第六十四話 蓮
湿地? 湿原? 詳しくは違いが判らない猫です。難しい事は偉い人に任せましょう。そうしましょう。
自然豊かな草むらの中に、丸太や木の板で作られた道がありそこを皆で歩いて進む。どこかテレビで見たことあるような風景で、ワニが出ると聞いて妹のことを心配していた気持ちも少し落ち着いてきた。
とはいえ、道を外れたところは草むらや水たまりに見えて沼などであり非常に危険らしく気の抜けない状況。
現在俺は前方にてタマやキンガと一緒に移動しているのだが、後ろからはスーやルーといったエルミーナの子供たちが普段見慣れない風景に感動して声をあげている。彼らにしてみると同行する大人がいっぱいいるし、歩いている場所が少々危険でも遠足みたいなものだろう。
「アンバー殿。何か見つかりそうかな?」
「ミャア?」
キンガが話しかけてくる。偉い人はせっかち。そんなにすぐ見つかれば苦労はしないんですよ。というかですね、声かけられるまで目的を忘れていました。めんごめんご。だって素晴らしい風景と、危険な生物がいるという緊張感。落ち着いて植物の観察なんてしていられませんて。
なんて思っていると――
「ミャミャ!」
今そこの草むらがガサゴソって音がしましたよ!
毛を逆立てて警戒モードだ。
「グルルウゥ」
一瞬顔を出したのは大きなヘビだった。日本の自然じゃお目にかかれないレベル。妹なんて丸のみされちゃいそう。更に小さい俺もだけど。
しかしタマが威嚇の声をあげるとすぐに逃げていった。さすがエルティガの守護獣さま。このまま守ってもらっちゃおう。今以上にタマに近づいて移動いたす所存。
「基本的にタマがいれば襲い掛かってくる生物はいない。アンバー殿安心していい」
キンガのおっちゃんさ。それ先に言っておいてよね。エルティガや貴族家では常識かもしれないけど、俺そういうの習ってないんだからさ。エルミーナでもそうでしょって言われるかもしれないけど、たまたまかもしれないじゃん。俺は慎重な男なの!
しばらく進むと、木で組まれた浮島にて足を止める。東屋のように屋根が付いたスペースもありここで休憩タイム。それぞれが荷物から水筒を取り出して水分補給をしている。もちろん俺にも用意されているよ。今日はスーがくれるらしい。運んでたのは使用人の一人だけどそれはそれだよね。
木製のお皿に入れてもらった水をチャプチャプと舌を丸め掬うように口の中へと運んでいく。なぜか妹とタマも俺の皿から飲むんだけどどうしてだい? タマは顔が大きいからスペースが無くなって困るんだけどなあ。
諦めてちょこんと座りタマが飲み終わるのを待っているが、大きな舌で羨ましい。それだと一度にたくさん飲めそうだね。
「はい。アンバーおかわりだよ」
スーが水を追加してくれる。
お代わりって言いますけどね、それ飲んだのほとんどタマなんだよね。なんか俺がいっぱい飲んだみたいになってるけど……。でもありがとう。
飲み終えて顔を上げる。
この先に目を向けると、植生が変わっているみたい。エルミーナでもそうだったが守護獣の影響を受けた土地というのはこういう特徴がある。俺からすると不思議でしょうがないのだが、こういうのは慣れるしかないよね。
ここからは蓮ゾーンなのかな。特徴的な大きな花に、傘になりそうな立派な葉。こっちの葉はやはり大型で、本当に傘として使えそうな感じ。ただ雨を受け止める形状をしているから、水滴が貯まると定期的にそれを流さないとだめだよね。想像するとその間に濡れてしまいそうだ。
それからハチの巣のような花托。本当によく似ている。見た目的には苦手な人もいそうだ。集合体恐怖症って言うんだっけ。
ソックの専属メイドちゃんがハチの巣と間違えているのか指さして驚いているね。安心してと言いたいところだけど、たまに本物が混じってたりするのが自然界の怖いところ。
たしか『ハス』という名は『ハチス』からだと聞いたことがある。誰に聞いたんだっけなあ。ってそうだお仕事をしなくちゃね。
蓮で思い出したけれど、こっちに来てレンコンを見かけていない。俺がいるのはエルミーナなのでしょうがないのかもしれないが、エルティガでは食べられたりしないのだろうか? そこんとこどうなんですかねタマさん。俺が事前に候補としていた植物とは違うけど、これだって使えそうだよ。このあと良さそうなものが見つかるとは限らないし今回は蓮ってことにしちゃおうかな。




