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先代様の置き土産  作者: 鈴寺杏


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第五十五話

 以前ヘムテイロ氏の講義の際に覚えた位置関係から言うと、ギールが当主を務めるエルナードを中心として北西にエルミーナ家が管理する地域があり、エルティガはというその南。南西側を治めている。

 

 エルミーナとエルティガの境付近までは似たような草原や丘なんかが多いのだが、南に進むにつれて水場が増え始める。エルティガはそんなちょっとばかり水気の多い場所に街を構えていた。


「カトルカット様。お久しぶりにございます。ようこそお越しくださいました」


 エルティガの執事がカトル爺に丁寧な挨拶をすれば、入り口に並んだ使用人たちは一斉に頭を下げる。緩い感じのエルミーナに比べて、エルティガはしっかり教育が行き届いている。


 屋敷は少し高い位置に建てられていて、開放感があるのが特徴的。俺の住むエルミーナや、中心にあるエルナードとはまた違った雰囲気。


 カトル爺が語っていた通り、ライバルとはいえ嫌い合っているというわけではないようですんなりと中に通されると、ウスリという前当主のところへと直接向かうことに。

 まず室内に入って目についたのは、天井に付いているファン。クルクルと回転しているのだが動力が鳥なのだ。初めて見た。

 全体的に何となく涼し気。

 

 肝心のウスリは、茶色い髪色の威厳のある雰囲気の初老男性。ちょっと頭が薄くなり始めているが体格が良いのであまり気にならない。ただ話にあったように体調がすぐれないのか、椅子にもたれるように少し楽な姿勢を取っている。


「カトルカット殿。久しぶりだというのにこのような姿で済まぬな」


「お久しぶりです。ウスリ殿。調子はいかがですか?」


 二人は当たり障りのないやり取りから始め、いくつか言葉を交わすと俺の紹介という流れになった。


「孫がアンバーと名付けました」


「ほお。アザー殿によく似ておる」


 最近あまり言われることのなかった、先代様に似ているという言葉。エルミーナで生活を初めてまだ一年半ほどなのに、こう言われることがすでに懐かしい感じがする。


 そして話の流れは自然とルナリアの件へ。俺が見つけてきた植物でルナリアの火傷の痕がよくなり始めたんですよって内容が語られる。すると「素晴らしい成果だ」と返される。


 ふふん。そうでしょう。そうでしょう。俺は立派なのだ。功績を存分に語ってちょうだいな。お世辞だろうと嬉しいものです。


「ではアンバー殿。このウスリにも何か体に良い物を頼みます。まだ息子や孫たちのことが心配なので死ぬわけにはいかんのです」


「ミャ!」


 しょうがないですね。そんなに言うならまた探してみますよ。カトル爺が世話になったみたいだし、いっぱい褒めてくれたからね。特別だよ?


 ウスリの体調について詳しく語られたのだが、相変わらずというか医者でもないので何が原因なのかわからない。頭痛や体が冷えるといった症状なんだって。やっぱり老化じゃないですかね?

 でも頼られたから何か一つぐらいは用意してあげないと。


 じゃあ、そろそろ失礼しますかねってところで、エルティガの守護獣がのっしのっしと部屋にやって来てしまった。黄色に黒い縦縞といえばそう、阪神! じゃなくてトラ。


「おや。タマも挨拶に来たか」


 タマ!?

 トラなのにタマ……。

 急に親近感がわいたような気が。でも姿を見ると強そう。守護獣ってみんな大きいから食べられそうで怖いんだよね。


「グルルルゥ」


「ミャミャ!」


 挨拶。挨拶は大事。

 こんにちは。か弱い猫のアンバーです。食べ物じゃないよ。


 いつものように近づかれてにおいを嗅がれた。

 俺のお尻に興味がおありで?


 首の付近をベロベロと舐めてくれるので俺はなすがまま。直立不動。日本では長いものには巻かれろっていうしね。更には俺はこっちの世界に来て学んだ。大きいものにも巻かれろってね。


「タマもアンバー殿が気に入った様じゃな」


 気に入られるのは良い事。カトル爺とウスリみたいに仲良くしましょう。


 しばらくしてようやく解放されると、挨拶をして帰宅。

 いつものクッションに飛び乗ってリラックスタイム。


 ウスリのことを考える必要があるけど、それは明日以降にしよう。きっと明日の俺が何か良い案を見つけてくれるはずだ。だって俺は優秀なのだから。


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