第五十九話 濡れる猫
肌寒い朝でも高級羽毛布団があれば快適な目覚めに変わる。ただし布団から出てしまうと効果がなくなるのが困りもの。
今日も天気はどんよりで、小雨が降っている。毛が湿っぽくなると力が出ない。まるでどこかの顔がパンで出来たのキャラのようだ。
ベランダからミミズクのいる中庭を見るが、この様子だと行くまでに濡れてしまいそうであまり行きたくない。けれど管理する者としてはいかざる負えない。誰かに傘をさしてもらうというと手もなくはないが、猫と人間じゃサイズが違いすぎるから普通に相合傘ではダメ。となると抱えてもらうことになる。
さすがにそこまでしてもらわなくてもいいかなということで、結局自分が濡れるのを我慢するという判断に落ち着いた。
今日はまだ自分の朝食は用意されていないので、先に厨房に行きミミズクの方を終わらせる。暗いせいかこんな日は廊下がいつも以上に殺風景に見える。途中にお花を飾るといいかも。
「おはようございますアンバー様。朝食はもう少しお待ちください」
「ミャ!」
挨拶はしっかり返そう。人付き合いの基本だからね。眠いとおざなりになるけれど、そこは見逃して頂くということで。
ラーナツは料理人なので朝早くても起きている。しかも元気だ。助手のマードやスティの方が若いのに眠そう。夜遊びでもしてたのかな?
厨房で肉を受け取ると、一応メイドのところにも顔を出す。今日の妹の成果は無し。まだ寝ているらしい。今日は寒いし気分が乗らないのかな。起きた時の俺と同じ。さすが兄妹だね。
ということで、現状の食材のみで中庭に突撃。
中庭に出てすぐの花壇には雨に濡れて嬉しそうな植物もいれば、陽が差さないから元気のない子もいる。御寝坊さんもいるかもね。夜の間に花を咲かせるなんて種類もあるみたいだし意外と個性的。
途中ベンチの下をくぐって少しだけ雨宿り。街中でお店の軒下を渡り歩く人間のような行動。姿は違っても濡れたくないのでやってることにそれほど違いはない。
噴水の水魚たちも今日はのんびりモードみたい。頑張らなくても水が勝手に補充されるからか、単純に水温が低いからなのかどっちだろうね。
林の中まで来ると、木が傘となるので直接濡れることは減る。ただし上から落ちてくる水滴は塊となっているので道中よりも凶悪だ。しかも突然頭上から落ちて来るので中々気付けない。すごくビックリする。
ミミズクは立派なお家を持っているので濡れたりはしていない。その形はどこかラーナツの事件を思い出させる。こういったものが似てくるのはしょうがないことだよね。人間の住む家だって、基本的なパターンてものがあるし気にし過ぎてはだめだ。
ご飯を与えると、足で押さえつけてくちばしで小さく引きちぎる。その際目が細まるので笑っているようで、見方を変えれば一種の恐怖映像。俺は慣れているけれど、メイドの中には耐えられない人もいるかも。
ずっと見ていると時間がかかるので、ここらで俺は部屋へと帰らせてもらう。まだ自分の食事も終わっていないし。
来た時と違い一目散に屋敷までダッシュ。本気で走れば俺も結構速いのだ。
到着すればそこで待っていたアミーに捕まる。別に悪いことをしたわけでもなく、体を拭いてもらうだけ。
「お勤めご苦労様です」
「ミャア」
昔のヤクザ映画のような労いの言葉を受けつつ、ふきふきしてもらうとようやく朝食の時間。
部屋にはすでに用意がされていたので、あぐあぐと上品にいただく。やはり食事時は妹というライバルがいない方がよい。
それが終わると、スーとの朝練。今日はこんな天気なので、室内か軒下からの練習になるかな?
今日は訓練場ではないので、ゆっくりと動かすコントロールの練習中。そんなスーが作った水球目掛けて妹のソックがジャンプする。浮いている物、動いている物に反応するのは猫の本能。俺も少しだけ身体が勝手に動こうとするけれど、兄の威厳で耐えている。
「あっ!?」
上手く水球を操作して当たらないようにしてくれていたスーだが、予想以上に妹の動きが鋭かったようで失敗してびしょ濡れ。
びっくりした妹がどこかに走り去って行き、専属メイドちゃんが必死で追いかけていった。
スーが申し訳なさそうな顔をしているけど、気にしないでいいよと伝えたい。安全な場所でなら妹は少しくらい痛い目にあったほうがよい。その方があの子のためにもなる。だからルーみたいに一緒に笑えばいいんだよ。




