第六十一話 新たなお仕事依頼
「エルティガから招待があってね。子供たちの社会勉強として湿地を案内したいという内容なんだ」
ふうん。そうなんですね。
「だがこれはおそらく建前。実際にはアンバーへのお誘い。今回はジャンだけでなくスーやルーにも声がかかっているからね。目的は植物の調査といったところか。立て続けに我がエルミーナにて貴重な薬草が見つかったため、先方も自らの領地にもまだ見ぬ貴重な物があるのではないかと考えているのだろう」
パザンの説明は続く。
話の内容はなんとなく理解したよ。俺に期待してるんだよね。ティトといったちゃんとした守護獣に要請はできないけれど、俺みたいな守護獣(仮)なら呼びやすいというのもあるのだろう。
スーとルーが行くのなら立場的には同行するのもやぶさかではないが、仮に役に立つ植物を見つけたとしても、単体だと効果はそれほどでもないかもしれないんだよね。どうしたものか。
「のうアンバー。迷うておるようじゃが、頼まれてくれんか? 両家の関係性を向上させるのにウスリ殿の件で距離が近づいておる今が好機なのよ」
カトル爺からの補足。エルナードを除く四家は基本ライバル関係だ。その中でエルティガと関係が向上していれば、しばらくはお互いに配慮し合う同盟みたいな感じになるということか。少なくともウスリが生きている間はさ。
行くとして何も見つからなかった場合、恨まれたり怒られたりしない? 俺怒られるの苦手だよ。耳がぎゅーっと後ろに動いて、ひげもしょぼぼーんってなるんだ。猫って繊細なんだから。
嫌な想像をしているとティトがお腹に匿ってくれて、毛づくろいをしてくれた。ティトは食いしん坊だけど優しいよね。俺に対して本物の母猫よりお母さんしてる気がする。お返しにこちらもザリザリとする。俺の小さな口だと、舌に絡まるティトの毛が立派でケホケホなりやすいのは困りもの。
「もちろん報酬が出るはずだ。なければこちらで用意する」
ぴこぴこと耳を動かしパザンの声を捉える。
ほほう。報酬ですか。その言葉大好きです!
換金が大変だけど金貨は大好物ですよ! あと先日いただいたあの羽毛布団。妹に取られないか心配でちょっと悩んでたんだよね。あれがまたもらえたりするかな?
「その目はやってくれるようじゃな」
カトル爺とはもう一年以上の付き合いだからね。急にやる気になったことが伝わったようだ。
そんなこんなでまたもやエルティガに行くことになってしまったほどほどに働く猫なのである。
当然即日というわけではなく、相手に返事を書いて予定をすり合わせてからになるらしい。その辺りは俺の管轄じゃないので予定日が決まったら教えてくださいな。
俺が行くことになってホッとしている様子のパザン。
今回急にパザンが出てきたけれど、カトル爺もそろそろ当主交代を考えているのかな? ウスリが体調崩してたりというのを見て、そういう判断をしたというのも頷ける話。でもカトル爺はまだ五十歳くらいだから元気いっぱいなんだよね。日本の感覚がある俺としては早いような気がする。高齢で働かれている立派な人も見ているしさ。立場だけあって寝ている人もいるけど……。
要件が終わればパザンは部屋を出て行った。早速エルティガへの返事を用意するのだろう。見た目もそうだが肉体派というか行動派。だから今回そんな彼が真面目に話をするのを見ていて可笑しかった。そのうち慣れるんだろうけどね。
「あのジャムのと、アンバーみたいなのがおいしかった!」
ルーは帰りの馬車でもお菓子の話。普段はおねむになってウトウトしていることが多いのに、今日は違うみたいだ。少しずつお姉さんになりはじめているのかな?
話の中に出てきた俺みたいなのっていうのは猫の形をしたクッキーだろう。お遣いで何種類か買った記憶があるのでそのうちの一つだと思う。
「僕は茶色の方が好き」
スーは大人だね。チョコレートが好きみたい。でも黒じゃなくて茶色ってことは、ミルクチョコレートかな。やっぱりまだまだおこちゃま。
馬車から外を眺めていると、以前より大きくなっている果樹が目に入った。あの樹が立派な実を着けるのと、スーやルーが一人前になるのどちらが先だろう。その頃には俺も大きくなれているかな。慣れているといいな。




