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先代様の置き土産  作者: 鈴寺杏


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第八十一話

 守護獣(仮)の立場が妹に奪われるのではと一瞬焦ったが、仮にそうなったとしても特に困らないことに気付いてしまった。むしろ困るのは皆さんの方ではなかろうか。彼らは現在俺の持ち込む商品に依存している部分がある。

 それにすでに十分な額を稼いでいるし、ウルシが留守番をしているリフォーム済みの住処だってあるのだ。何一つ困ることはない。


 気が楽になったところで妹のことは守護獣の皆さんにお任せしてスーの様子を窺えば、ルナリアと仲良く並んで話をしている。お互いの表情を伺いながら会話する様は、中学生の淡い恋愛を思わせる。まだ二人とも十歳にもなっていないのにね。お貴族様はこういうの早いのかしら。とにかく二人のことは心配無さそうだ。


 残ったルーはどこかと視線を巡らせれば、お付きのメイドと食べ物に夢中になっていた。今日は珍しい料理も並んでいるからね。気持ちはわかる。


 ふと隣に目をやればアミーも料理が気になっている様子。ならばということで、一旦ルーと合流して我々も豪華な食事を楽しむことに決めた。


「ミャア」


「はい。そう致しましょう」


 嬉しそうに横を歩くアミーを見て、俺もご機嫌に尻尾を振る。

 料理に辿り着いてスンスンと匂いを嗅ぐとほのかに香辛料の香り。もしかするとカレーを僅かに加えているのかな。離れた場所でもわかるほど強烈ではないが、本能的に食欲を沸き立たせる。


 アミーにお皿に取ってもらい移動してあぐあぐと肉をいただく。守護獣と共に生きるこの地域ではきちんと配慮されていて、我々はどこで食べてもマナー違反にはならない。とはいえ専用のテーブルというか台が設置されているのでそこに移動して来た。さすがに料理の並んだテーブルの前でいきなり食べ始めるほど食い意地は張っていない。


 口に入れたお肉は小さな俺の口でも咥えられるサイズにカットされている。さすがエルナードの料理人。気配りも一流だ。

 味の方は複雑な味に仕上がっているが美味しい。案の定隠し味にカレーが使われているようだ。


「アンバー様。美味しいですね」


「ミャン」


 二人仲良くもぐもぐタイム。

 チラリと妹の方へ視線を向ければ、メイドちゃんが羨ましそうにこちらを見ていた。視線があった気がしたが、見なかったことにしよう。


 平和なことは良い事。

 以前までと違い他家をあまり意識しなくて良かった今回のパーティーは、楽しく時間を過ごすことができたと思う。そりゃあもちろん気も使うし疲れもするが、悪意を受け止めたり躱したりということをしなくていいだけでずいぶん違うものなのだ。


 帰りの馬車ではスーやルーが笑顔。今日のことを楽しそうに語る。それを見てルアナの表情も緩む。母親の顔だね。


「今日はご苦労じゃったな」


 本館でカトル爺とパザンたちと別れて、我々はそのまま別館へと帰る。スパイツがこちらに乗り込んで来たので、馬車の中は少し狭くなってしまった。邪魔だなと思ったが、スーとルーが嬉しそうなので今回は見逃してあげよう。俺は寛容なのだ。


 

 エルナードで行われたパーティーからしばらく時が経った。ぐうたらな生活をしていると時間というのはすぐ過ぎてしまうものである。今もベッドの上で羽毛布団に埋もれてゴロゴロしている俺が言うのだから間違いない。


 この間に一度満月を挟んでいるので地球で買い物を行った。ルアナから「贈答用に洗髪剤を」と指示があったのでいつもより荷物が重かった。どうもきれいな黒髪を奥様方に褒められたルアナは、珍しく不用意に洗髪剤について話してしまったようなのだ。完ぺきに見える彼女も一人の女の子だったというわけである。


 それにしてもぐうたら仲間である妹ソックが最近太ってきている気がする。俺のシャープなボディと比べるとお腹がちょっと弛んでいるように見えるのだ。しかも「たまには運動しなさい」と言ってもだるそうにして全然いう事を聞かない。もしかしてすでに守護獣になったつもりで偉そうになっているのではなかろうか。それならば教育してやるのが家族である兄の務め。たまにはしっかりと言ってやりますよ!

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