第七十六話 屋上庭園
柱を階段のように利用しながら、ヒョイヒョイと上って行く。間に隙間があるだけでなんでこんなに怖いのだろう。俺は平気だけど、メイドちゃんなんかはビクビクしてなかなか一歩が出ない。
上に行くたびに明るさが増していく。ここまで暗かったからありがたいのだが、少し眩しくもある。贅沢でごめんなさい。さて、お外に出る時には注意しなくちゃね。「目があぁぁ!」ってなっちゃう可能性もある。
天井付近の穴。複数ある理由がよくわからないけど、まあいいでしょう。
人間も通れる大きなところから先行してマタタナさんが外へ出ていく。
「問題なし。上がって来て大丈夫だ」
マタタナさんは一応先ほどの黒猫が抜けていったのとは別の穴を選んでいたが、俺としては頭を出した瞬間に襲われやしないかと心配していた。でもそんなこともなくて無事でよかった。
続いて穴を抜けるとベランダのような場所に出る。お城とかにありそうな腰壁付き。ただそれほど広いわけではない。
好奇心に誘われるまま壁にピョンと飛び乗って景色を見れば、歩いてきたルートが確認できた。ここはずいぶんと見晴らしの良い場所だ。さすがに真下は見えなかったけどね。元々は自然にできた場所だからか、城のように整っているわけではなく岩が邪魔してる。
それにしても高い場所に上がってきたせいか、太陽からの光が妙に強くなった気がする。有名な電波塔なんかよりも高くないはずなのだが、そう感じるのは環境のせいだろうか?
「こっちにまた上がる道があるぞ」
マタタナさんが指さす先には確かにここよりさらに上がるための階段らしきものがある。螺旋状ってほどではないけれど、ぐるりっと角度のついた感じ。こうしてみると、この場所は階段の途中にある踊り場に近いだろうか。
よし! 行きましょう!
上へ繋がる道を眺めていると「どうぞどうぞ」と促されてしまう。「え?」と思いながら「じゃあ、俺が!」と前に出ると「どうぞどうぞ」とそのまま。
あれぇ? おかしいなあ。
妹の方をチラ見して「先に行ってもいいよ」と見てもそんな気配は無く、ややグロッキー状態のメイドちゃんに構っている。疲れて甘えているわけではあるまい。世話を焼いているのか、励ましているのか……。
仕方なく上がって行けば、途中でちゃんと屋根もある中継地点に到着。反対側を見ればそっちのルートは屋根付き。
むむむ。正解ルートはあっちだったのかな?
「近いな」
「ミャ」
ここからの上りは一本道になっているので、間違う必要はない。聞こえてきたマタタナさんの声に同意する。きっとこの先には何かある。そんな予感がする。
またしても先頭で上って行くと、圧巻の光景。パッと頭の中に浮かんできた言葉は『屋上庭園』だ。
地面は平らに整えられた形跡があり、建物、そして緑まである。それでいて広い。
「アンバー様……」
アミーも言葉を無くしている。気持ちはわかる。これ以上足を踏み出すのを躊躇させられる雰囲気があるのだ。
「エルミーナの守護獣さま。どうするんです?」
ここまでは積極的に先に行くことを促していたライエルから来ているマタタナさんも同じ気持ちらしい。
「守護獣(仮)です!」という風につっこむ場面でもなく、真剣にどうしようかと悩んでいれば、俺の隣を抜けて妹のソックが勝手に走り出して行っちゃった。
さすがというべきか、なんというべきか。って、見てる場合じゃなかった。
「ソックさまぁ!」
「ミャミャア!」
こらちょっと! 危ないよ!
メイドちゃんと俺がそう声をかけたところで聞きやしないお転婆ソックは池に駆け寄ると、そのわきにある漏れ出た水をためる場所でちゃぷちゃぷと水を飲み始めた。どうも喉が渇いていたらしい。
仕方なく慌てて後を追うと、豊かに水を貯える池。中には水魚と思われる魚が泳いでいた。そんな水魚たちを見て、こんな場所でも生きていけるのかと感心する。
池の壁面にはトンネルのような穴が開いていてどこかへ繋がっている様子。しかしここは大岩の上。どこに繋がっているのだろう。なんとも不思議。
改めて周囲を見渡せば、水、緑と揃っており、鳥も多く降り立つ姿が見受けられる。きっと探せば他の生物も見つかるはず。要するに黒猫がここで生活するのになんとかなる環境は揃っているようだ。
さてあとは、建物。入り口らしき場所に扉はなく、ずいぶんと開放的。泥棒とか来たらどうするのかなと考えたが、日本でも田舎だと扉開きっぱなしとかあるし、泥棒さん的にもウェルカム状態の方が逆に怖いかも? 三国志の漫画でそういうの見た気がする。
後ろを振り向けば皆の表情はどこか期待しているようで、ここで帰るっていう選択肢は無さそう。
んじゃ、覚悟決めて進みますかね!




