第八十二話 妊娠出産
「ミャ、ミャアア!?」
な、なんだってー⁉
どうもこのところ様子のおかしかった妹を心配したドジっ子メイドちゃんの報告により妹の健康状態がチェックされることになったのだが、なんと妊娠していた……。
ヒッヒッフー。ヒッヒッフー。
落ち着け。落ち着こう。深呼吸して、精神を落ち着かせねば。
まず、まずである。相手は誰なのか。
普通に考えるとアンセ。他のオスと言えばパーティーで会ったライエルの守護獣クルップがいるが、さすがにサイズが違いすぎるしあの場でそんなことがあったとは思えない。
あと俺もオスだけどもちろん違う。
むう。俺よりも先に妹が子を成すとは……。世間の童貞お兄ちゃんたちの気持ちが少しわかった気がする。なんだか取り残されてしまった気分。しょんぼりである。
怠惰な妹だと思っていたのに妊娠とは……。こうなってしまうと何か世話を焼かなければならない気がしてくる。これでも一応兄なのだ。
それにしても俺には何ができるだろう?
猫の出産までが人間よりも早い事は知っている。でも何日くらいだっけ?
「そうですね。たしか――」
二か月……。早いな。
アミーに聞いてみると落ち着いた声でそう言われた。そしてお腹が大きいという事は、出産までにそれほど日数がないとも。
あー。うん。そうなんですね。周囲が落ち着いているとこっちも冷静になってくる。慌てているのは俺とドジっ子メイドちゃんだけみたい。
ムムムッと超能力で母へ向けて「妹が子供を産みそうです」と送れば即日やってきた。なんだかんだで子供のことを気にしてくれているらしい。嬉しいね!
でもねマミー。ミミズクだけ置いて行くってのは少し間違った家族愛の形だと思うんだ。これは何に使うための物なの? もう俺わかんないよ。
見た目が違うので別個体だとわかったけれど、心配になりタタタッと駆けて中庭の方へ様子を見にダッシュ。花壇や噴水が凄い速度で後ろに流れていく。俺だって本気で走ると早いのだ。飛んだ方が早いけどね。
林の中に到着し、木の上にあるミミズクの家を覗き込むと先住のあいつは無事だった。ほっと胸を撫でおろす。さすがに世話をしている立場だからね。何かあると悲しい。
餌の時間でもないのに来たことを不思議そうにするが、来たなら餌を期待するのか口がパクパクしている。最近はこちらを恐れることもなくなってきた。代わりに飼育係とでも思っていそう。無礼な奴だ。一瞬母をこの場に呼んでやろうかと思ったが、きっとそれはやりすぎ。呼吸困難で死なれても困る。
さて、母猫より新しいミミズクを渡されたのだが、俺には使い道がない。よって二体目も同じ家に置いておくことにした。
そういえば幸運がどうのこうのってやつの詳しいルールを知らないのだが……。家を作ってあげて住まわせるというのは聞いたが、二匹の場合どうすればいいのかな?あとでセルトに相談してどうしたらいいか指示だけもらおう。そうしないとルアナが怖そうだし。
二匹並べてみたが喧嘩とかもせず仲良くできそうな感じ。ちょっと警戒してお互い目が大きく開かれているけど、初対面はそんなもんですよね。うんうん。後は若い二人にお任せして俺は帰りますよ。
____
数日後。妹が急にいなくなったドジっ子メイドちゃんが焦って走り回るから屋敷の中は大騒ぎ。
身重の体であのバカどこにいったんだって俺も必死に探したら倉庫の中ですでに子供が産まれた状態で見つかった。なるほど。本能的に誰もいない場所を選んだだけだったみたい。
生まれた子は二匹。アンセによく似た真っ黒の猫と、俺によく似たこげ茶の猫ちゃん。でもちょっと色が薄めかな。
「アンバー様。まさか……」
周囲の目が冷たい。
たしかに猫は近親でそういうことするみたいだけど、無実なんです!
色も少し違うでしょ?
え? 成長の過程で変わるって? なんで詳しいんだ。くそう。
そういえば、母も似てるんだ。だからね。遺伝ですよ。遺伝。
必死で違うよ。ほら見てよ黒いのだっているでしょとミャアミャア訴え続ける。
さすがにいつもと違う俺の態度を見て、とりあえず疑いは晴れたらしい。よかったよ。とりあえずだけどね。
落ち着いたら部屋を移しましょうという話になった。さすがに倉庫内は埃っぽいからね。衛生的に清潔な場所に。
更に数日が経った。子猫を見ていると時間が経つのが早い。
そしてようやく子猫の目が開いたよ。俺に似た色の猫は碧い瞳。
みんなは「アザー様にそっくりだ!」と大騒ぎ。ラーナツは踊りながら泣きだすし、珍しくルアナたちも暇を見つけてやってくるようになった。
妹の妊娠がわかってから俺を含め、屋敷ではバタバタした日々が続いている。子猫も今のところ無事に成長を続けているのでまずは一安心。少し前まではようやく落ち着いた日々がきたのだと思っていたのにいつの間にかいつものように騒がしくなっている。安息の日にはもう少しかかりそうだ。




