世界をスラムダンクされた俺は、その技を覚えたくなった
周りに溶け込むことを学ぶのは、この社会の土台だった。だが同時に、集団に馴染めないはみ出し者たちの失敗でもあった。溶け込んで、溶け込んで、溶け込んで、ほとんど見えなくなるまで。夜の趣味の秘密以外、すべてのアイデンティティを失って……俺に残されたのは、それだけなのか?
違う。もう一度宣言する。違う。
真夜中、俺はスクーターで和佳美の邸宅へ向かった。
互いに巻きつけ合うのが好きな首輪の綱を外せるものなら、俺たちは外すだろう。たぶん。問題は、俺が金に必死で、しかも時間の猶予がないということだった。軽はずみな決断は自然と出てくる。だから、頭を冷やして、どうにかしてそれを避けるのがいちばんだ。だから、料理の時間だ。
そうだ。俺は頭を冷やすために、そして自分と家族の未来を救うために料理をしている。逃げているんじゃない。逃げて……
違う。
金のことは忘れろ。俺は自分の檻を、施錠された自制心というこの鉄の殻を、叩き割らなければならなかった。彼女が必要だった。抑えがきかず、悔い改めることを知らず、俺が恐れているものに燃えている同級生が。何の言い訳もしない、欲望に。
俺は、知られることを要求しなければならなかった。
だから俺は、その存在そのもので礼節を打ち砕く人間に会いに行くのだ。かつてそうしたように。
西園寺和佳美。美しき災厄。バレリーナのように回りながら、世界のほうに素顔をさらけ出させる少女。
分野:金融コングロマリット
総合順位:学園二位
血筋:未確認。だが、醜聞めいたつながりがあると噂されている
輝かしく、無鉄砲で、学園上層部さえ落ち着かなくさせるほどの美しさ。恥というものを信じず、あらゆる弱点を王冠に変える。崇拝者たちは、その狂気じみた好奇心を演技だと思っていた。言うまでもなく、そうではない。その恐ろしい本性こそが、西園寺和佳美そのものだった。
「どうしてそんなにきれいに自分を折りたたむの、琳太郎さん? 部屋の隅でひとりきり縮こまって、安全に死ぬのを待つみたいな生き方を、誰に教わったの?」和佳美が俺に何をしたか? 俺の行動規範を切り崩し、俺を舞台に放り出して、存在することを強いたのだ。プライベートシェフとしての俺の一面に、スポットライトを当てたのだ。「ほかに触れるものはすべて壊れてしまうと信じているから、料理だけが唯一の愛し方だというのなら――ええ、最後のひと口まで食べてあげる。でも、わたくしの飢えを、受け入れだと勘違いしないで。わたくしはただ、わたくしに食べさせることがあなたをどれだけ傷つけるのか、味わってみたいだけ」そう言って、今の俺自身にできるよりもうまく、すべてを揺るがしてみせたのだ。和佳美は、俺が憎みながらも目を逸らせない鏡になることができた。
結衣が慰め、育んでくれるところで、和佳美は火をつけた。琴音が俺の目をもう一度世界へ開かせてくれたところで、和佳美は俺に地球儀を投げつけ、バスケットボールのように技を決めてみせろと挑んできた。和佳美の挑発は、俺の中で大きくなっていく咆哮に、ますます重なっていった。
今日、俺はついにキレた。和佳美が学園で料理をしてみろと挑んできたのだ。ライブ配信付きの挑戦として。そのとき、周りには同級生が五人いた。俺がその配慮のなさに爆発したあとで、和佳美は、彼らに秘密保持契約書に署名させてあったことを明かした。そこにいたのは、赤いネックレスをつけた篠原琳太郎ではなかった。MidnightChefとしての篠原琳太郎だった。
腹を抱えて笑いながらも、和佳美は自分のしていることをわかっていた。くるくる回る地球儀をもてあそびながら。訴えることもできたが、それでは家業の助けにも、期限内にこの赤いネックレスを外すことにもならない。裁判は期限内には決着しないだろう。
和佳美は、世界を俺にダンクしてきた。スラム!
