第六十九話 キャンディ
「アミー。あなた少し大人びたわね。何かあったの?」
相変わらずチョコレートを摘みながらのティータイム中であるルアナ。プライベートな空間ということで、手に付いたチョコレートを舐める仕草は色っぽくもあるが、俺としては衛生面を気にしてしまう。
今回アミーもいたことでお菓子類を持ち帰れる量が増えた。その結果多少であるがルアナに渡る量も増えている。よって彼女はご機嫌なのだ。
で、この発言なのだけれど、これ一歩間違ったら危ない感じじゃないです?
断じて俺は手を出していません! 一か月も一緒に生活していたけど、健全な俺は何もしていない。無実。ただちょっとお風呂場で背中流してもらっただけです。しかもアミーが自主的にだからね! 嘘じゃないよ!
「いえ。特にはございません。ただ髪に良い薬を手に入れまして、それを使うようになりました」
「へえ。そんなものも扱っていたの」
もしかすると一か月向こうで過ごしたからその分早く大人になったのかな? そんなことを思いながら二人のやりとりを見ていたりする。
でもアミーの言い分だとシャンプーなんかの影響ということのようだ。別に異世界産と混ぜたりしていないはずなので、これは日本産の質が良いってこと。混ぜていたら髪の毛がピカーっと光っていたかもね!
化粧品もちょこっとだけ買ってあげたけどそこは秘密ってことになってる。ルアナに知られると面倒なことになるって二人で話し合ったんだ。
「アンバー。あなた私にそんなこと一言もいってないわよね?」
「ミャ!?」
いや。えーっと。ここで俺が責められるのか。ルアナの目が怖いよ。アミーちゃんタスケテー。だめですか。そうですか。あっちでは一か月も一緒に過ごしてずいぶんと関係が向上したと思ってたのにな。
「今回持ち込まれている商品と一緒に届いているはずですので後ほどお届けいたします」
「あら。そうなの。アミーが一緒に行ってくれて本当によかったわ」
ううぅ。ルアナの流し目が怖い。アミーちゃん用意してくれてるなら早くいってよね。自分用にと買い込んでいた中にルアナ用のものも含まれていたのだろう。ルアナが言う通り本当に一緒に行ってくれてよかったと思う。いやーこれで助かりそうだ。
ルアナの気持ちはすぐにシャンプーに向いたらしく、朝っぱらから洗髪するのだと言って部屋を出て行った。まだ用意とかあるだろうにね。気の早い事だ。
部屋に帰ると妹がいた。しかもふかふかの羽毛布団が占領されている。やっぱりこうなってしまったか。ここで無理に奪い返そうとしても布団が傷つくだけなのでそのままにしておこう。それにあれは敷布団じゃなくて掛け布団で真価を発揮するのだ。豚に真珠ならぬ妹に羽毛布団だよ。
近づくと少しだけ目を開けて、俺だと認識するとまた寝に入ってしまった。信頼されているのは嬉しいのだが、久しぶりの兄なのに。でもこっちだと数日しか経ってないしこんなものなのかな。
無理に起こすのも悪いので俺は外に行くことにする。部屋を出ようとすると、妹の専属メイドちゃんと目が合った。なんだかモジモジしている。おトイレにいきたいのだろうか。戻って来るまで妹のこと見ていてあげるから行っておいで。
なんて思いながら首をもたげてみたのだが、彼女とは意思疎通できないのよね。それにモジモジしているのはおそらく違う理由。知ってるよ。この子はお菓子が欲しいんだ。中々甘い物が回ってくる立場じゃないからね。
普段妹がお世話になっているので一つだけわけてあげよう。先輩方に言っちゃダメだぞ。バレたらみんな意味もなくここに来ちゃうからね。
「ふわああぁ!」
おっきい! 声おっきいよ!
今回はクッキーじゃなくて缶に入ったキャンディー。おはじきが入ってそうなやつではなくて、個別包装になってる少しお高い物。缶は宝石箱みたい。自分で買っておいてなんだけど、昔もらって食べたけどどんな味だったか忘れちゃった。好きなのを選ばせてあげるけどどれが何味かわかんないや。紫はぶどうかな?
「こ、これにします!」
ドジっ子系だけどさすがにキャンディーを取るだけでハプニングは起こらない。ここでのルールはすぐに食べること。これは容易に外部に漏れないようにするためと共に、他人に奪われないようにするためのお約束。
「甘いくて美味しいです! アンバー様ありがとです!」
口の中であっちこっち動かして味を楽しんでいる。時々歯に当たってコロコロって音がしてるけど大丈夫かな?
ともかく嬉しそうで何より。それにクッキーよりも長く楽しめるからね。こちらの方が好きな子もいるだろう。
およそ一か月ぶりのお屋敷での生活。何も変わりがないようでなにより。




