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先代様の置き土産  作者: 鈴寺杏


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第六十五話 当主は笑顔でせっかち

 レンコンおすすめですよってアピールしてからのキンガの動きは早かった。すぐに狩人や使用人たちに指示を出して蓮を収穫させる。詳しい話も聞いていないのにいいのかな? まあここには通訳がいないから伝えられないけれど。そう考えるとやはり俺の専属としてアミーを傍に付けるのが良いのではないかと思う。別に個人的な好み云々ではなくてね。帰ったら進言してみようかな。


「アンバー殿。どの部分を回収すればよろしいので?」


 えっほえっほと人間たちが作業するのを見守る。気分は現場監督だ。

 どうも思っていた以上にここは深いらしく、悪戦苦闘中。焦って死人が出る事故が起きてはシャレにならないので慎重にゆっくりいきましょう。キンガのおっちゃんもせっかちを発動しちゃだめだぞ。


 子供たちはもちろん俺と一緒に見学。慣れない作業でびしょびしょになる大人たちを見て楽しそうにしている。スポーツ大会とかを見ている感覚なのかな。


 掘り出されたレンコンさんは、凡そ俺の知る形。猫のウンチが連なったような見た目。ちょっと例えがよくなかったかも。でも他に浮かんでこない。数珠だと少し違うもんね。


「ほう。妙な見た目だな。で、これがどのように使えるので?」


 何だかいっぱい回収しようとしてるのでキンガをテシテシと叩いて程よいところで止めておく。今回はあくまで発見するところまでですからね。そんなにいっぱい採っても期待通りでなければ無駄になりますから。

 それにしてもすごいがっつくね。食事時の妹よりすごいと思う。


 集めたすべてを例の舟型荷車に乗せると、キンガはすぐに帰る指示をだす。俺としては願ったり叶ったりというところなんだけど、子供たちのための社会見学って建前はいいのだろうかとも思う。


「アンバー殿。これにはどのような効果が?」


 しつこいと思いつつも、冷たくあしらうわけにもいかないんだよね。こう見えてこの人エルティガの当主だし。あとずっと笑顔を作っているのが逆に怖いぞ!

 そもそもですよ。蓮は俺の中で予定外だから帰った後に一度本を見て確認する必要があるんですよ。これも載っていたなって記憶はあるけれど、そっから人が口にしたり体に塗り込んだりする場合安全性をある程度確保する必要がある。


 そんなわけで「ミャミャ!」と返事をするふりをしつつ道中をやり過ごし、カトル爺たちと合流。ある程度こちらの意図を理解してくれるカトル爺がキンガに「しばらく調べる必要がありますな」と伝えてもくれたのでとりあえずは落ち着いた。


 キンガも話せばわかる人なのですぐに納得した後は「ではこちらはすべてお預けします」とか言って回収して来た蓮を渡そうとする。なんというか極端だね。豪快ともいえるかな?

 ともかくサンプルが多いのはありがたいので、お言葉に甘えてお持ち帰りしちゃうぞ。持ち帰る役は俺じゃないけど。


 そういえば妹が騒いでいないなと思ったら、籠に入ってすやすやモードだった。あの子俺より肝が据わっているので籠に入ってメイドが抱えていればどこででも寝れる。恐ろしい子。


「では何かわかったらすぐに遣いを出します」


「うむ。カトル殿、アンバー殿頼みます」


 俺なんかだと目の前で確認しながらやってほしいと思うタイプだけど、完全にお任せしてくれるんだね。信用されてると見ていいのかな。ウスリのこともあったしさ。


 本当は一緒に昼食を楽しむ予定だったのだが、流れでそのまま帰ることになってしまった。でもちゃんとお土産というか、お弁当を持たせてくれたので食べ物は無駄にはなっていない。 急遽だったのでサンドイッチみたいな軽食。


 帰りの馬車でお食事。いつもと違う状況にスーとルーも楽しそう。移動中にこうして食べるなんて二人の場合ほぼないだろうし。俺の場合は新幹線の駅弁や飛行機の機内食なんかで経験がある。それでもなんとなくウキウキはする。


 食後の双子はお腹が満たされすやすや。楽しそうにしていたように見えていたけれどやっぱり余所の土地。緊張もしていたのだろう。ジャンくんも今頃馬車の中で寝ているのだろうか?


 そういえばパザンの印象が薄かったなと思いながら、流れる景色に目を向ける。スパイツもそうだけど、あの兄弟はそういう影が薄くなる才能でもあるのだろうか?

 エルミーナでは見かけない赤や青といった鮮やかな色の鳥が飛んでいたりで、他の土地にくると新鮮だ。この後も何度か来ることになるだろうから今度は黄色い鳥を探してみようかな。そうすると信号みたいになるよね。

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