第五十六話 満月の日のお仕事
はあ。やだやだ。休み明けで仕事に行かなければならない時のあの憂鬱な感じ。何回同じことを繰り返しても慣れはしない。逆に休日前になると頑張れる気分になるのもあるけどさ。でもあれゴール前が長く感じるんだよな。
そんなわけでごっそりお土産持って帰って来ました。漫画じゃないんだから鞄いっぱい身に着けた上で両手に袋を持つとか。熱意溢れるコミケ帰りの人よりもすごい格好なのではないだろうか。
「づかれた。休憩がてら糖分でも補給しますかね」
ウルシが守ってくれている倉庫で荷物を降ろし、スポーツドリンクをグビグビと飲む。移動する前に部屋で飲んでおいてもそう変わらないはずなのだが、湯上りのように終わった後に飲む方が個人的に好み。
「おっ。ウルシおいで。お土産あるぞ」
俺の気配を感じ取って黒猫のウルシがやって来る。座って胡坐をかいていると、膝の上というか窪みにすっぽりと埋まるようにポジション取りを行う。寝てる時もそうだけど、この子はなぜか股間辺りに来るんだよな。温かいからかね。
包装されている部分を剥いでいれば、音を聞いてウルシの耳がピコピコと反応した。彼女はこの後に起きることがわかっているので、赤い瞳をこちらに向けて「はやく頂戴」と訴えかけてくる。
お金に余裕が出始めてからはおやつをいろいろ用意してやるようになったのだが、ここ最近は丸いボールになっているのが好みらしい。たぶん歯ごたえが気に入ってるんだと思う。噛むとガリッという音が響いている。
すると俺は近くにスナック菓子を食べている人がいる感覚になり、似たような人間用のチョコでコーティングされたお菓子を一緒に食べるまでがセット。他人が食べている音ってなんであんなに美味しそうなんだろうね。いや、原理っていうか理屈はわかるんだけどさ。
一緒にクエックエッとした後は、今回持ち込んだ物の仕分け作業。全部が全部ルアナの手に渡るわけではないのでね。
わざわざこっちでやる理由は、最初から渡す相手を考えてそれぞれに分けるのはサイズや重さも違うので持ち運ぶ際の効率が悪いから。さすがに何度も繰り返していれば効率化がはかられる。
チョコレートは溶けやすいので自作した保冷できる木箱に詰める。あまり冷やしすぎるのも品質が変化しそうなので溶けない程度でほどほどに。
こちらの世界だと雪を生み出すオコジョを使った大型冷蔵庫や冷蔵車なんてものがあるんだけれど、多少稼ぐようになっているとはいえ当然俺個人が買えるはずもない。だから代わりになる物を自作した。ホームセンターで木材を購入し、その場でカットしてもらえたのであとは組み立てただけ。最初から出来上がったものを買えという話だが、隙間を加工してちゃんと冷気が逃げにくくしているのだ。作ってる時は少し楽しかった。
「常温で保存の効く物はいつも通りにここで保管だな。雪オコジョがいると要冷蔵の物も扱えて便利なんだけど、ないものねだりってやつだよね。さてノストスに渡して後は任せるかな」
木箱二つ分の土産を詰め終わると、すぐに荷車にて運び出す。ノストスに渡せば明日にはエルミーナの屋敷に届くことになる。
倉庫に帰ってくれば後は深夜までの自由時間。
まずはウルシとしばらく遊ぶ。そのあと一か月分のご飯を用意して、残り物を棚へと収納。
残り時間は今回持ち込んだ薬草のわかる本を眺める。一応事前にエルティガの前当主ウスリのための知識は仕入れて戻ってきたが、せっかく森や山に入るのならこういった知識は多い方がいい。
途中食事で外に出て、ついでに市場で魚も買ってくる。もちろん魚はウルシのための物。渡すといつも半分だけ食べて残している。これが明日の分なのか、子分がいてそいつらにやるのかは俺にはわからない。
そうして日暮れが近づくと仮眠に入る。この後は深夜に起きて、屋敷に戻らなくてはならない。忙しいような、そうでもないような。そんな満月の日の一日。




