第七十二話 二家同時
エルティガで蓮の報告をしてから一年。エルミーナとエルティガは守護獣によってもたらされる恵みによって豊かになりはじめていた。俺に支払われる報酬の金貨も増えたことで以前よりお金持ちなってしまっているのだが、増えるのはこちらのお金ばかりで正直あまり使い道はない。地球での換金は自重しているからね。
ただ貯めていてもしょうがないという事で、ウルシのいる倉庫の隣も買い取ってネリード親方に増築してもらったのにそれでも余っているくらいだったりする。
その時の笑い話だが「ワシが若い愛人でも住まわせとるんじゃないかと言われて困った」と親方は言っていたっけ。恐ろしい猫が住み着いてる廃屋が気付けば大きくなっているんだもんな。普通じゃあり得ないことだし、そこへ出入りしている人間が目撃されればそういった噂にもなるというものだ。一応俺も人の姿の時に出入りしているんだけど、地味な男では目立たなかったみたいね。
配役はアミーが愛人役。あとはウルシの化けた姿なんじゃないかって話もあるんだっけ。もし目の前でそんな話をされたら「ナイナイ」と顔の前で手を左右へ振ることになるだろう。
そんな平和な日々だったはずなのだが、ここに来てまた問題が起きたのだとカトル爺に呼ばれて本館に行くことになった。久しぶりの迷惑処理の仕事に吾輩ため息である。
「アンバー疲れてるの?」
「大丈夫?」
立派に成長している双子はこの一年でさらに大きくなった。多少高いところでも手が届くようになったことで屋敷ではいろいろと事件が起きている。ルアナの隠しておいた菓子が行方不明になるとかね。あの時は大騒ぎになったっけ。大変だったなあとしみじみ。
本館に着くといつものようにスーやルーとは別れ、カトル爺の部屋へと向かう。最近案内役の人もいなくなってしまった。信頼されているのか、扱いが雑なのか……。とはいえアミーがいるので気にしないけど。
「アンバー。今度こそこの件が終わったらワシは隠居するぞ!」
「ミャア?」
お互いが席に着くと、力強く宣言するカトル爺。出会った頃より若々しく元気になっているのに。今回はそう言いたくなるほどの面倒ごとなのかな?
そういえばパザンが室内にいない。トラブルに対処中といったところだろうか。
「ついにライエルから話が来た」
この一言でだいたい察した。以前よりエルティガに協力したことで、いずれこんな日が来るだろうとカトル爺とは話をしていたのだ。だがこれだけでは想定内というやつでは?
「ついでにピュエルマからもな」
はい?
なんで同時に来ちゃうんですかね。仲良しかな?
「どちらも最後に残されるのは嫌という事じゃな」
ライエルとピュエルマは、エルティガとエルミーナのような強固なものではないが協力関係にある。そのうち片方だけとなれば、その先を想像すると避けたくなるのもわかる。気付けば他が協力して取り残されるということになりかねないもんね。
現在エルナードを中心に東西で上手く分かれているのだから、エルミーナとしては現状維持を望んでいるのだが、願い通りに世の中ってのは進まないらしい。
「どうするかの?」
どうすると言われても、断るってありなんですかね。というか何で今更になってなんだろう。もっと早いタイミングで良かったのではないかと思う。いっそ同時に話を持ってきて困らせる嫌がらせと言われた方がよほど納得できちゃうよ。
そこんとこどうなんでしょうか?
「ルナリア様の件かの」
「ミャミャ?」
なんですかそれ?
「スーのことを気に入ってくれておるという話でな。二家とも方針転換ではないかと思う。現に報酬についてもそういった内容じゃ」
ライエルからは武力による安定を、ピュエルマからは特殊な環境に生息する生命の素材だそうだ。もう少し具体的にお願いしますよ。でもこういうのが貴族っぽいやり取りなんだろうね。
カトル爺の説明だと、スーが新しく家を興した際でも協力するという意味にも取れるし、そうしなかった場合にもそれなりに便宜を図りますってことなんだって。
結局のところ俺に話が来た時点でこの話は受けて、みんな仲良くしましょうってのがカトル爺というかエルミーナの希望なんだろうね。俺としてもそれでいいよ。そうなるとのんびり生活できそうだもん。カトル爺じゃないけど、最後の一仕事ってやつにしましょうかね。未だに守護獣(仮)だけど、成し遂げて隠居するのだ!




