第五十七話 お灸
「熱くはございませんか?」
「うむ。大事ない。じんわりと温まっておる」
今日は朝からウスリの治療のためにエルティガにやって来ている。行っているのはお灸だ。ゆったりとした椅子に腰かけたウスリにまずはお試しということで新門と呼ばれる手首あたりで実験中。
事前に自分たちが身をもって試したというのに、彼ら使用人たちは心配そうにウスリの様子を窺っている。それだけウスリのことを思っているのか、俺に信用がないのか。別に体に悪いものじゃないのにね。
とはいえこういった治療は扱いを間違えると良くないというのも事実。でもちゃんと事前にツボについて学んできているのだ。あっちに戻っている時にネットで確認したもんね。あとマッサージ師のところでいくつかの説明も受けたしバッチリ。たぶん!
なのでウスリの手をフミフミの要領で押してツボを確認後、そこへ超能力でお灸を配置した。
そうそう。俺の頭の中でのお灸といえば、もぐさを某たけのこのお菓子みたいな形にしていたもので止まっていたわけ。今回調べてみるといくつか種類があって驚いた。しかも現在の主流は台座灸というやつでペタッと貼り付けられる便利な物に変わっていたのだ。普通に生活していると中々お世話になる機会なんてないからね。俺が知らなくても仕方のない事だと思うんだ。
「ふむ。体の調子が良くなってきたぞ」
「ミャ? ミャア?」
え? 本当に? さすがに早くない?
もちろん今回ここへ持ち込む際に、エルミーナの屋敷でもお灸は試していた。ラーナツを検体として俺が持ち込んだ物、以前採集していたよもぎに薬師が乾燥などの手を加えた物、その両方を合わせたブレンド物と三種類やったところラーナツ曰く一番効果が高い気がしたのがブレンドだというのでそれを持ち込んでいる。
しかしその際には劇的な変化はなかったはずなんだけど……。
ともかく本人がよくなっていると言うなら続けますかね。たしか冷え症もあるって言っていたはず。次は太渓という足首付近のくぼみへ。やりやすいように足置き台を設置してそこに乗せてもらう。こうすると足を寝かせやすいのでお灸を乗せるこちらとしても安心だ。使い慣れていない物はどうしてもしばらく疑ってしまう。火事になったら大変だしさ。猫になって警戒心が強くなっているから、余計にその傾向にある気がする。
「不思議なものじゃな。力が抜けるようでもあり、漲るようでもある」
ラーナツはそんな感想言わなかったな。なんでだろう?
ウスリの言葉を信じるならば今の方が効果が高そう。
違いは、症状の深度?
体調の悪い方が効果が出るということでいいのだろうか。当たり前といえば当たり前なんだけどね。ちょっと効きすぎていて腑に落ちないような気もする。俺は疑り深いのだ。
ルナリアのアロエの時もそうだけれど、もしかするとこちらの植物の効果が凄いのではなくて地球産の物と合わせると効果が増すってことなのかな?
首を傾げたり、時々毛づくろいをしながら考え事をしているとお灸はしっかりと燃えて終わりを迎えていた。
「アンバー殿。ずいぶんとよくなった気がする。感謝いたします」
「ミャ!」
「どれ。少し動いてみるかな」
そう言いながらウスリが立ち上がろうとすると、使用人たちが慌てて支えようとする。しかし立ち上がった彼の背はゆっくりと伸ばされ、歩く様は年相応にやや慎重とはいえスムーズ。
「ははは。ずいぶんと足が出やすくなったな」
そう語るウスリは嬉しそうだった。もちろん見ている使用人たちもね。ある程度効果が出てなによりだ。
気づけばお昼が近くなっていたこともあり、ウスリに誘われて一緒にお食事タイム。俺のメニューは、タマと一緒で水鳥のお肉。普段の物よりも油が多く甘い印象。水場が多いので養殖とかしているのかな?
味は非常に満足なんだけど、さすがにタマと同じ量は無理なのでお残ししてしまった。残ったのはお土産で包んでくれたので帰ってから妹にも分けてあげよう。
肝心のウスリはいつもよりたくさん食べられたんだって。
たくさん食べられて偉い!
食べて褒められるのは、子供と年寄りくらいだよね。あとは病人か。
そんなわけで無事初回の治療を終えることができた。いくつかお灸を渡しておいたので、あとは使用人たちが俺の用意した手書きの図を見て試していけばいいと思う。足りなくなったらカトル爺を通じてまた連絡が来るのかな?
在庫管理の問題があるので、その際はお早めにお願いしますよ!