ブザーが鳴ろうとしていた。期限内に決着をつけなければならない。自分自身と、決着をつけなければならない。
準備ができていたからじゃない。
和佳美に臆病者と呼ばれたからだ。結衣が俺の奥まで見つめてくれたからだ。琴音が俺を信じてくれたからだ。そしてついに、手の中の地球儀の感触を、俺が必死に思い出したくなったからだ。
西園寺邸に着いた。和佳美は厨房に姿を見せなかった。いつものように、混沌の精霊のように消えていた。だがデザートを作るあいだも、肺の中の炎は消えなかった。
そしてついに、俺は和佳美のダイニングへと向かった。俺の初舞台だ。人前では完璧に振る舞いながら、ひとりになると俺よりもずっと壊れている、学園の完璧な女王と、初めて同じ食卓を囲む晩餐。俺たちの共依存は、二人とも食い尽くしかねない悲劇だった。
和佳美は不気味なほど静かだった。俺は、久しぶりに、それをあまり喜べなかった。
やがて、食器の触れ合う音がやみ、唇を拭い終えた頃……「弱さについて知りたいの。わたくし自身の中の。わたくしの弱さは生まれたときに没収されてしまったんじゃないかって、嫌な疑いを抱いているのよ。財閥の松明を継ぐ完璧な跡取りとして育てられて。あなたを通して人生を疑似体験していること、ごめんなさいね、琳太郎さん」
「和佳美さんにも弱点はある。辛いものが苦手だ」
「そうね。そうなのよ!」高笑いが響いた。「そんなささいなことが、わたくしのような人間をまだ打ち負かせるなんて、なんて素敵なのかしら。だからあなたに興味を惹かれるのかもしれないわね、篠原琳太郎。あなたはきっと、あなたにしかできないやり方で、人の欠点とつながる方法を見つけるのでしょう。深淵を長く覗き込みすぎた、根っからの庶民……それでいて、まだ優しくいられる。いつか、わたくしのことも救う時間を作ってくれないかしら?」
俺は何も言わなかった。試してみたかった。
「救う」俺はようやく、きっぱりと言った。「でもその前に、力にならなきゃいけない人がほかにいる。まだ俺は、ひとりでそれをやれるほど強くない」
「謙虚になったのね? あのネックレスは、ちゃんと役目を果たしたのね」
「俺を突き動かしているのは、あの印だけじゃない。出会った人たちが教えてくれたんだ。これを背負うには、支えが必要だって。世界に溺れさせられそうなときは、助けを求めることが強さなんだ。俺は持てるすべてを懸けている」
「あなたに琴音さんは救えない。無理よ。あの子の母親のことも、救えずに終わるわ」
「やれることをやるだけだ。手を貸してくれるなら、結果を変えるために、俺は力の及ぶ限りのことをする」
「認めるのは癪だけれど、人は運んでもらっているうちは、いつまでも迷子のままなのよ。救いは、立つと決めることから生まれる。内側から生まれなければならないの。外からの影響は、足場を与えるだけ。あなたはあの子の理由になった。それだけ。それがすべてよ」
「矛盾しているぞ、和佳美さん。救ってほしいと言いながら、運んでもらうことを否定する。俺の助けが欲しいのか? それとも、ただ全員が面白く失敗するのを見たいだけか?」
「両方よ、琳太郎さん。わたくしは自分の壊れた性質を愛しているの。唯一無二の宝物として慈しんでいる。もしわたくしに、従順で甘いものへと成り下がりたいという願いがあるとしたら、それはただ、その状態から這い上がる知的な挑戦を楽しむためだけよ。わたくしは心を動かされたい。予想外のスリルが欲しくてたまらないの。答えがひとつしか出ない、この世界の方程式を壊さなければならない。わたくしの好奇心は、人が完全に自分の意志だけで檻から抜け出せるのかどうか、この目で確かめることを求めているのよ」
「琴音さんを、見くびっていると思う」
「そうかしら?」
「見くびっている」俺ははっきりと告げた。「俺のこともだ。俺がここに来たのは、ただ助けを得るためだけだ。君の試験とも、君の称賛とも関係なく」
和佳美が笑った。俺の大胆さは、どんなお世辞よりもお気に召したらしい。「なら、あなたはわたくしに重みのある借りを作ることになるわ。あなたが楽になったあとも、ずっと残り続ける借りを」
「それは困ったな」俺は冗談めかして言った。「もう借金で溺れかけているんだ」
「あなたなら這い上がれるわ。今のわたくしには、あなたがそう見える。厨房の騎士が、またひとり女王の前にひざまずく。なんて愛らしいのかしら。それでいて、なんて見事なの。ひざまずいても、誇りは失っていない。わたくしまで、あなたが欲しくなってしまうくらい」
俺は確信をもってその視線を受け止めた。挑むのではなく、頼んでいるのだとわかったからだ。そんなことは、めったにない。「なら、手を貸してくれ。そして、よく見ていてくれ」
「そのつもりよ」輝くような、はっきりとした声だった。「純粋に、興味があるから。あなたの琴音さんを助けなさい。あなたの大切な小さなお店を守りなさい。壊すべきものを壊しなさい。そしてそれであなたが壊れるなら、それまでのこと。傷だらけになって、でも変わって戻ってきたら、あなたの傷跡が欲しいわ。全部。データが欲しいの。壊れたものが動けるという証拠が欲しい。引きずられるからじゃなく、自分で走ることを選ぶから動けるのだという証拠が」
俺は頷いた。「もう何からも逃げない。自分の道を選ぶときだ」
和佳美は晴れやかに微笑んだ。俺のどの料理にも勝る、ずっと味わいたかった風味を見つけたとでもいうように。「なら、あなたは稀なことを証明したことになるわ」高みからの宣言だった。「そして、わたくしはもっと欲しくなる。見せてちょうだい、愛しいシェフさん。人を信じる、あなたの心を」




