烙印
赤いネックレスは、すぐにでも俺の首に嵌められることになっていた。
ホームルームのあと、俺は事業連絡室に呼び出された。実質的には、手続き部屋だ。
一路先生は椅子をくるりと回して腰を下ろした。慌てるでも、悪びれるでもなく。きりっとした服装で、注意は研ぎ澄まされている。「退屈そうな教師」の顔とはほど遠く、まさに「やべ、学校始まった、ちゃんとしなきゃ、ビールは控えなきゃ」という顔だった。
「先生」俺は思ったことを口にした。「なぜホームルームのあいだにやらなかったんです? 先生は俺の担任でしょう。学園は、わざわざ校内放送で俺を名指しし続ける必要があるんですか?」
「あるに決まってる」情けをかけるような口ぶりで、一路先生はコーヒーをカウンターに置いた。「篠原琳太郎。ステータス:レッド。この責任は、きっちり引き受けてもらう」
引き出しから出てきた小箱には、細い赤い鎖が収まっていた。
「とはいえ、お前がこれを受け取る側になるとは思わなかったよ。ああ。その顔は普通だ」
「普通?」
「学園は、これがやる気を引き出すものだってふりをするのが好きでね」ペン先で赤い印をすくい上げ、汚染物か何かのように掲げてみせる。「このシステムを作ったのは私じゃない。でも、こいつに狙われた生徒が殺されないようにするのが、私の仕事だ。お前はどう思う?」
「今は、好きとは言えません。でも、学園のスリリングな一面だということは認めます」
「いいね。こいつを好きすぎるようなら、そっちのほうが心配だ。学園は負け犬を欲しがらない。私がお前を勝者に戻せれば、みんなでお祝いだ。私にもたっぷりボーナスが出る! 歩合ってのはそういうもんだ。だから、この印よりも私を信じな。校内ではこれを常に身につけること。それと、週に一度、私との補習面談に出てもらう。家業の数字は予定どおり提出すること。ゴールデンウィークまでに、お前の事業は学園の回復基準を満たさなきゃならない」
「基準」とは何かを、俺は尋ねなかった。それがぎりぎり最低限の利益であることは、もう知っていた。酷使された手も、疲れた目も気にかけない数字だ。
「覚えておけ。今年は、たとえ売上を安定させても、色の格上げを申請することはできない。この学園の歴史上、赤の烙印を押された生徒で完全に回復した者は一人もいない。つまりここは、それが不可能だとお前に信じ込ませたいわけだ。だからこそ、これを道徳的な失敗みたいに扱うのはやめて、取り組むべき課題として扱いはじめなきゃならない。つけな」
鎖という最後の仕上げを加えられて、俺、篠原琳太郎は、まさに食われようとしていた。MidnightChefとしての秘密の顔は残っている。どうせ食われるのなら、せめてどの部分を食わせないかくらいは、自分で選びたかった。
廊下では、同級生たちが俺を避けて動いた。海が割れるように、道が開いていく。礼儀正しく振る舞う顔はわずかだった。同情の目、慎重な距離。ほとんどすべての顔は、嬉々として振る舞った。自分じゃなくてよかったという安堵のきらめきと、クズを見るような目つき。
何年もかけて、俺は透明になる方法を学んできた。それが今、最悪のやり方で可視化されようとしていた。
俺は三年C組に入った。
ざわめきが弱まった。
結衣は二列向こうに座っていた。いつものように完璧な姿勢で、ノートの上にそっと手を置き、長い髪は控えめなリボンで結ばれている。落ち着いて毅然としていたが、その手は固く組まれていた。俺に手を伸ばしてしまわないための、ささやかな抵抗だろう。
中休みが始まるとすぐ、結衣が廊下で俺に追いついた。
何を考えているんだ?
「見られてるぞ」
「わかってる。でも今は、琳太郎くんのほうが大事。いつもより静かだよね。ネックレスのせい? それとも……」
そうだよ、結衣。首輪はきつく首に食い込んでいる。そして、君のせいでもあるんだ。君は話の半分も知らない。
「ネックレスのせいだ。それと……家業のこと。もっと早く話すべきだった。いずれにせよ、しばらくは距離を置いたほうがいい」
「なんで? 今日は、ずっと夢見てた日なのに。全部話してくれなくてもいい。でも、突き放さないで。こんなことで」
「わかっていない」俺は軽く鎖を引いた。「烙印持ち、特に赤は、ここでは長く持たない。そして、近くに立ちすぎる人間は誰でも――」
「わざと近くにいるの。同じクラスで過ごす、初めての日なんだよ。約束したじゃない。こーんなに小さかった頃に。覚えてる?」
「でも、今は違う。立花虎会長のことだ。ホームルームで見ただろう? あいつのグループはもう動いている。烙印持ちと関わる人間は、誰でも標的にするんだ」
「で、私がそれを怖がると思うの? 琳太郎くんの隣に立つのがどういうことか、わかってる。ここを選ぶに決まってるでしょ」
「距離を置いてくれ。そうでないと、俺は自分を守りきれないかもしれない。琴音さんはそれをわかっている。ほら、メッセージを送ってきているだろう。今朝みたいな派手な登場は、もうしないつもりだろう。この学園のことをわかっているからな。メッセージをくれ、結衣さん。あとで話せるって約束する」
学園には多くの規則があり、そのひとつが、入学時に生徒は代表事業を申告するというものだった。その選択に応じて、生徒は選択分野に分類される。たとえば、ホスピタリティ(ホテル、レストラン)、Eコマース・小売(オンラインマーケット、百貨店)、ヘルスケア(病院、製薬会社)、情報技術(ソフトウェア開発、ITコンサルティング)、金融・保険(銀行、投資会社)、製造業など。
俺の場合は、代表事業:シノハラ・ショコラ、分野:ホスピタリティで登録した。
分野ごとに、生徒一人ひとりを純粋な売上で順位づけする、階層化されたシステムがまるごと存在していた。
学校の外と同じように、自分の分野でほかの生徒を打ち負かせば、学園はその生徒の代表事業に賞金を授与した。
そして何よりも胸躍ることに、自分の分野で誰かを上回り、その生徒が転校を余儀なくされるまで追い込めば、全校生徒に賞金が与えられた。正確には、生徒一人ひとりの事業に、三百万円の現金が。
つまり、烙印持ちを助ける理由はゼロだということだ。誰かが俺を助ければ、それは事実上、俺をランキングにとどめておく命綱を手渡すことになり、同時に全校生徒から報酬を奪うことになる。
烙印持ちの生徒が仲間の助けを金で買ったとしても、その金はたいてい回復ノルマから出ていくことになる。そもそも烙印から逃れるために稼がなければならない、まさにその数字から。生き残れるかどうかが粗利を上げられるかにかかっているときに、なぜ自分の財布から三百万円も削らなければならない?
事業融資はこれを回避する理想的な解決策だったが、とんでもなく過酷な金利がつくはずだった。世間の目がすべて俺に注がれている今はなおさらだ。報道各社は烙印持ちの生徒を指さして叫んでいた。「きゃあ! あの子! あの子の家、潰れかけてるって!」その結果、悲しいことに破産に至ることが多かった。
誰もが、あの十五億円近い全体報酬を手に入れたがっていた。
虎のグループは、戦略の一環として俺を狩り立て、痛めつけにくるに違いない。
結衣を争いに巻き込む理由はない。
だから俺は結衣を突き放した。それを、自分自身から逃げるための都合のいい言い訳にして。




