第七十七話
皆で歩み寄った建物はシンプルな石造り。出入り口に扉がないのは古い時代のものだからなのかな。蝶番が付けられていたような跡もない。
中に入ると小部屋とでも言えばいいのだろうか、屋敷の使用人部屋よりも狭い空間。入り口が開いているせいか砂埃が多いが、同時に風が抜けるという事でもあり鼻を覆いたくなるような淀んだ臭いというわけではない。
床の色が変化している場所はおそらく鳥の糞によるものだろうか。隅っこは風の通りが悪いらしく巣の残骸らしきものが落ちている。
目ぼしいものもないのでさらに進むと廊下にでる。右側に奥に続く道と、正面にはそのまま違う部屋に繋がる入り口。
まずは近いところからという事で正面の入り口から中を覗き込むと、高い天井の広間だった。どうもここにいた人たちは広間がお好きらしい。
壁には光を取り込むためであろう穴が開いており、反対側にも大きな入り口が開いているので明るさは十分。
「教会や礼拝堂か?」
俺の上から覗くマタタナさんの声が響く。
言われてみると確かにそんな雰囲気。お約束のような木の長椅子なんてものはないけどね。ただし土台のような石があるので、もしかするとそれが足で上に板を渡すことで長椅子代わりにしていたのかも。直接座るということもあり得るか。
危険は無さそうという事で、広間に入りぐるりと見渡す。
我々が来た方は裏側ってことになるのかな。正面らしき場所は一段高くなっており、その脇付近舞台袖って感じだった。学生時代の体育館なんかに近い。
そのまま広間中央付近まで進んで振り返ると、色あせているが多くの色が目に入ってきた。
「不思議な絵だ。この絵に祈りを捧げるってことだよな」
「ミャ」
瞳に映るのは色鮮やかな壁画。どこかエジプトチックで、様々な図形と共に中心付近には人の体に猫の顔っていう神話に出てきそうなタイプの存在が描かれている。おそらく神様だと思うけれど、異世界だし獣人なんてこともあったり?
こちらの世界の動物たちは特殊な力を持つ。ならば獣人たちが同じように何かしらの力を持っていた可能性はあり、結果神のように扱われるのも不思議ではない。
という勝手な考察。
「一先ず祈っておきます。我々は今のところ侵入者ということになりますので、せめてご挨拶をして誤解を解かなければ」
アミーがアザー様の絵に対する態度と同じように、跪き祈る姿勢を取る。信仰関係はいい加減な俺だけど、猫の顔をしているので今回ばかりは一緒になってお祈り。ちょこんと座る。手を上げれば招き猫のポーズだね。それに意味があるかは不明。
「やっぱりこっちが正面みたいですね。整備された道がありました」
俺たちが祈っている間にコズイが確認に行っていたみたいで、反対側が正面入り口であることを確認してきてくれた。ライエルの二人はここに来てフットワーク軽くなっているね。
「祈りは終わったかい? なら残りの部屋を見に行こうか」
うずうずとした様子のマタタナさんが積極的に探索を始めた。ここが祈りを捧げる施設なのでいいのかなと思う反面、同じように見て回りたい気もしている男の子である俺。
そんな躊躇う兄などお構いなしな妹のソックは、また勝手に駆けだして先ほど見た廊下の方へ行ってしまった。
「待って下さいぃ」
俺もすぐに追いかけようと腰を浮かしたのだが、メイドちゃんやライエルの二人がが追いかけて行ったのでお任せすることにした。先ほどまでと違い、この施設の目的を考えると罠があるとは考え難いので焦る必要はないという判断。
皆からやや遅れて廊下に出て進んでいき、最初の部屋に入ると個室らしきスペース。今のところ殺風景というかあまり生活感のない感じ。物などはほとんど風化したり、鳥に巣の材料として使われてしまったのだろう。
次の部屋は食堂かな。広くはないが石のテーブルがある。となれば隣が厨房だね。といっても崩れた石窯らしきものがあるだけ。食器は木製か。それがいくつか転がっている。
その他の部屋も見たがどうやらお宝なんてものは無かった。ここの人たちは強欲なタイプの人たちではなかったということか。立派だなと思う反面、残念にも思う。




