだと、別に清隆のこと怖がってる感じじゃないし。朝もそうだったけど、夕方も揉めてる感じだったのに、あいつのこと怖くないんだ。さすがに血は争えないっていうか。
だってほら、雪緒の父親が親父なら、俺たちは異母兄弟ってことになるわけで、俺とも清隆とも血はつながってるってわけだ。
……なんか清隆が知ったら仏壇ぶっ壊して、墓石蹴倒しそうだな。あいつならやりそうだ。ってか絶対やる。んで、母さんに怒られるわけだ。もちろん俺も一緒に。
勘弁して……
「お兄さんのほうが細いから、弟さんのほうが大きく見えるんですか」
「そうなのかな? 考えたことないけど」
そもそも人の目にどう映ってるかなんて、気にはしても考えたことはない。
「あの時の手紙、もうお父さんに渡しちゃいました?
弟さんはそんな手紙知らないって言ってるんですけど、あの中見見てお父さんには渡さなかったとか?
だったら返して欲しいんです」
それで清隆が手紙を探してたわけだ。納得、納得。だからって玄関で待ち伏せするなよ。学校で追っかけ回すなよ。
あのアホ
清隆が手紙を探してた理由とか、あいつが俺をトイレに閉じ込めて詰問した理由なんかはこれでわかった。あいつ自身が何か勘づいたわけじゃなくて、俺はホッとしたんだけど、これはこれで手放しで喜べる状況じゃないんだよなぁ。
本人が返せって言ってきただけならまだしも、俺、あの手紙丸めちゃったし。あんな手紙返せるわけないだろ。一目見ただけで、俺があの手紙をどうしたかわかっちゃうじゃん。そりゃさ、あんなことになってなけりゃ素直に返して上げてもいいんだけど、あれじゃねぇ……。
「あのさ、こんなこと訊くのもなんだけど、えっと、雪緒ちゃんだっけ?
君のお父さんって、本当にうちの親父?」
どうやら同じこと、あるいは似たようなことを清隆にも訊かれたらしい雪緒は、本当に口をタコみたいに尖らせやがる。悪いけど、そんな顔するとぶっ細工なんだけど。いや、元は悪くないから普通にしてたほうがいいってことで、決してブスっていってるわけじゃないから、そこんとこ勘違いしないでよね。
「お父さんの名前は穂川周平です。
間違いありません」
ありゃ……隠し子決定だよ。今決定的瞬間を迎えましたよ、親父。この始末、どうつけるんだよ、お@い。
ちょっと墓から出てこいや!
つづく……というわけで紹介します、妹の雪緒です!
じゃねぇよ、あのクソ親父。結局どういうわけ? 9年前に死んでる親父には、雪緒の父親になることは出来ても、数日前に雪緒の母親は殺せない。
この物語はフィクションだけど、この先どうなるわけ? 俺はどうしたらいいわけ?




