第六十話 パザン
久しぶりの快晴。雨が上がった次の日って結構こういうことがるよね。台風とかもそうだっけ。前日までが暗かった影響でそう感じやすいだけなのかな。詳しい人に聞いてみたいけれど、ここには気象予報士や詳しい人がいない。
ご機嫌で中庭に出ると、花の上に残った水滴が光を反射して輝いている。でもそれを見ているとわざと傾けることで下に落としたくなってしまう。猫になっていると、こういった子供っぽい感情がわいてくる。
「アンバー様。隣失礼します」
ベテランメイドの一人がやって来て一緒に花壇を眺める。きっとどこかに飾る花を選んでいるんだろうね。でもこの花壇を管理しているのは別の使用人。この後リクエストを伝えて用意してもらうのかな。担当が細かく分かれたりしているので貴族の屋敷で働くって大変そう。
更にはブーンと蜜を集めるハチまでやってきた。花壇は大賑わいだね。
人間の時はハチを見ると警戒することが多かったのだが、猫になってからは変わった。標的というかおもちゃに見える。ペシッと叩きたい衝動にかられるのだ。だからできるだけ意識しないように心がける。
「こちらにいらっしゃいましたか」
いつのまにかアミーまで隣に来ていて、しゃがみこみながら声をかけられた。どうも俺を探していたみたい?
「カトルカット様から連絡がありました」
月に何度かカトル爺から呼び出しがある。だからこういった短い言葉で伝わる。呼び出しの理由は、ここ最近だと他家との問題が一番多い。エルナードとのやり取りとかね。でもカレーはラーナツに任せてあるし、アロエだってバーマンたち護衛の人たちが集めに行ける。俺に用事ってなんだろうか。
他となると、ときどきただの話相手だったり、孫のスーとルーに会いたいからおまけってこともある。ティトと遊ぶだけの日もそうだっけ。ともかく行ってみなければわからない。
いつものように玄関まで運ばれると、今日は双子もいる日のようでセーラも一緒だった。
「今日はアンバーも一緒だね!」
「ねっ!」
近頃スーとルーは、カトル爺のいる本館に行くことが前以上に楽しみになっている。理由は甘やかしてくれるから。文字通り俺の持ち込んだチョコレートやクッキーといった甘い物をいっぱいカトル爺が用意して迎えてくれるのだ。そりゃ俺だって二人の立場ならルンルン気分だろう。
双子がご機嫌だとカトル爺もご機嫌。いいことなんじゃないでしょうか。
今日もまたメルヘンチックな馬車に乗り、ところどころぬかるんだ道を通りながら本館へと向けて馬車は走る。道中はすでに見慣れた風景になっているけれど、スーといるときは一緒になって普段見慣れない使用人を見つけたりと楽しむ。間違い探しや宝探しの気分。
対してルーは付き添いのメイドやセーラと話していることが多い。今日の話題は、もちろんこの後口にするであろうクッキーについてだ。ルーの語るものと、セーラが話している内容が若干かみ合ってないというか、違うお菓子をさしていそうだけれど黙っておく。それ即ち、食べている商品の値段の差なのだから。
本館についていつものように迎えられると、またすぐに執務室に連れて行かれる。今日はティトに首を咥えられての強制連行。これ別に怒っていたりというわけではなく、早く猫用おやつを出せとの催促である。でも今日は付き添いがいるので商品持っているの俺じゃないのになあ。
「アンバー久しぶりだな」
「ミャ」
部屋に入るとパザンがいた。パザンはがっちりした体格で、茶髪の男性。顔はスパイツによく似ている。要するにカトル爺の長男であり、エルミーナの次期当主様。
これまでなんどか顔を合わせたことはあったのだが、俺はあくまで双子の守護獣(仮)なのであまり接点の無かった相手。息子のジャンくんは元気だろうか?
「早速相談が……と言いたいところじゃが、ティトに怒られてしまうでな。アンバー先にそっちを頼む」
持ち込まれたちゅるるんとしたおやつを絞りながら、今日呼ばれた訳を考える。普段はカトル爺とシェバスだけのことが多いのに、パザンがいるのは予想外。
考え事をしていると超能力の勢い余って中身が飛び出てしまった。「あっ!?」と慌ててティトの顔を見ると大変なことになっている。でもティトは気にせず嬉しそうにペロペロしてるのでセーフ。鼻付近についてるのもしっかり舐め取れている。ずいぶんと立派な舌をお持ちで。
それにしてもティトが大らかな性格で良かったよ。レディ相手に考え事しながらは失礼だし、今後気をつけないとね。




