入学の桜
それは、学園の高校一年生になる前の、春休みのことだった。
新しい住所に小包が届いた。分厚い手紙の束で、すべて俺宛てだった。
俺は泣かない。そういうことになっている。だがその日、俺はこれまでにないほど泣いた。
結衣からの、いちばん新しい、すり切れた手紙……読んだ瞬間、自分があいつの最初の登録者になるのだとわかった。MidnightChefを、俺のIDにしよう。
ああ、結衣の登録者は、もう何十万人もいた。
俺も、自分の動画を始めよう。
学園に入学すること、そして約束を忘れていないこと――それ以外の言葉を返すのは、正しくない気がした。腹の底から、自分に反吐が出た。
その日まで、うちの店は開けておこう。
そして、今に至る。
誰かが距離を詰めようとするたび、あの失恋を思い出した。足が勝手に離れていこうとした。
だから、待ちわびた抱擁のために結衣が店に入ってきたとき、俺の最初の本能は、抱きしめ返すことではなかった。「この店から俺を連れ出してくれ」だった。
結衣をその矛先に立たせるつもりなんて、まったくなかった。
俺は人の心を壊し、自分自身の生き方を脅かしていた。
俺が心の平穏と呼んでいたものが、引き裂かれていく。そうなって当然だ。それは弱さで、俺の罪で、俺の中の悪意で、その崩壊を祝うべきなのに、俺はまだその痛みに揺さぶられている。その欠如に。こんなにも長いあいだ俺のすべてだった、この存在しない感情に。
俺は自分を心から愛していた?
俺は自分が憎かった。
「話しかけてくれ。距離を詰めてくれ。自分の心の中の感情を読みたい。この脆い心の平穏を壊せさえすれば、それだけでいい!」
だが俺は人間だから、その助けを求める叫びを口にすることはできなかった。
それでも俺の料理は、かつての俺の言葉より、ずっと雄弁だった。
俺は、何になってしまったんだ?
俺の両手は、内なる自己発見の檻をつかんでいた。集めたありったけの怒りで咆哮しながら、動かない鉄格子を引き、揺さぶった。
手紙で気づいた鉄格子。
琴音が動かせるようにしてくれた鉄格子。
結衣がすぐ目の前にいた。去ってほしくなかった。
「わかった」俺はかろうじて同意を口にした。「君は本当に手のかかる女だな。少し息がつけるのがありがたいくらいだ。やろう。君のチャンネルで、単独の動画を」
「ほんと?」
「再開に効果があれば、コラボしよう」
「なんだか取引みたいにしようとしてるね、琳太郎くん。ビジネスの条件とか、指標とか。ほんと責任感強いんだから」
「いちばんいいカメラ機材を持っていく」
「あと、おやつもね。琳太郎くん、料理に夢中になると、いつも食べるの忘れてたもん」
「あと、おやつも」俺は繰り返した。「君が持ってきてくれ」
濡れた俺の目は、大したものだった。ちゃんと見えている。ずっと逃げ続けてきたのは、俺自身の心のほうだった。
今なら、はっきりとわかる。それなのに、胸の中の言葉は、まだひとつも声にならない。
もしかしたら、結衣なら、その言葉を引っぱり出してくれるかもしれない。




