第七十九話
ピュエルマの遺跡から帰って数日。遺跡での刺激的な時間は俺自身にもそれなりに負担だったようでなんだか気怠く、温かな日差しのもと中庭で花をクンクンしてみたり、土の上でゴロゴロと背中をこすりつけたりしてゆっくりとした時間を過ごしている。
そうそう。そんな日々の中、黒猫くんの名前はアンセに決まった。名付けはラーナツである。
アンセはアザー様の絵を見てじーっとしていたり、ラーナツのエプロンの刺繡に興味を示したりするので、その姿を見てラーナツが「同志!」とか言い出して気に入ってしまったのだ。そしてある日「アザー様よりお告げがありました!」とか言い出してアンセと呼び始めた。みんな「こいつやべえ……」って態度で接していたのだけれど、アザー様の名前を出されるとおいそれと否定することもできず「守護獣じゃないし餌代もラーナツが出してるしいいかな」という理由でそのまま意見は通ってしまった。
そんなアンセはあの遺跡から妹に引っ付いてやって来たのでご執心なのかと思いきやそういうわけでもなかった。時々こちらにもちょっかいをかけてくる。なんでかなって行動を見て考えたのだが、単純に遊び相手ができて嬉しいからみたい。あの遺跡では他に猫を見なかったし寂しかったのだろう。家族とかどうしたんだろうと考えもしたが、そもそもうちの母猫だって放任主義だったり妹をここに置いて行っちゃってるわけで……。動物の世界では結構あるあるな状況。
ここの人たちが受け入れるのなら、共に時間を過ごせばいいと思う。良かったね。
くあぁ。と欠伸をしながらベッドの上で大きく伸び。アンセくんここは俺のベッドの上なのにまるで自分の城のような態度は良くないと思います。共同生活はいいけれど、配慮ってものがだね……。
いつの間にか妹だけでなく彼まで俺の部屋を利用し始めた。屋敷で一緒に住むのは良いけれど、これは違うと思います!
君の部屋はラーナツの部屋。おわかりかい?
「ミャミャ!」
「ミャア?」
男同士だからね。ナワバリの主張をすることもある。だけど彼は「何でダメなの?」という態度。これに対してちゃんとした説明をしたいところなのだが、我々って普段曖昧な感情表現で過ごしているので上手く説明することができないのだ。猫にもしっかりとした言語が欲しいと思う。お互い人間の言葉を凡そ理解しているので話せればいいのだが……。
そんな時に思いついたのがアミーを介しての会話。彼女はアンセの意思もそこそこ読み取る。
「アンセさん。ここはアンバー様のお部屋。ナワバリですよ」
「ふむふむ。なるほど。あなたもここを自分の場所だと主張されるわけですか……」
「アンバー様。どうしましょう?」
どうしましょうって、どうしましょうかね。相手が敵対的じゃないだけに取れる手段は限られる。それに乗っ取りではなくシェアするということならば拒む理由が「俺のプライベート空間だから」という部分しかないのよね。俺とアミーちゃんの幸せ空間なのになあ。
アンセからしてみると妹のソックもここに出入りしているのを見ているわけで、ダメな理由もわからないだろう。
心の中で腕を組み、ンニャンニャとどうすべきか悩んでいると、珍しくルアナが部屋にやって来た。そして勝手に椅子に腰かける。するとアンセはルアナに擦り寄って行った。アンセはルアナのことが気に入っているのよね。
最初権力者を見定めて接する強かな猫なのかと見ていたのだが、単純にそういうわけでもなさそう。エルミーナ家だけでなく、ラーナツとも仲良しだし。何か美味しい匂いでもするのかな。俺は今のところ彼らにそれを感じたことないけど。
「アンバーに用があって来たのだけれど、アミー何かあったの?」
「何かというほどの事ではないのですが……」
アミーが今の出来事をルアナに説明すると面白そうに笑顔を浮かべる。
「アンバー好きにさせておきなさい。そのうち飽きてまたどこか別の場所にいくようになるわ」
そうかな? そうかも。
さすが年長者ですね! って、おわわ!? ルアナの鋭い視線が。
なんでもありません!
で、何の用事でこの部屋にきたの?




