結衣とのコラボ
「人の野心のなさを批判するくせに、誰かが目標を追いかけはじめても支えようとしない人たちに、そもそも批判する資格なんてないの」結衣は、率直な本音を愛らしい表情でぽろりとこぼしながら、たしなめた。「そういう人たちは、野心がないと決めつけた相手に『もっと努力しろ』って説教するのが大好き。なのに、貧乏な女の子が本当に自分の帝国を築きはじめた途端、インフルエンサーの九十九パーセントは自分の名声に夢中で、手を貸そうともしない。私は残りの一パーセントになりたいんだ。だって何年も前、その珍しくて優しい一パーセントの中に、最初に私を支えてくれた男の子がいたから。一パーセントが二人……これ以上ないくらい珍しいよね。ね、琳太郎?」
「ああ……」昨日うっかり口にしたせいで、昨夜の俺はベッドの上で叫びながら布団と格闘していたというのに、結衣が平然と恥ずかしいことを言い続けるのが信じられなかった。
まあ、後悔しているわけではない。ずいぶん気が楽になった。
相手が結衣だから……そこまで恥ずかしくはなかった。
MidnightChefとしてショート動画を作るとき、俺は声の抑揚を変えていた。地声が人並み以上に低いからだ。際どい格好の女性たちが踊る動画が何より人気のプラットフォームだ。そんな中で、俺のアカウントは女性フォロワーの比率がかなり高く、なかなか珍しい状態になっていた。
何度も撮り直して、ようやく言うべきことが決まる。いずれは撮り直しの回数を減らすつもりだったし、結衣のように、一発で大勢の視聴者に向けて撮れるクリエイターには心底感服していた。撮り直しに頼るのは主にアフレコのときだ。複数の言語を話せるので、言語ごとに録り直せば、より多くの人に届く。
サムネイルを編集していると、琴音からメッセージが来た。リポストしてもいいけど、それは動画が自力でバズった場合だけ、しかもバズったあとでなら、ということだった。まだ俺たち三人にあまりトラフィックを集めたくないらしい。
俺は結衣にそのメッセージを見せた。
結衣はそれを読み、上へスクロールして――
「おい」俺は焦って声を上げた。
「そっか。私がいないあいだも、琳太郎はずっと同じように人の面倒を見てたんだね」嫉妬の色はなかった。むしろ誇らしげで、親密だった。俺が忘れようとしてきたあらゆる俺を、ひとつずつ思い出しているみたいに。
結衣の動画が公開された瞬間、人々は視聴し、シェアした。最近うちの店に世間の目が集まっていたことがアルゴリズムを大きく後押しし、それに結衣の視聴者はいつだって、本物で甘いものに飢えていた。その誠実さとレンズに支えられて、シノハラ・ショコラは再び本物になった。
数字が大きく伸びると、俺たちは約束どおりコラボを実行した。
もちろん、ネットがどれほど何もかもを面白おかしく誇張したかは、詳しく説明するまでもないだろう。コメント欄は大荒れだった。
「気のせい? この子、彼の隣だとガチで光ってない?」
「『シェフ』の言い方が、もう旦那さん呼んでるみたいなんだけど?」
「手!! 手!! 生地のこね方!!」
「この二人推す。異論は認めない」
琴音からメッセージが来た。「人前でくっつきすぎないでよ。ストーリーが台無しになる」それは脅しというより、念押しだった。俺たち三人は、まだ固い結束で結ばれた一団だと見られるわけにはいかなかった。学園が目を光らせている。琴音はまだ母親の影の下にいる。結衣は帰ってきたばかり。そして俺は、赤札をつけたまま、この穴から這い上がろうとしている。
俺は返信した。「わかってる。気をつけてる」
俺が打っているのを、結衣が見た。「琴音?」
俺はそうだと頷いた。
結衣の指先が、俺の手首をかすめた。一日じゅう我慢していたみたいに。
「ゆっくりいこう。でも、ごまかしはしない」
「結衣……さん」
「バレバレすぎてバズっちゃうなら、そのときは……見せてあげればいいよ」
俺たちのプロモーションは大成功だった。
再開初日、俺はネットでの稼ぎの一部を家のショコラトリーに注ぎ込んで、人にお金を払って来店してもらうつもりだった。だが、いかがわしい手口に手を出して、邸宅がさらに濁っていくのを目にしてきたのと同じ理由で、俺は少しのあいだ考え込んだ。それに、母も兄も父も、そろってこの計画に反対した。たとえ俺が夜の仕事を増やしたとしても、母は、俺自身のチャンネルの成功こそが大事だと言って譲らなかった。
母には、可能性を見抜く素晴らしい目があった。「自分の成功から目を逸らしちゃだめよ」これくらいは、何百万人の登録者のうちの、最初のひとりに返さなきゃいけないだろうな。ありがとう、母さん。




